尾嶋彰著「パリふんじゃった--花の都の奇人たち」

c0025724_2012323.jpg著者は在仏の建築家。この本を書いた時点(1995年)でフランス在住25年だったようです。
つまり、プロの物書きではない。でも、読ませます。

この本の面白さは、第一に素材---著者が実際に出会った人々---の面白さです。でも、それだけではありません。

友人のダンナに建築設計事務所をやってる人がいるのですが、彼を見ていると、建築家という仕事は単に建物を造ればいいのではなく、まずなによりも顧客の心を掴み、綿密なコミュニケーションをとる能力が必要なのだと感じます。さらに、部下を掌握しなくてはならないし、現場ではガテン系の人たちと呼吸を合わせることもできなくてはならない。

それを外国で、外国人相手に、やっていくのです。
どれほどの文化摩擦、どれほどの挫折を体験したことでしょう。
また、どれほど濃い交流を持ち、どれほど深く人間を見つめてきたことでしょう。
豊かな体験の中から選び出された素材なのですから、よりすぐりです。

ところで、「花の都の奇人たち」という副題は、奇人変人を面白おかしく紹介しているような感じがしますが、そういう本だと思って読むとがっかりするかも。著者の態度は決してそうではないのです。なんというかな、こういう形容は変かもしれないけれど、まなざしが「練れている」のです。だから、「花の都の」の後に、私はむしろ「人間模様」とか「人生いろいろ」と続けたいです。ちょっとアレンジしたら珠玉の短編小説になりそうな一編もあります。

フランス関係のエッセイというと、仏文学者によるものでなければ、若手フリージャーナリストによるものが大部分です。仏文学者によるものは、それはそれなりに蘊蓄が楽しめるのですが、学者の世界は実社会ではありません。一方、若い著者によるものは元気印が魅力ですし、今のフランスを感じさせますが、オバンにはちょっと食い足りない。

これは、フランス実社会でもまれにもまれてきた人による、貴重な証言です。

蘊蓄に走っていないので、フランスマニアでなくても、十分に楽しめるはず。どなたにもお薦めです。


この本に関する情報はこちら
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by foggykaoru | 2006-03-25 20:18 | エッセイ | Trackback | Comments(15)

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Commented by ケルン at 2006-03-26 00:49 x
ヨーロッパの建築は、教会建築を軸に発展してきたのですよね。フランスは規制が多い点での苦労も多いのでしょう...。

ここ数年、建築とか建築家というジャンルが気になっています。この方面、積極的に触れたり学んだりする機会はなかったので、自分でも、どれくらい興味があるのかな?と思っているのですが、どうやら建築関係の本を眺めたり、展示を見たりするのが、他の分野と比べても楽しくなってきました。おもしろそうですね。

ところで、(もともとあまりTVは見ないのですが)あるときから、TV番組があまり面白くなくなったと感じはじめました。たぶん、作り手の世代が自分に近くなってからでした。発想が近いというのか。(もちろん面白いものもいくつもあるのですが)読み物についても、似たことがいえるかもしれません。
Commented by foggykaoru at 2006-03-26 18:41
ケルンさん。
そのとおり! この著者は法律とも格闘してきているんです。
そういう体験も、普通のフランス関連エッセイには無い深みを与える要因になっているように思います。

最近のテレビがつまらないのは、年代の問題なのかなあ。
単にもうアイディアが出尽くしたんじゃないかと。
Commented by at 2006-04-13 23:25 x
面白そうだなと思って借りてみました。世の中人には悲喜こもごもなバックがあって、何かのタイミングで表面に出たのを筆者は上手に観察してるなあと思いました。まだ途中なのですけど。人が好きでないとこれは書けませんね。

法律は幸い私は関わって無いです。法律も分かりにくいのですが、手順である要領になるともっと訳分からなくなって参ったことがあります。一番手っ取り早いのは法律の条文を読むことなんですね。内部規定→要領→法律本文に遡ってやっと理解できました。標準なら方法なので付いていけるのもあるのですが。
Commented by foggykaoru at 2006-04-14 21:35
蓮さん。
この著者の場合、「鋭くて温かいまなざし」を持っているんですよね。
「鋭さ」と「温かさ」が両立する人はなかなかいないんじゃいかしら。
Commented by at 2006-04-15 01:13 x
鋭い観察眼と人間的な暖かさが両立する人は、リーダーとして組織などの集団を引っ張って行く人ではないでしょうか。
今のマイブームがシャクルトンなので、リーダーの資質に目が行きます。「平時の指揮官 有事の指揮官」を引っ張り出しました。この本、納得すると思いますよ。
Commented by foggykaoru at 2006-04-16 09:43
蓮さん。
うんうん、シャクルトン、知ってます。そのうち読むかも。
Commented by at 2006-04-18 19:04 x
読了しました。「人生は面白うてやがて悲しき」という言葉がぴったりきそうな話がいくつもありました。パリだからではなく、暖かい心を持ちつつも冷静な行動を取れるのは難しいです。

シャクルトン未読は意外でした。また、最悪の旅を読んで下さい。
Commented by foggykaoru at 2006-04-18 20:42
蓮さん。
シャクルトンは寒いから、二の足踏んでるんです。読んでるだけで風邪引きそうで(笑)
Commented by at 2006-04-18 23:05 x
かおるさん、大丈夫。南極にはウィルスは居ないから風邪を引きません。もっとも、「どーして生きてるの~」という行動はしてますけど。
バーケンティン型帆船エンデュアランス号の設計図は舐めるように見ました。
Commented by foggykaoru at 2006-04-19 20:30
蓮さん。
ココは掲示板じゃないので、あんまり延々とスレッド伸ばさないでね。。。
Commented by at 2006-04-20 00:44 x
わ~。すみません。余計なのを延々やってました。以後気をつけます。
Commented by ケルン at 2006-05-15 12:34 x
今頃の感想ですが、書いておきます。
この本、読み終わりました。楽しめました。

楽しめましたが、確かに奇人というか、読み終えたあと哀しみが残る話が多かったです。フランスには行ったことがないのですが、いろんな人がいるんですね。

さらっと書いてあるけれど、このように建築家として現地の人とやっていくようになるまでは並大抵ではない努力と苦労があったことでしょう。その後、ご自身も苦労されたみたいで、それはこの本に出てくる題材に劣らないんじゃないかと想像しています。

パリのアパルトマンには、わりに最近まで、シャワーとトイレ共同のところが多かった、などというのは、意外でした。

あと、失礼にあたらないといいのですが、文筆で身を立てているわけではなさそうなのに、相当書き慣れているというか、文章上手すぎ(?)というくらいの印象を受けました。海外で長く生活している人には、流行の日本語に触れる機会が少ない分、きちんとした日本語を使い続ける場合もよくあるみたいですが、その結果なのでしょうか。
Commented by foggykaoru at 2006-05-15 22:01
ケルンさん。
そうなんです。抱腹絶倒の奇人たち、じゃなくて、とーっても哀愁が漂っているんです。
ちょっと手を入れたら珠玉の短編小説になりそうだというのは、ひと部屋だけ残された部屋に頑張ってた男性の話です。すごく切ないでしょ。。。
文章のうまさに関しては同感です。もしかしたら、編集者がよっぽど腕利きだったのかな?なんて気を回してしまうぐらい。
Commented at 2008-02-23 00:19 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by foggykaoru at 2008-02-25 20:41
パリ在さん。
ようこそ♪ そういう亡くなり方をしたんですか・・・。
建設関係というのはきれいごとではないですよね。
だからこそ、こういう本を書くことができたのでしょうけれど。

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