ミャンマーの柳生一族

高野秀行著。
今回は早稲田の探検部の先輩である作家・船戸与一の付き人(?)として、ミャンマーを旅する。というわけで、高野さんとしては前代未聞の大名旅行である。

ミャンマー出入国は何回もしているが、ほとんどが非合法だという高野さんである。ビザが下りて一番驚いたのはご本人。軍事政権、意外と甘いじゃん。

だったら私も今まで封印していたミャンマー旅行記、ネットに上げちゃおうかなあ・・・

私は初めてミャンマーに行ったとき、現地の人と知り合い、そのお宅に泊めてもらった。行きずりの人についていったのである。「君子危うきに近寄らず」をモットーにしている私にとって、ありえない暴挙だった。でも、「この人は大丈夫」と思った。「この人が悪い人だったら、私の目は節穴だ。何十年も生きてきて、そこまで人を見る目がなかったら、それは私のほうが悪いのだ」と思い、彼女の誘いを受けたのだ。

だが、外国人を自宅に泊めるのは法律違反。泊まった外国人はおとがめなしだが。
ということを知ったのは、2回目にミャンマーに行くために、ミャンマー大使館にビザを取りに行ったときだった。ビザを待っているとき、たまたま居合わせたミャンマー人にその話をしたら、彼は声をひそめてこう言った。
「泊めたことがわかったら、その人は刑務所送りになるんですよ」
驚いた。
あの優しい人たちに、そんな危ない橋を渡らせていたなんて。

ミャンマーの人々の間にどっぷり浸かったあの数日間は、30年に渡る私の海外旅行歴において(英国湖水地方への初めての旅は別格として)最高の思い出である。ねえねえ私の話聞いてよ! 素晴らしい体験だったのよ!! と、できるだけ多くの人に知らせたい。でもそうすると、親切にしてくれた人たちに迷惑をかけてしまうかもしれない。

だからネット上では封印した。

でも、ミャンマーに非合法に滞在したことが明かされている著書があり、しかも英訳すらされている高野さんが大丈夫なのだ。
だったら私が何を書こうが大丈夫じゃん。

でもやっぱり。
私が世話になった人たちは、ミャンマー政府が統治しているエリアで、まっとうな市民として暮らしているのだ。反政府ゲリラなら、もともと目をつけられているのだから、高野さんを入国させようが何をしようが、立場は変わらない。でも、「普通の国民」という位置づけの人たちは、失うものがある。少しでも彼らの平穏を乱す可能性があるのだったら、書くべきではない。


で、高野さんのこの本である。
怖さと奇妙なユルさが同居するミャンマー軍事政権のことがよくわかる。たとえミャンマーに興味がなくても楽しめると思う。とにかく変だから。騙されたと思って読んでみて。

私を泊めてくれた人は、当時、日本留学中の学生だった。ちょうど里帰りしていたのだ。
当然、日本語はペラペラ。
彼女のおかげで謎に包まれたミャンマーという国の姿を垣間見ることができた。
「軍事政権の人たちはろくに学校さえ行っていない。馬鹿ばっかりです」
近所の顔なじみが一堂に会した食事会に出たら、若い軍人がいた。さすが権力者。羽ぶりがよく、美人の妻を連れてきていた。
「あの人、今でこそあんなだけど、就職できなくて困って、しょうがなくて軍人になったんですよ」

よくもまあ、私をあの席に連れていってくれたものだと今も思う。
ものを言ったのは私の「顔」である。
ミャンマー人と日本人は顔立ちがとても似ている。
「この顔ならバレない」と思ったからこそ泊めてくれたし、軍人同席の食事会にも連れていってくれたのだ。

似ているのは顔だけではない。心も似ている。
もっと正確に言うと、「似ていた」
もっと正確に言うと、「似ていたのではないかという気がする」

初めてタイに行ったとき、「日本人は戦前はこんな感じだったのではないか」と思った。
そして、ミャンマーでは「もっと昔、明治以前の日本人はこんな感じだったのではないか」と。
穏やかで実直、働き者の日本人は、宣教師を感動させた。
幕末にやってきたシュリーマンをも。

