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極楽タイ暮らし

いかにもワニ文庫という感じのタイトルだが、まっとうなタイ文化論。著者は高野秀行氏。

西洋一辺倒だった私がアジアに目を向け始めたのは、1989年、短期留学先のフランスで知り合ったタイ人たちのおかげである。それまで「外国人イコール欧米人」だと思っていた私にとって、彼らとの出会いは衝撃的だった。

欧米の言語を学んでいき中級以上に進むと「自分の意見を言う」ことを要求される。これは普通のニッポン人にはなかなかしんどいことである。

そもそも、自分の意見がなかったりする。

欧米では自分の意見が無い人間は馬鹿にされる。
だから無理やり意見を作りだすのだが、これははっきり言ってストレスである。
タイ人グループのユルい雰囲気の中に身を置いてみて初めて、今まで自分がいかに無理をしていたのかがわかった。
ああ、なんて楽なんだろう。
私はこっち側の人間だったんだな。

数か月後、私は初めてアジアを旅した。行き先はもちろんタイ。
旅とは言っても、フランスで知り合った友人宅をハシゴして、あちこち案内してもらっただけなのだが。

町の食堂(レストランにあらず)に入ると、必ずと言っていいほど王様の写真が飾ってあった。
王様を敬愛する、礼儀正しい人々。
天皇と違い、タイの王様は過去の暗い思い出とは結びついていない。それどころか、王様のおかげでタイは植民地化を免れ、平和を保てたのだ。なんと羨ましいことか。
手放しで皇室を敬うことができなくなってしまった、戦後の日本人。
もしかしたら、戦前の日本人ってこんな感じだったんじゃないかな。

タイ人の暮らしは興味深かった。
まず、主婦が料理をしない。
友人たちは断言した。
「タイ料理はとても手がこんでいて、素人には作れない。だから買って済ませる」と。

そしてタイの屋台文化を目の当たりにした。
これだけ食べ物があふれていれば、のんきにもなるはずだ。

そして親子関係。
親がほんとうに優しい。親に限らない。大人が子どもに優しい。一度、友人の甥という人が遊びに来たことがあるが、友人(つまり伯母)の甘あまな態度に仰天した。大学生である甥も「ごろにゃん」と言いかねないほど甘えている。
ここまで優しくされると、優しい大人に育つのかな。

友人の弟という人にも会った。「デザイナーなのよ」と言われていたのだが、会ってみてこれまた仰天。フリフリのフリルがついたブラウスを着ていて、妙になよなよしている。オカマなんじゃないか。

高野さんのこの本は、そんな思い出を新たにさせてくれた。
さらに「私はこっち側」と思わせてくれたタイ人の、日本人とは全く異なる側面も教えてくれる。文化というのは興味深く、不思議なものだ。

2000年刊とあって、現在のタイとはいろいろ状況が違っているところもあるようだが、それによってこの本の価値が下がることはないと思う。


この本に関する情報はこちら

by foggykaoru | 2012-09-11 23:09 | ルポ・ノンフィクション | Trackback | Comments(6)

Commented by むっつり at 2012-09-12 04:42 x
タイの王様って政治的には緩衝材でしたからね。
近年の対立では、その威光にも翳りが出ていますが…
英雄を求めるのなら物足りない存在ですが、揉め事の現実的な解決にはなくてはならない存在です
その事を国民まで理解している事が凄いですね
日本を含め他国では、極論暴論を叫んで火に油を注ぐ者が人気を博していますから
Commented by naru at 2012-09-12 11:01 x
仲の良い友人が、主な外国語は英語、と聞いた時点から、私の持っていたイメージとは大分違う、と感じて来たのですが・・

30年くらい前に、夫の駐在に付いて行った別な友は、バンコクで出産するについて
「タイ人の主治医は阪大出身の優秀な元留学生。タイ女性は働き者だから、ナースもとっても親切」
と自慢していました。

主婦が料理しない、とは思ってもみませんでした~~。

ところで今月タイ料理を、その仲良しの友人と食べに行くので、とても楽しみです。
Commented by foggykaoru at 2012-09-12 23:37
むっつりさん。
最近までタイに数年住んだ友人によると、今の王様が亡くなったらどうなるか?!という状況だそうで。
なんでも、後継者がトンデモナイ奴らしいです。
Commented by foggykaoru at 2012-09-12 23:42
naruさん。
旧仏領インドシナでさえ、今や主な外国語は英語ですよ。

主婦は料理をしない、とは言っても、それは私が出会った人たちの感覚。
彼女たちは大学を出て仕事を持つ女性なので、そもそも家事なんかあまりしないのです。
メイドを簡単に雇えるから。
メイドになるような階層の人々の感覚は違うと思います。
あと、どういう階層であっても、屋台文化がすごいから、料理を外で買って帰る、ということが、ごくごく当たり前なことではあると思いいます。
Commented by KIKI at 2012-09-30 23:36 x
我が家に来ていたメイドさんは自宅では自分で作っていたそうです。
いくら惣菜屋さんが安いと言っても、自分で作るほうが安上がりだそうで。

お友達の手が込んでいてっていうのは言い訳でしょうね。
私でも自宅で作れるぐらいですし。
Commented by foggykaoru at 2012-10-03 19:07
KIKIさん。
メイドさんは自力で作ると思います。

言い訳っていうか、ほんとうに料理をしたことがないんでしょうね。
みんな大学を出て仕事を持っていて、フランス政府給費留学生に選ばれるくらいの人たちだったから。
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