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『民衆の歌』英語版とフランス語版の違い

確かこの歌もフランス語では全然違ったっけ、と思い出したので、忘れないうちに書きます。

サビ(この歌の場合、歌いだしの部分)のフランス語版は以下のとおり。
A la volonté du peuple 民衆の意志と
Et à la santé du progrès, 進歩に乾杯
Remplis ton coeur d'un vin rebelle 君の心を反逆のワインで満たせ
Et à demain, ami fidèle.  そして明日に乾杯 忠実な友よ 
                [追記]「忠実な友である明日に乾杯」と訳すべきかも
Nous voulons faire la lumière  我々は光を作りたいのだ
Malgré le masque de la nuit たとえ夜に覆われていても
Pour illuminer notre terre 我らの大地を照らし 
Et changer la vie. 暮らしを変えるために

この歌は、カフェで革命派の学生たちが一杯やりながら、さまざまな意見が出て沸騰している場面で、リーダー格のアンジョルラスが歌い始めるのです。だから「乾杯」。
個人的には「ami fidele 忠実な友よ」のところがツボです。
聴いてみたい方はこちら

続きはこうなっています。
Il faut gagner à la guerre 戦いに勝たなくてはならない
Notre sillon à labourer, 我らの畑を耕し
Déblayer la misère  貧困を一掃するのだ
Pour les blonds épis de la paix  平和という黄金の麦の穂のために
Qui danseront de joie 
Au grand vent de la liberté. 
それは自由という風に吹かれて歓喜に踊ることだろう
[以下サビ]
A la volonté du peuple, 民衆の意志に乾杯
Je fais don de ma volonté. 私は私の意志をさしだそう
S'il faut mourir pour elle, そのために死ななければならないのなら
Moi je veux être le premier, 私は真っ先に死にたい
Le premier nom gravé 
Au marbre du monument d'espoir. 
希望というモニュメントの大理石に刻まれる最初の名前になりたい
[以上サビ]

sillon(畑)という単語は、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の歌詞にも出てきます。
あの歌はもともとフランス革命の歌。
たぶんフランス人ならそのことを思い出すのでは。(なにしろ私が連想したのだから)



英語版は
Do you hear the people sing?  民衆の歌がきこえるか
Singing a song of angry men?  怒れる人々の歌を歌っている
It is the music of a people  それは民衆の音楽だ
Who will not be slaves again!  彼らは二度と奴隷にはならない
When the beating of your heart  お前の心臓の鼓動が
Echoes the beating of the drums  ドラムの鼓動と響き合うとき
There is a life about to start  始まろうとする1つの命がある
When tomorrow comes!  明日が来るとき

無意味な繰り返しが多い。
浅い。そしてフランス語版に色濃く漂う悲壮感がほとんど消えている。

そう。
このミュージカルはフランス語で上演すると、全体の雰囲気が英語版よりもかなり暗くなるのだろうと思います。
どちらが良いとか悪いとかいう問題ではなく。


歌詞の翻訳は難しいです。
無意味な繰り返しと言ったけれど、歌うと調子がいいのだから、上手な翻訳だと思います。
内容的に浅くなってしまうのは歌詞の翻訳の宿命かも。


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by foggykaoru | 2013-01-12 00:08 | 観もの・聞きもの | Trackback | Comments(12)

Commented by むっつり at 2013-01-12 06:21 x
だって英米は革命が大嫌いですもの
特に米国人の赤い旗への拒絶感は…
決死の革命(政治運動)から、民衆の抵抗運動へと書き換えたものかと思われます
Commented by foggykaoru at 2013-01-12 10:51
むっつりさん。
革命が好きかどうか、ということもあるかもしれません。
日本人だって好きかどうかわからないし。
ただ、日本の場合、ミュージカルが上演されるとき、「レ・ミゼラブル」ときけば「ああ無情」ね!と心当たりがある人が多かったけれど、英米の場合は舞台化されるまで、この物語はまったく知られていなかったらしいです。

※ふん、奴らは英語圏以外のことを知らないのさ(←ひとりごと)