この本の中で高野さんが「ミャンマーは江戸時代だ」と書いているのを読んで、とても嬉しくなってしまった私である。

この本に関する情報はこちら
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by foggykaoru | 2012-09-21 00:29 | ルポ・ノンフィクション | Trackback | Comments(10)

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Commented by むっつり at 2012-09-21 05:13 x
アマゾンのほかの方々のレビューも見ましたが…
確かにミャンマーって鎖国でしたよね
江戸幕府と同じ
外人と接触(宿泊)したら重犯罪といのは、まんまですよね
それにしても、ミャンマーのホストの方々が無事なのか気になります
どこにでも口の軽い人が居ますから


最大の就職先が軍人だと言うのは古代ローマから戦前の日本に到るまで、意外と普遍的に存在していましたから珍しく有りませんけれど、確か中国の格言に「良き鉄は釘にならず」とか言われて軍人になるのは見下されていたのがアジアの伝統!?
文武百官と言われても、文官の方が格上というのが常識でしたし

高野さんのビザがおりるなんて、本当に驚きですね
不思議…
Commented by foggykaoru at 2012-09-21 20:12
むっつりさん。
想像ですが、私を泊めてくれた家はかなりの金持ち。
なにしろ娘を日本に留学させることができるくらいですから。
だから、いざというときは、お金で解決できるのかもしれません。

私の知り合いに、ミャンマーに旅して、そこで知り合ったミャンマー人男性と恋に落ちた人がいます。
ところが外国人と結婚するのはご法度。
すったもんだの末(確か賄賂とか使ったはず)彼を出国させ、日本で結婚しました。
もうずいぶん会っていないけれど、どうしているかなあ。。。
Commented by garden_time at 2012-09-21 22:04
↑風来坊さんですね。懐かしいな(^^)
お会いしたことはないんだけど。
かおるさんのコメントを読んでいると、高野さんの本を一度読んで
みたいなって思います。
また探してみなくっちゃ。
Commented by foggykaoru at 2012-09-22 21:32
はみさん。
そう、風来坊さんです。

高野さんの本の入り口としては、旅本はけっこうボリュームがあるから、軽く読める「ワセダ三畳」がいいかもしれません。
短編集である「シンドバッド」もいいかも。
Commented by garden_time at 2012-09-24 22:33
「ワセダ三畳」読みましたー(^^)
おもしろかったです。 いいなあ、青春(笑)
Commented by foggykaoru at 2012-09-25 07:56
はみさん。
おお、すばやい! 面白かったでしょ。
平成に書かれた青春文学の傑作として歴史に残るかも?!
Commented by ラッコ庵 at 2012-09-27 08:15 x
20年くらい前に、ミャンマーの研修生を2,3泊ですがホームステイさせたことがあります。中年の男性でしたが、「国民はみんな、スーチー女史が大好き」と言っていましたね。そのとき、ミャンマーにはいわゆる名字がなく、自分の名前のあとに父親の名前を付けると聞きました。(アウンサン将軍の娘のスーチーとか)
Commented by foggykaoru at 2012-09-27 21:11
ラッコ庵さん。
高野さんの本によると、ミャンマー人はどの立場の人もみんな「スーチーさんと組まなくてはダメだ」だと思っているようです。
だから軍事政権も軟禁以上の実力行使はできなかったのでしょうね。
Commented by KIKI at 2012-09-30 23:42 x
私もエントリーを読んでいて風来坊さんを思い出しましたよ!
ほんとどうされてるんでしょうか?

ミャンマーも近代化されてないなぁとは思いましたが、イエメンの方がより江戸時代だと感じました。
なんせ多くの男の人達が刀挿して歩いてますし。
しばらく行けそうにないですが…。
Commented by foggykaoru at 2012-10-03 19:09
KIKIさん。
この本のあとがきによると、今のミャンマーは江戸時代よりもさらにさかのぼって戦国時代になっているのだとか。
イエメンも、明治以前の雰囲気かもね。行ってみたいです。

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