通訳ダニエル・シュタイン

ここんとこ、忙しくて、本は読んでいるのですが、感想文を書く暇がありません。でも、あまり時間がたつと忘れてしまうので頑張って書きます。

==========

著者はリュドミラ・ウリツカヤというユダヤ系ロシア人。ロシアでは人気のある作家なのだそうだ。

実在の人物をモデルとする主人公ダニエル・シュタインの生涯が、関係者の書簡集の形で綴られている。
彼はポーランド生まれのユダヤ人。第二次世界大戦中、ナチスから逃れ、出自を隠して生き延びる過程でゲシュタポに通訳として協力することになるが、その立場を利用して多くのユダヤ人を救う。さらに逃げ延びた先でカトリックの信仰に目覚め、洗礼を受け、修道士にまでなってしまう。大戦後、イスラエルが建国されて・・・

昔、「ユダヤ人の定義はユダヤ教を信仰しているということなのだ」と習ったが、もとからそうだったのだろうか? その考え方が強固になったのは、イスラエルという国ができてからなのかもしれない。

イスラエルという国。
今さら言うまでもないけれど、あの国が領有を主張している土地は世界全体を巻きこむ紛争の火種である。
パレスチナの人々を不幸にしたのはもちろんのこと。
でも、様々な土地にいたユダヤ人にとっても、イスラエルという国の枠組みの中に入ってそれに合わせて生きていくのは、必ずしも容易なことではない。

ダニエルは「聖人」の名に値する人だったのだと思う。
でもその考え方はなかなか受け入れられない。
まずユダヤ人にとっては、彼の生き方自体が不可解。
さらに、「真面目な」キリスト教徒にも受け入れられない。「異端」なのだ。
むしろ日本人のほうが、彼の言葉を素直に受け止めることができるのかも。

裏表紙に「一作で小説十作分の価値がある」とある。同感である。
読みでのあるものに飢えている人にお薦め。
宗教がらみであるという点からして、決してとっつきやすい小説だとは言えない。たとえば、ダニエルの行うミサの問題点なんて、何が何だかさっぱりわからない。でも彼の数奇な運命をたどるだけでも、得るもの、感じるものはたくさんあるはず。

最後に「旅する極楽トンボ」としての感想をひとこと。
歴史に「~たら」「~れば」はないということはわかっているが、もしもナチス・ドイツがあんなことをしなければ、今もなおヨーロッパにはたくさんのユダヤ人コミュニティーがあったはずである。それを旅人として垣間見てみたかった。


この本に関する情報はこちら
[PR]

by foggykaoru | 2011-06-01 21:44 | 普通の小説 | Trackback | Comments(2)

トラックバックURL : http://foggykaoru.exblog.jp/tb/16410914
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by むっつり at 2011-06-01 22:24 x
真面目なキリスト教徒って異端者を火あぶりにしますから…
信仰心って何なんでしょうね
カトリックはナチスを消極的ながらも支持していた事も有名ですし
Commented by foggykaoru at 2011-06-02 19:59
むっつりさん。
この本、面白いですよ。今度は児童書ではないからご安心を(笑)

「リュドミラ・ウリツカヤ」で検索すると、「朝日新聞グローブ」というサイトのインタビュー記事がヒットするので、お暇があったらどうぞ。

<< 偉大なる日 阪急電車 >>