佐藤康彦著「イスラエル・ウクライナ紀行―東欧ユダヤ人の跡をたずねて」

古本屋でこの書名を見て、「うへっ、渋い」と思った。
「ウクライナ紀行」だけでも十分渋いのに、イスラエルとの合わせ技ときてる。
しかし、ウクライナに行ったことがあり、イスラエルにも行きたくてしょうがない私にとって、この組み合わせはど真ん中のストライク。しかも、この人、ルヴォフにも行っている。ルヴォフというのは今のリヴィウ。私が今までに一番苦労をした、忘れられない町である。これは読まねば。

著者はドイツ文学者で、ヘルツル---私は知らなかったのだが、シオニズムの提唱者らしい---及び東欧におけるユダヤ人社会の歴史の専門家。
だから、行く先々にユダヤ人の知り合いがいるわけで、見知らぬ土地を手探りで行くといった「旅の醍醐味」は期待し過ぎないほうがいいかも。でも、学者以外にこんなテーマの旅を思いつくはずがないので、それは仕方がないというものだ。

特に前半は、イスラエルのシオニズム研究所での日々の記述が中心となっていて、厳密に言うと、この部分は「滞在記」であって「旅行記」とか「紀行」ではない。

それでも、イスラエルという国に興味があれば、けっこう楽しめる。公共交通すらストップするユダヤ教の安息日に、アラブ系のバスで移動したというくだりや、十字軍の時代にその名をとどろかせたヤッファの港の現在の姿などが、私には非常に興味深かった。

c0025724_2265836.jpgそして、研究所通いの日々を終えた著者はウクライナへ向かうのだが、その交通手段がすごい。なんと、イスラエルのハイファとウクライナのオデッサを結ぶ定期船に乗って行くのである。
一般観光客にとっては超マイナーな航路だが、東欧に故郷を持つ人が少なくないイスラエルのユダヤ人御用達なのだとか。ああ、いいなあマニアックで。

オデッサからは、タクシーをチャーターして隣国であるモルドバに入る。
そして、その首都キニショフから鉄道で再びウクライナに戻り、チェルノヴィツェ、リヴィウを経由してポーランドに入り、著者の旅は終わる。

紀行文としての白眉は、頼れる知己が少なかった「オデッサ→キニショフ→チェルノヴィツェ」の部分。文芸作品の翻訳も手がける著者の筆の確かさもあいまって、実に深い味わいがある。「旅っていいなあ」としみじみ思った。特に東欧を旅したことのある人にはたまらないはず。

私はこういう本が好きです。


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by foggykaoru | 2006-04-11 20:37 | ルポ・ノンフィクション | Trackback | Comments(5)

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Commented by go_to_rumania at 2006-04-14 00:50
これ、かなり興味深いです。
ジプシー・イスラエル人(並列して書いてはいけないかもしれませんが)
ルーマニアには非常に多くいます。
そしてどちらもあまりイメージがよくないのが現実。
でも私はイスラエル人の親しい友人がおりまして
イスラエル語を少し習ったり、イスラエルの習慣(金曜の
宗教的な夜とか)見せてもらったり、とても興味深いです。
本当は今年のイースターに初イスラエルになるはずだったのですが
実現できずに ;;; いつかぜひいきたい国のひとつです。
この本、帰国時に見たいリストに入れました!
Commented by foggykaoru at 2006-04-14 21:39
go_to_rumaniaさん。
今から10年ぐらい前に書かれた本なのですが、きっと楽しめると思いますよ。お薦めです。
Commented by ふぃんふぃん at 2006-04-19 01:22 x
かおるさん、こんばんは。 「ふぃ」んふぃんです(分かるかな?)
ウクライナの古本とあったのは、この本だったのですね。
私は、この本にユダヤから見たウクライナを教えてもらって
ウクライナの見方が変わったんですよ。

この本が出版された後ぐらいにはじめてウクライナへ行ったのですが
リヴィウの旅行会社の方に、ウクライナの何に興味あるのと聞かれたので
(この本ではじめて知った)ヨーゼフ・ロートに興味があると答えてみたら
とてもお話が盛り上がりました。
佐藤氏にはホントには感謝してます(笑)

この本がきっかけでヨーゼフ・ロートの小説も読んでみましたが
ハプスブルグへの郷愁があふれているところが、大好きです。
ドイツ語圏から西ウクライナへ来る人は、ヨーゼフ・ロート縁の地を
目指してくる人が結構いるのとか。

# この本に出てくるチェルニフツィ(チェルノヴィッツ)も実はすてきな街なんですよ~
Commented by ふぃんふぃん at 2006-04-19 01:35 x
そうそう(しつこく書いてゴメンナサイ)
かおるさん紀行文でリヴィウからポーランドへ向かうくだりを
読ませていただいたとき、
「イスラエル・ウクライナ紀行」を思い出したのですよ☆
Commented by foggykaoru at 2006-04-19 20:35
ふぃんふぃんさん。
こちらでははじめまして♪
>チェルニフツィ(チェルノヴィッツ)
あっ、この町素敵そうだなって思いましたよ~
旅ネタがあったら、メインサイトの掲示板にも顔を出してくださると嬉しいです。
あそこ、最近、あんまり旅の話が出なくて、ちょっと困ったなって思ってるところなので(苦笑)

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