映画版『ワン・デイ・モア』に関する一考察(?)

ミュージカル『レ・ミゼラブル』の中盤の盛り上がりで歌われるこの歌が、原詩では『偉大なる日』であることは以前書きました。それとの関連です。





『ワン・デイ・モア』という歌詞を繰り返すのはヴァルジャンです。
舞台だったらこの場面は薄暗い中、1人1人歌う順番で舞台に登場する。(スポットライト活躍) だんだんと人数が増えていって、大合唱(照明FULL)で終わる。それ以外、あまり動きはない。こぶしをふりあげたり、マリウスとアンジョルラスが「行こうぜ!」と肩をたたき合ったりするくらいで。もちろんヴァルジャンも動かない。

でも、映画版は違います。
それぞれがそれぞれのいる場所で歌う。映画ならではの描き方です。

特にマリウスに関して、それがはっきりしています。
コゼットの去った家の前で彼女への思いで胸を一杯にしている。そして町を歩きながら人々の声を聞き、カフェに着いたときには決心がついて「僕も戦う」と宣言する。

そしてヴァルジャン。
コゼットとの逃避行の最中で、馬車に揺られながら「もう1日」と絶叫する。毎日追手におびえながら、1日ずつ生き延びてきた。「もう1日、もう1日」と。

でも、フランス語の原詩では「偉大なる日」と歌っている。ヴァルジャンも。

冒頭の彼のソロパートの歌詞はフランス語ではこうなっています。
Le grand jour, 偉大なる日
Une autre vie, une autre destinée,  もう1つの人生、もう1つの運命
Délivrés d'avoir à fuir à perpétuité. 永遠に逃げ続けなければならないことから解放される
Mais au jour du jugement ultime, しかし最後の審判の日には
Chaque homme doit révéler ses crimes 1人1人は自らの罪を明らかにしなくてはならない
Au grand jour.偉大なる日に

フランス語版のヴァルジャンの心は自分が生き延びられるかどうかなんてことにはそれほどとらわれていない。(少しは気にしているけど。)
もっと深い。
自分は法律上、罪を犯した。でも最後の審判の日には、何がほんとうの罪なのかが明らかになる。その日まで自分に恥じることなく生きていこう。

そして「偉大なる日」と連呼する。 

それに対して英語版はこうです。(英語は拙い訳がバレる(汗)・・・どうか我慢してください。)
One day more! もう1日
Another day, another destiny. もう1日 それはもう1つの運命
This never-ending road to Calvary; カルバリ(=ゴルゴダ)の丘へ続く果てしないこの道
These men who seem to know my crime 私の罪を知っているらしいあの男たちは
Will surely come a second time. きっと再びやってくるだろう
One day more! もう1日

とにかくジャベールが怖いんだよ~ 今日も生きられてよかった~ 明日も1日なんとか頑張ろ~


そしてこの歌の最後のヴァルジャンのソロパート。フランス語版は
Demain, nous partons sans regret; 明日、私たちは後悔せずに旅立つ
Demain c'est le jugement dernier. 明日、それは最後の審判

「旅立つ」というのは逃げ出すという意味ではない。革命へ旅立つのです。

英語版はこうです。
Tomorrow we'll be far away, 明日、私たちは遠くに行ってしまうだろう
Tomorrow is the judgement day 明日は審判の日

やっぱり英語版ヴァルジャンは逃げることで頭が一杯。しょうがないよね~
一応「審判の日」なんて付け足しみたいに言ってますが。


そして全員コーラスのフランス語版。
Demain, nous saurons si Dieu vient 明日、我々は知るだろう 神が
Annoncer enfin son retour. ついにその帰還を告げに来るかどうかを
C'est enfin,  ついに
C'est demain 明日が来る
Le grand jour! 偉大なる日が

英語版の全員コーラスは
Tomorrow we'll discover 明日、我々は発見するだろう
What our God in Heaven has in store! 神が用意してくださるものを
One more dawn あと1回夜が明ければ
One more day もう1日
One day more! あと1日

ここはほとんど同じ。でもフランス語は暗い未来を暗示しています。
「告げに来るを知る」ではなくて、「告げに来るかどうかを知る」ですから。フランスの観客はこの革命が失敗に終わったことを知っているのだから、能天気な歌詞だったら却って白ける。

それに対して、英語版はイケイケドンドン。


長々書きましたが、要するに、フランス語版だったらヴァルジャンは馬車で逃げていかないということです。
ほんとに長くてごめん。


文句言っているわけじゃありません。
英語版のほうが、何も知らない観客にはわかりやすいだろうし、ミュージカル『レ・ミゼラブル』大成功の一要因は、万人向けに改変したことにあるのだから。

でも英語版はちょっと浅い・・・
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by foggykaoru | 2013-01-04 11:20 | 観もの・聞きもの | Trackback | Comments(4)

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Commented by むっつり at 2013-01-04 17:10 x
英語も仏語も疎い私は映画のウエスト・サイド・ストーリーを連想してしまいました。
巧みな演出ですよね
Commented by foggykaoru at 2013-01-04 21:03
むっつりさん。
おおウエスト・サイド! トゥナイト!!
まさにそうですね!
Commented by luna at 2013-01-05 11:46 x
おもしろ〜い!
私はこの年末年始は実家でwiiの配信カラオケにはまり、One Day MoreとかA Little Fall of Rainとか熱唱していました。
映画も見たいです。

フランス語の歌のテープも持っているのですが、そんなに歌詞が違うとは!
Commented by foggykaoru at 2013-01-05 20:28
lunaさん。
面白いですか? 
よかった!!
こんなことに興味を持つ人なんているのだろうか?と思いながら書いたんです。
他の歌も微妙に違うと思うけれど。
暇があったら調べてみます。

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