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黒田龍之助著「世界の言語入門」

著者は白水社の「出版ダイジェスト」で語学書の紹介を書いている大学の先生として知っていたのですが、本を読んだのは初めてです。で、今は大学をやめて「フリーランスの語学教師」をやっているのだということを知りました。

世界の言語のうちの90について、それぞれ見開き2ページで紹介する、という画期的?な本。とは言っても、2ページでその言語の文法的構造とか特徴を説明できるわけはない。そういうことが書かれている場合もあるけれど、それよりもむしろ著者のごく個人的な思い出とか、個人的に面白いと思ったこととか、とにかく個人的なこと中心。

でも面白いんです。

著者自身の言語に対する限りない愛情があふれているから。


著者のスタンスは「前書き」で明らかにされています。
言語一般の法則がまずあって、それを個別言語に適応させていくような演繹的方法ではなく、個別言語をたくさん見つめながら、そこから何かをつかんでいく帰納的方法こそが、言語学であると信じている。時代遅れかもしれないけれど。
最近の言語学者は、個別言語をたくさん勉強しない。言語学習は二つ三つでよしとして、あとは理論の追究に時間をかける。それでいいのかなあ。わたしにはやっぱり、具体的な言語を学ぶところから、言語学は始まる気がするのだ。

おお、よくぞ言ってくれました!

言語学研究のとば口で引き返した私ですが、それはあくまでも自分の能力に見切りをつけたため。でもそれ以上に私を失望させたのは、具体的な言語をたくさん知りたいという意欲のある人に出会えなかったことなのです。
出会った人のうち、半分が「日本語+英語+その他一言語=計三言語」やってる人、残り半分は「日本語+英語」だけでした。
そして新たな言語を学んでみようという空気はまったくなかった。
具体的な言語に興味がないわけじゃなかったんだろうけれど、みんな理論研究に忙しすぎるということだったのでしょう。
私自身、四つ目の言語であるドイツ語を始めることができたのは、お茶を濁しながら修士を出て(先生、あんなひどい論文通してくれてありがとうございます)、晴れて社会人になった後のことでした。

新しい言語を学ぶと、新しい地平が見えてくる。
覚えるのは大変だし、慣れるのにも一苦労。
でも、その面倒くさいものを苦労しながら使っているうちに、それまで気づかなかった何かに気づく。
その感じが好きなんです。

五つ目の言語だったイタリア語を中断してしまってからもう10年になります。
日本語でものを書く楽しさを知ってしまったのがその最大の理由。なにしろ日本語は自分で推敲できる。この気楽さは母語ならではのものです。外国語は永遠にネイティブのチェックを受けなくてはならないのですから・・・。

でもこのままでいいのか。
日に日に脳細胞が死につつあるのを実感する今日この頃であるだけに、「失われた10年」の大きさに愕然としました。

今から新たな言語を学ぶことはできるのか。
自信はないけれど、できるだけのことはやってみよう。

ではどの言語をやる?

何を選んだのかはおいおい書くことにします。
とにかく、この本をきっかけに、アマゾンをかなり潤したことは事実です。

この本に関する情報はこちら

by foggykaoru | 2008-12-08 21:40 | バベルの塔 | Trackback | Comments(12)

Commented by ケルン at 2008-12-09 00:06 x
この人の連載、面白いですよね。本は読んだことないけれど。
私は今、3つめの言語と格闘していますが(その間に2.3と2.7くらいが各1)、英語にとらわれているなあ、とよく感じます。インドヨーロッパ言語系は、英語を知っていると助けられる反面、英語から抜け出せないというか、しょせん自分の英語の能力の範囲から出られないというような感じです。(あと、もちろん、自分の集中力が足りないのが一番の理由なんですけれど)
 前に何かで、独学でスペイン語を学んでいる会社勤めの女性が、一年がかりで一冊スペイン語の本を読むのがうれしい、と読み、この根気を見習わなくてはと思いました。
Commented by hami_tree at 2008-12-09 00:23
ずっと前にテレビで見た70歳過ぎの男性のことを思い出しました。
スペインに行ってみたいと思い、4年間スペイン語を勉強してから旅立ったそうです。
その人は外国に行く場合はかならずその国の言葉を勉強してからと決めているのだそうです。
しかし失礼ながら、若者ならともかく、60~70という年齢で語学勉強に3,4年かけていたら、
下手すると病気して旅行に行けなくなるということは考えないのかしら?と思っちゃいました。
確かツアーに参加しての旅行だったから、勉強しなくてもそんなに困らないはずだし。
でもきっと、そうして目標を決めて学ぶ事が楽しいのでしょうね。
今も昔も勉強をしない私は、頭があがりません。
Commented by foggykaoru at 2008-12-09 20:46
ケルンさん。
いちばん得意な外国語に助けられつつ、とらわれるのは当たり前のことだと思うんです。
学生時代みたいに集中して勉強するわけにはいかないけれど、とりあえず、続けていけば、それなりになじみになる。それでいいんじゃないかなあ。(と自分に言い聞かせているところ(苦笑))
Commented by foggykaoru at 2008-12-09 20:47
はみさん。
>その人は外国に行く場合はかならずその国の言葉を勉強してからと決めているのだそうです。
偉いなあ。
私も最初はそうだったんだけど(遠い目)
Commented by sugachan2 at 2008-12-09 20:52 x
この本、面白そうなんで買ってしまいました!
特に日本の場合、外国語=英語という認識が強すぎて、本当は違うのに。。と思う事があって、この本を読めばどのくくらい違うのか、実感できるかと思いまして。。まだまだ読めそうもないですけど楽しみにしています。
私自身はあまり外国語を使うことはないんで。。。
でも、NHKラジオのスペイン語講座を2年間聴き続けて(会社の駅から会社までのあいだ)ほんのさわりがわかりかけたことがあります(勤務先が変わってラジオをきかなくなったらあっというまに忘れましたが。。)
Commented by Titmouse at 2008-12-09 23:53 x
面白そうな本ですね。
私は学生のときに5つ目の言語まで一応やってみたけど、3つ目以降は忘却のかなたですね・・・。でも他の言語をやると英語で当たり前と思ってたことがそうじゃないとわかったりして面白かった記憶があります。今は興味はあっても頭に入らない(汗)。かおるさんのチャレンジ、すごいです。
Commented by とーこ at 2008-12-10 12:43 x
先日のメアリポピンズがまた見付けられないるのですが、今日からは講談社新書の棚も一緒にのぞくことにします。

