アウシュヴィッツの音楽隊

ユダヤ系フランス人2人の共著。
だから原作はフランス語。
翻訳者の大久保喬樹氏がパリ留学中、偶然出会った本なのだそうだ。

日本ではアウシュヴィッツの名で知られるユダヤ人強制収容所、その第二収容所ビルケナウでの体験談である。
音楽好きなドイツ人は、音楽の素養のあるユダヤ人を集めて音楽隊を作り、日常的に演奏させた。朝の行進の伴奏だけでなく、収容所の幹部の個人的な楽しみのためにも。
それだけでも十分興味深い話ではある。
でも、いちばん興味深いのは、収容所の日常。

初期の収容所では、送りこまれてきたユダヤ人を「選別」した。もともと身体の弱い人、そして過酷な労働で体力を消耗した人だけを選別してガス室送りにしていった。
ところが、どんどんユダヤ人が増えてくると、選別する暇がなくなった。連れて来たらみんな即ガス室送り。それだけで手いっぱいなので、その時点で生きながらえていた古株のユダヤ人は、ひとまず殺されなくてすむようになった。(もちろん体力を落としたり、何かのきっかけで親衛隊の逆鱗に触れれば生きてはいられないけれど。) 死体を焼く黒い煙を見ながら、彼らは生き延びる。

強制収容所という異常な社会。
その中で生きのびるためには、道徳観念を捨て去らなければならない。
真面目に働いたら衰弱してしまう。働くふりをして、物資の調達に知恵を絞る・・・

楽しくないけどお薦めです。
濃くてひたすら重い。でもすぐに読める。長くないから。

アウシュヴィッツにも、ビルケナウにも行ったことがある。
でも旅行記は書いていない。書けなかった。旅行者が何を書いても空々しくなるような気がして。
知りたい人はこういう本を読むべき。旅行記の出る幕ではない。


この本に関する情報はこちら
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by foggykaoru | 2011-07-27 23:52 | 西洋史関連 | Trackback | Comments(2)

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Commented by むっつり at 2011-07-28 05:40 x
たしか門に「勤労は自由をもたらす」と透かし彫りされていたんですよね
欺瞞です
大戦で負けたから悪行になっていますが、1930年代には英仏米でも愛国と一体化した人種主義が跋扈
異民族を排斥、他民族と融和的な者も同罪と攻撃の対象に…

そして今、またオスロで似た事件が起こりましたね
Commented by foggykaoru at 2011-07-29 15:32
むっつりさん。
そう、あの門の言葉、あれがものすごい皮肉だと、この本に書いてありました。

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