「天使の歩廊--ある建築家をめぐる物語」

中村弦著。今年度の日本ファンタジーノベル大賞受賞作。候補作品の中でダントツだったそうで、即受賞が決定したとか。

その内容は・・・帯に書かれたコピー以上のものは書けません。まさにこのとおり。
天使の幻影に魅入られた造家師と、その優しい奇跡に酔いしれる人たちの華麗な輪舞曲
造家師というのは、今でいうところの建築家。
要するに天才建築家と、彼に家を注文した顧客、そしてその家の物語です、、なんて言い方すると、夢もへったくれもなくなってしまう(苦笑) 私の紹介なんかよりも、実際に作品を読んでみてください。コピーがいかに的確であるかがわかるはず。

建物というのはその中に住む人、あるいは一時的であってもその中に身を置く人に、なんらかの影響を及ぼすものです。

たとえば旅の宿。居心地の良い宿と悪い宿の違い。これはアメニティーが整っているかどうかなどということとは全く次元の異なる問題だと思います。スタッフの心遣いも大きく影響するけれど、それはおいといて。
そこに身を置いたとき、ほっとする空間であるかどうか。
私が今までに泊まった宿の中で、最高に居心地がよかったのは、上海の浦江飯店。あまりにも居心地良くて、うかうかしていると観光に出かけそびれるほどでした。(携帯で撮ったピンボケ写真はこちらのページの下のほうにあります。)
その次に印象に残っているのは、南仏アルルのホテルの、部屋、じゃなくて階段。毎日上り下りするたびに感動してました。(写真はこのページの一番下。)

日本では残念ながらそういう体験をしたことはない(というか、私は日本ではほとんど旅をしないのです)けれど。
あっそうだ、表参道ヒルズにはちょっと感動しました。なだらかなスロープで地下におりていく周回路と吹き抜けに。あそこは屋内で散策が楽しめるという点で、稀有な建物ではないでしょうか。バリアフリーとかいった配慮を優先する人には評判悪いだろうけれど。それに、あの建物はただ散策されるだけではダメなんですよね。買い物しようという気にさせなくてはならない。そういう意味ではあまり成功していない?

話がずんずんそれてしまいました。

この小説は短編集のような体裁で、それが最後にはひとつにまとまります。
短編は二つのタイプに分かれます。
「天才建築家のたどった人生のエピソードに関するもの」と「彼が建てた家に関するもの」に。
私が好きなのは後者です。それぞれ温かい余韻に包まれている。特に「忘れ川」の最後の一文が好きです。

「ファンタジー」という点を重視するなら、建築家自身をあまり登場させないほうがよかったのかもしれない。つまり、彼の人生を謎に包まれたままにするほうがよかったのかも。

でも、もしそういう形だったら、逆に欲求不満を覚えたかもしれない・・・。かもしれないどころか、絶対にそう。

小学生のころ建築家になりたかった私は、住宅がポイントになっている小説では間取り図が無いことを物足りなく思うことがままあるのですが、この小説に関しては、そういう不満はありません。というか、この場合、そんなものがあっては台無しです。

建物が好きな人、ノスタルジックな雰囲気が好きな人に特にお薦め。
歴史好きにも。

この本に関する情報はこちら

著者の中村弦氏に興味のある方はこのページをご覧ください。
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by foggykaoru | 2008-12-11 21:16 | 普通の小説 | Trackback(1) | Comments(13)

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Tracked from 粋な提案 at 2009-01-08 02:34
タイトル : 天使の歩廊ある建築家をめぐる物語 中村弦
装画は中村豪志。新潮社装幀室。第20回日本ファンタジーノベル大賞受賞作品。 矢向丈明は生者と死者が一緒に暮らせる家の依頼で、同級生の笠井泉二を訪ねます。 明治・大正期、異能の建築家・笠井泉二と依頼汐..... more
Commented by むっつり at 2008-12-12 07:04 x
造家って言葉、良いですね
建築と言う言葉はねなんとなく無機質
血が通い、感情に溢れているような気がします
Commented by foggykaoru at 2008-12-12 20:51
むっつりさん。
「アーキテクチャー」の翻訳語が「造家」→「建築」と変わったのだそうな。
必ずしも「家」を作るわけではないからなのでしょうね。。。
Commented at 2008-12-12 21:21 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Titmouse at 2008-12-12 22:39 x
あ、出たのですか! 知らなかった~。探してみます。
Commented by ケルン at 2008-12-12 23:16 x
このところ、本屋へ行っていなくって・・・
明日、本屋街へ行くんだもんね。
読むのが楽しみです。
Commented by foggykaoru at 2008-12-13 10:59
鍵コメさん。
こちらこそありがとうございました♪
「どうしてくれよう」なんて人に言える立場なの(以下自粛)
裏話、楽しみにしています~
Commented by foggykaoru at 2008-12-13 11:01
Titmouseさん、ケルンさん。
ぜひ見つけて買ってね!
私は熱帯雨林のぽちっとな、でしたけど。
Commented by meadow02 at 2008-12-13 23:39
なんだか意外です。ファンタジーノベル大賞ってライトノベル系だからかおるさんの好みではなさそうだったから。
なんだか優しい雰囲気で素敵な本みたいですね。
何となく雰囲気として、加納朋子の「ななつの子」と菅原浩江の「博物館惑星」を連想しました。前者は日常を題材としたミステリーの連作短編、後者はSFです。どっちも賞を取ってると記憶してるのですが。
Commented by foggykaoru at 2008-12-14 15:21
meadow02さん。
そうなんです。普段は読まないジャンル。
最近は小説自体をめったに読まないし。
そのあたりの事情はゆ○みさんあたりにきいてみてください(^^;
Commented by 藍色 at 2009-01-08 02:37 x
こんばんは。
トラックバックさせていただきました。
優しい物語でしたね。

トラックバックなどいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
Commented by foggykaoru at 2009-01-08 21:24
藍色さん。
ようこそ! トラックバックありがとうございました。
お言葉に甘えてこちらからもさせていただきますね。
Commented by ケルン at 2009-01-16 23:42 x
先週読み終わりました。ゆっくり楽しみながら読んで、終わるのが惜しかったです。
本が終わっても、少し謎が残っている感じなのも、良い余韻ですね。
Commented by foggykaoru at 2009-01-17 13:00
ケルンさん。
なんでも、続編が書けるぐらいネタがあるのだそうです。
楽しみですね♪

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