職場をリタイアした70代のおじいさんに久々にお目にかかったら、今は3年目のNHKロシア語講座を見て勉強中とのことでした。「この年齢になると1年目では絶対に覚えきれずついていけなくなるんだが、そこであせらずとにかく見続けること。石の上にも3年とはよく言ったもので、3年目になるとこの70のボケ始めた頭でもちゃんとわかるようになるんだよ」と言われたことがとても印象的で。
以来いつか時間ができたら(ってこれがいけないんだけれども)また何か言語をやりたいと思っています。

でも思うのですが、一カ国語について逐語訳せず話せるような回路ができると、カタコトの言葉でも咄嗟に無理矢理しゃべろうとする回路というか無謀な反応というか…が出るようになりませんか? それが3カ国語目からは何となく学び方が変わる(というか日本の学校の英語教育に問題があるからかもしれませんが)ような気がします。でもその結果「テ・コン・レチェ・シルブプレ」みたいな滅茶苦茶ことを咄嗟に口走ったりしますが。
私は言葉が混ざってしまってだめです。 
Commented by サグレス at 2008-12-10 18:00 x
はじめたばかりのラテン語で早くもつっかかっていますけれど、ヨーロッパ語の中でも英語が相当に例外的というか、省略に省略を重ねた言語なのだ、ということが分かっただけでも楽しいです。

フィジーに行った時、フィジー語についての小冊子を読んでびっくりしました。「we」に当たる言葉が、「私とあなた」「私とここにいない第三者(1名)」「私と2人以上の人」で、それぞれ別なんです。概念が違うのが面白い!と思いました。

帰納的言語学、素敵ですね。私にとっての生物学は、やはり帰納的なものですから(これまた流行らないんだな 笑)、共感が持てます。
ただ、多くの言語を習得しなくてはならない分、言語学で帰納的な方法を取るのはものすごく大変そう!
Commented by foggykaoru at 2008-12-10 20:04
sugachan2さん。
この本は、どんなにマイナーな言語も、英語も、すべて平等に2ページで書かれているというのがすごいところです。
それをすごいと思ってしまうのが間違いなのかな?
Commented by foggykaoru at 2008-12-10 20:06
Titmouseさん。
さすがー
大学時代にそんなにいろいろ勉強したんだ。。。
今は頭に入らないというより、その場では頭に入るんだけど、すぐ忘れちゃうんですよね。。でもまあ、毎日ちょこちょこやっていけば、少しは残るだろうと信じてやってみます。
Commented by foggykaoru at 2008-12-10 20:23
とーこさん。
>それが3カ国語目からは何となく学び方が変わる
おお、とーこさんもそうお感じになりました?
私はドイツ語を勉強するとき「♪この道はー いつか来た道ー」という歌が頭の中をかけめぐりました。つまり、三つ目にしてようやくヨーロッパ言語の回路が頭にできあがり、身につける方法みたいなものも体得したみたいな。
私は日本の学校英語にはあまり否定的ではないんです。ただ、あれだけじゃ不十分なだけで。
>私は言葉が混ざってしまってだめです。
混ざるのはごく当たり前のことだと私は思います。
そんなことを恐れてちゃダメよん。
Commented by foggykaoru at 2008-12-10 20:34
サグレスさん。
>ヨーロッパ語の中でも英語が相当に例外的
そのとおり!
まず英語は文法が無さすぎます。
だから、英語から他の言語に入るのは大変。その逆は楽。
だからどんどん英語一辺倒になるのかも。。。
発音上も、英語というのはヨーロッパ大陸の言語(とは言っても私が知っているのは西欧の言語に限られるけれど)とはかなり違います。
だから英語訛りのフランス語とか、ものすごくキモチワルイ。日本語訛りのほうがマシ。
>言語学で帰納的な方法を取るのはものすごく大変そう!
確かに。
でも、言語学者だったら、せめて日本語と英語以外にヨーロッパの言語1つとアジアまたはアフリカの言語1つぐらいは知っていてほしいです。
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