そういうこともあって、かなり意識してわかりやすい歌詞にしたのだそうです。
意識しなくても歌詞は翻訳すれば浅くなるんですけどね。
Commented by naru at 2013-01-12 17:51 x
ははー、わかりやすくしたからこそ、NYでは「ブロードウエイの親子で行けるミュージカル」的な位置づけで、
冬休みなど、学校に割引券を配っていたように覚えています。

映画では、皆の大合唱が感動的でした。
Commented by luna at 2013-01-12 23:05 x
たくさん「へえ!」ボタンを押したい気分です(笑)
Commented by foggykaoru at 2013-01-13 08:40
naruさん。
英語版はディズニー版、と言ったら言い過ぎでしょうか(苦笑)
ミュージカルおたくの友人曰く
「ワン・デイ・モアを舞台で観ると、必ず誰かそれほど上手でない人がいて、アンバランスになる。今回初めて完璧なのを聞いた」
と言っていました(^^;
Commented by foggykaoru at 2013-01-13 08:41
lunaさん。
自分以外に面白がる人がいるということを知ったので、これをポストしました。
ありがとう♪
Commented by ケルン at 2013-01-14 10:32 x
この歌は英語のリズムをメロディによく合うように作ってある点が大きな魅力ですね。フランス語は歌いにくくはないんでしょうか? (フランス語の乗りやすいリズムって英語の場合とは違いますね?)
Commented by foggykaoru at 2013-01-14 16:43
ケルンさん。
レミゼの楽曲はもともとフランス語の歌詞のために作られたものなので、フランス語で歌いにくいなんてことはないです。。。
おっしゃるとおり、英仏ではリズムが全然違うわけで。
だからメロディーとリズムに合う歌詞にするためには超訳にせざるを得ないわけで。
Do you hear the peopel sing は名訳です。 もとの歌詞とは似ても似つかないけれど。
Commented by sato at 2013-01-16 07:34 x
こんにちは。唐突ですが、「メニム一家の物語」の登場人物の名前をメールアドレスに入れている者です...と言ってお判りでしょうか?(つ、伝わらないかも。。。)大変お久しぶりです。いきなりコメント欄から失礼します。
英仏の歌詞の比較、とても興味深く読みました。フランス語の歌詞の重みが英語版だとアッサリ消えてしまうんですね。ミュージカルでは音重視で正解なんだと思いますが、フランス語版の苦痛の中から這い上がり歌うような力強さは、やっぱり失いがたいものがある気がします。
個人的なことになりますが、色々な巡り合わせの結果、実は現在パリで生活しています。日仏の感覚の違いには少しずつ慣れてきましたが、フランス語と英語に翻弄されてはかつての勉強が思い出される日々です。相変わらずの本の虫なので、日本語の書籍が自由に手に入らない生活はなかなか辛いです(フランス語を母国語と全く同じ感覚で読めたら問題ないのですけど、とてもそんな境地には至りません)。

完全なる私信になってしまってすみません。よろしければ、今後もお邪魔させてください。
Commented by foggykaoru at 2013-01-16 21:08
satoさん。
私にメニム一家を教えてくださった方ですよね。わかりますとも。
>フランス語版の苦痛の中から這い上がり歌うような力強さ
そうそう、そこですよね!
フランス語版の歌詞で聞く、フィナーレの「民衆の歌」の重さこそが、レミゼの精神なんじゃないかと思うんですが(とか偉そうに言いつつ、原作を読んでいないので、よくわかっていない(自爆))

これからも遊びに来てください。

実はこの翻訳、今になって悩み始めました。
ami fideleというのは、呼びかけなのだろうか?と。
もしかして、「明日」の同格?
「忠実な友である明日に乾杯」?
Commented by 藤咲理香 at 2013-03-10 21:59 x
素敵な記事読ませていただきました。
フランス語版なんてあるんですね(^_^)。

たまたま自分のブログに記事を書いていて、ネットで調べていたら見つけてしまいました。

フランス語歌詞、この記事のリンクと一緒に貼らせてもらいました(^_^)。

ありがとうございました(^_^)。
Commented by foggykaoru at 2013-03-12 21:08
藤崎理香さん。
リンクありがとうございます。
最初にフランス語版があって、それを英語に訳したんです。
歌詞の内容にはあまりこだわらない「超訳」で。
それがヒットしたんですよ。
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