漂流するトルコ---続「トルコのもう一つの顔」

副題の示すとおり、「トルコのもう一つの顔」の続編。著者は小島剛一。彼はノンフィクション作家ではない。学者である。言語学者。

この本が出たことは以前から知っていたのだが、忘れてしまっていた。
「怪獣記」のあとがきで高野さんが前作に触れているのを読んで本作を思い出し、慌てて熱帯雨林でクリックした次第。

前作を読んだ人なら続編を心待ちにしていたはず。迷わず読みましょう。
前作を読んでいないのだったら、できたらそちらから読みましょう。
精密さを要求される学問の専門家らしく、やたら細かい注があるけれど、めげずに読みましょう。
前作は中公新書だったのに、本作の出版元は「旅行人」。この会社は一部の旅人には知られているものの、一般的には知名度が低く、書店でめぐり会う可能性はほとんど無い。だから読んだ人は宣伝しましょう。

この世界にはひどい国家はいくらもあろうが、トルコもその一つだということがよくわかる。
真実をねじまげる国家では、真実を探求する学問が疎んじられる。
そもそも学問というのは、何の役に立つのかなんて関係ない。とにかく追求していくものである。普通の国だったら、「へえ、そんな役にも立たないこと、よくやるなあ」と呆れられる。親は「そんなことしても食べられないのに」と嘆くかも。でも、別に邪魔されはしない。

明治時代、金田一京助がアイヌ語の研究をすることができた日本。
アイヌが圧倒的に劣勢で、日本政府を脅かす危険性が皆無だったということはあっただろう。でも、小島さんが研究対象とするラズ語の話者たちだって、トルコ政府を倒す力なんてないはず。

真実をねじまげる国では、人の心もねじまがるのだろうか。
小島さんに近寄ってくる人には信用ならない人々が多すぎる。
(市井の人は圧倒的に素朴で親切なのだが)
そして、おバカな諜報部員が多すぎるところは、なんとなくミャンマーに似ている。
(でも、ミャンマーの柳生一族のほうがずっとかわいげがある。)

ミャンマーと同じく、トルコも江戸時代なのだろうか?
オリンピックに立候補してるんだよね?

でも、いちばん驚かされるのは小島さんという存在かも。
こういう人がほんとうの言語学者なんだよなあと思う。
30年前、私の周囲には日本語以外の外国語は英語しか知らないで、変形生成文法とかいう数式を操る人々ばかりだった。あれはせいぜい言って英語学者。言語学者じゃない。
ききとり調査には良い「耳」が必要だとは思っていたが、ちらっと聞いた民謡をささっと楽譜化してしまうなんて。民族音楽というのは、音階が西洋音楽とは違うから、採譜は容易じゃないはず。

1946年生まれという小島さん。
フランスではもう隠居生活のはず。
ヒマラヤをサンダルで歩きまわる体力があるとはいえ、どうかご自愛ください。
そしてこれからも私たちに真実を教えてください。


この本に関する情報はこちら
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by foggykaoru | 2012-10-06 10:06 | ルポ・ノンフィクション | Trackback | Comments(12)

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Commented by naru at 2012-10-06 13:49 x
今朝たまたまテレビの旅番組でトルコの地中海に面したリゾート地をやっていて、
きれいだなぁ、と感心したばかりでした。

うーーん、またトルコを見直すというか、考え直すことになりそう。
おもしろそうな本ですね。まずは本編というか、中公新書を読んでみたくなりました。
Commented by むっつり at 2012-10-06 18:10 x
とりあえず前編の「漂流するトルコもう一つの顔」を熱帯雨林で注文しました。
中央集権制の極みですね…
あの多様性を認めていたオスマン・トルコの末裔なのに
西欧の基準では多様性を内抱していてこそ帝国と呼ばれるのに(称号は王でも大英帝国ですし、大統領の米国でもエンパイアステート・ビル)、クルド人の問題があるとはいえ、無かった事にしているんですね
驚きです
Commented by foggykaoru at 2012-10-06 21:00
naruさん。
リゾート地もトルコの顔。
でも、これは「もう一つの顔」。
とりあえず中公新書をどうぞ。
Commented by foggykaoru at 2012-10-06 21:03
むっつりさん。
ん? 前作? 本作?
そう、クルド問題。そしてその他。
全部無かったことになってるんです。
Commented by koba at 2012-10-07 15:52 x
まさか、このブログに行きあたるとは。ローマ法王の休日を検索した先に。
読みましたよ。今年の酷暑の中。2冊とも。感動しました。
小島先生はこの夏北海道を周られたらしい。
日本はこんなに安泰であることを自覚しないといけませんね。トルコ文学 オルハン・パムク著訳者和久井路子の一連の作品を読書中です。トルコのイメージをなんとか描けるようにアンテナ張ってます。最近のシリアとの銃撃をみるとかなり軍事国家でもありますね。当たり前でしょうが。
一年に一言語習得、足で歩いて、人々に中へ。偏見もなく地位も無し。
「言語学の基礎研究の対象としては、すべての言語が等価です」小島先生だから言えるのです。
Commented by foggykaoru at 2012-10-07 18:11
kobaさん。
>まさか、このブログに行きあたるとは。
ええと、、、私は存知上げているのでしょうか・・・?
もしそうだったらごめんなさい。
最近、物忘れが激しくてやばいのです。

>言語学の基礎研究の対象としては、すべての言語が等価
すべての植物が植物学の対象として等価であるのと同じように。
いわゆるマイナーな言語というのは、研究対象とする以前に、学ぶのが大変なのです。
私はヨーロッパの言語以外を学ぶことができず挫折しました。
ほんとうは何十も学びたかったのに。
Commented by ふるき at 2012-10-07 22:50 x
「もう一つの顔」を読んで感動しましたが、語学が苦手で羨ましかったです。トルコとイラク、シリアの国境地域は人々は曖昧に入り混じって暮らしているのに、国境でトルコにはトルコ人だけでか住んでいないことになっている。国境を守ってもそこに住んでいる人は守っているのかな?
Commented by 似非英国紳士 at 2012-10-09 09:43 x
え、ラズ語について書かれているんですか?!

ラズ語は数少ないグルジア語の仲間の言語。

これは読んでみなくては。
Commented by foggykaoru at 2012-10-09 21:21
ふるきさん。
ほんとうに小島氏の語学力は羨ましいです。
でも別格ですからもうしょうがない。
>国境を守ってもそこに住んでいる人は守っているのかな?
そう、そこが問題です。
Commented by foggykaoru at 2012-10-09 21:28
似非英国紳士さん。
ラズ語について書かれているのではなく、ラズ語の調査研究のことが書かれているんです。
「能格」がどうたら、、、ということも書いてありましたけれど。
ネットで小島氏のラズ語文法書の草稿が閲覧可能です。
lazepesi.dostiで検索すると出てきます。
Commented by 似非英国紳士 at 2012-10-11 11:12 x
言語そのものでなくて、フィールドワークについてでも大丈夫です。というわけで早速入手しました。
Commented by foggykaoru at 2012-10-11 19:02
似非英国紳士さん。
おおすばやい!
もしも似非英国紳士さんと小島さんが出会ったら、言語に関するふかーーい話で盛り上がることでしょうね。
そんなことがあったら同席させていただきたいです。
きっと一言も口がはさめないだろうけれど。

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