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機内で見た映画(2):FotRフランス語版

英語以外のヨーロッパ言語には二人称単数が二種類あります。
ひとつがタメ口用の二人称、そしてもうひとつが敬語的な二人称。
LotR三部作を性懲りもなく繰り返し見て、台詞を一通り覚えた上で、いろいろな言語で見てみると、この二種類の二人称の使い分けが、けっこうバラバラだということを発見しました。ラテン系言語であるフランス語版とイタリア語版でも、相当違うのです。(イタリア語版に関してはぴぴーなさんのブログをご覧ください。)

で、今回のFotRフランス語版ですが

ビルボはフロドにタメ口のtu
フロドはビルボに敬語のvous
ビルボとガン爺はお互いにvous

といったように、納得の使い分けをしています。

へえええと思ったのが、指輪をはめたときのフロドに対するサウロンの台詞。これがvousなんです。
ガン爺が「お前は通さん!」とバルログに言う台詞もvousです。
第三部RotKのSEEのフランス語版を見せていただいたとき、滅びの山で(劇場版よりもさらに)しつこく襲ってくるゴラムに対して、フロドが「お前は誓うと言ったじゃないか」をvousで話しているのを聞いて、「んな~、今までちっとも旦那らしくなかったのに、なにもこの場に及んで旦那ぶることないじゃないか。」と思ったものでしたが、別にそういうことではなかったのでした。
つまり、フランス語では、「敵」に対して、比較的vousを使うことが多いのでしょう。これはvousが敬語である、という考え方をすると訳がわからなくなります。それよりも、vousを使うということは、自分と相手に距離を置くということである、と考えるべきなのでしょう。

あと、別れの言葉。
ビルボが誕生パーティーで「みなさんにお別れしなくてはならない」と言うところは"Je vous dirai adieu." アデューは「とわの別れ」のときに使う言葉。
そして、その後に「さようなら」と言って消えるのですが、そこは"Au revoir"になってます。オールヴォワールは「また会いましょう」という意味のさようなら。
この不統一は何?
これはさっき辞書を引いたら解決しました。
"dire adieu"というのは、一般的な「別れを告げる」という熟語表現だったのです。別に「とわの別れ」とは限らない。

次、フロドが「ぼくが行く!」と言ったあとの、「道がわからないけれど」
英語では"I don't know the way."です。
これをフランス語で"Bien que je ne connaisse pas le moyen."と言っているのを聞いて、心の中でうーんと唸ってしまった私でした。
"le moyen"というのは「方法・手段」なのです。
英語の"the way"は「道」という意味と、「方法」という意味があって、まさにこの場にはぴったり。
で、日本語では「方法」という意味を切り捨てて、「道」と訳しているのです。

フランス語ならではというクリーンヒットもありました。
それは、アルウェンが恋人に剣をつきつけて「野伏ともあろうものが・・・」という、見るに耐えない、聞くに耐えない、例のあの台詞。
これを"Un garde qui ne prend pas garde."
イタリック体のところ、ダジャレです。直訳すれば、「番人が用心していないとは」ということですが。



ところでこの記事、いったい誰を対象に書いているんでしょうね。。。

こんなことを面白がってくれる人は、日本広しと言えども、片手でも余るじゃないかしら。



で、ここからは面白がってくれる人が飛躍的に増える発見です。

このフランス語版FotRには、なんと日本語字幕が付いていたのです。
しかも、なっち訳とは全く違う。
"Strider!" が「馳夫さん!」
素敵でしたよーー♪
それ以外にも、ガン爺がバルログに「常つ闇におちるがよい!」とか、格調高い瀬田節がちりばめられています。

でも・・・・

この字幕担当者、瀬田訳の素晴らしさは熟知していても、自力ではまともな日本語には訳せないみたいなのです。
原作に無い台詞の訳は、はっきり言ってなっち並み。
なにしろ、「モリアの炭坑」とか言ったりするんです。
ボロミアも「我々の帰宅を待っている」と口走ったり。(ファラミアが「おにいちゃん、おかえり!」と言うのが目に浮かびます。)

ちなみに、「うそつき」は「ボロミアじゃなくなっている」でした。
これは今や定訳になったようですね。

by foggykaoru | 2006-08-18 00:08 | 指輪物語関連 | Trackback | Comments(10)

Commented by 鳥エルフ at 2006-08-18 09:10 x
こちらでは初めまして。
非常に興味深く拝読させていただきました。
やはり言語理解があるとないとでは楽しめる度が大分違ってきますよね。
自分も精進せねば、という気にさせられます。
Commented by ケルン at 2006-08-18 19:33 x
いえいえ面白いですよ!

>つまり、フランス語では、「敵」に対して、比較的vousを使うことが多いのでしょう。これはvousが敬語である、という考え方をすると訳がわからなくなります。それよりも、vousを使うということは、自分と相手に距離を置くということである、と考えるべきなのでしょう。

ちょうど数日前、読んでいた翻訳書(原文は英語)では、親しいとはとてもいえないような、
敵といってもいいような相手との間で「そなた」という言葉が使われていました。
なるほどねーと思いました。
英語では、敬称の2人称の代わりにSirをつけたりするんだと思いますが、
「そなた」というのは、別にすごく敬意を表すわけではないけど距離はある。
文語的な言葉は便利なんだなー、と感心しながら読んでいたところでした。
Commented by foggykaoru at 2006-08-19 12:08
鳥エルフさん。
ようこそ♪ 言語理解っていっても・・・ これはもはや「指輪理解のため」という範疇を大きくはみ出してしまってます。それに、ネタにしてるのが原作じゃなくてPJ映画だし。
どうしようもなく邪道な指輪ネタです(^^;
でも反応してくださってありがとう♪
Commented by foggykaoru at 2006-08-19 12:10
ケルンさん。
幽鬼ではないケルンさんが面白がってくださるとは!
よく、子供がいたずらしたとき、「ジム!」じゃなくて、「ミスター・ターナー、あなたは自分のしたことがわかっていますか」みたいに叱られる、というのと似ているかしら?

↓下の記事のコメント欄でportさんがケルンさんに呼びかけてくださっているので、読んであげてくださいね。
Commented by at 2006-08-20 20:33 x
そうかなー。仏語は宇宙語、英語は幼児並み、日本語も不自由ときてますが、面白かったです。そういえばドイツ語の2人称が何で二つあるのか疑問符だったのを思い出しました。
2人称の使い分けが距離の差というのは合理的な説明ですとんとお腹に落ちます。
wayが単純に道と思っていたけど、手段も掛けていたのですね。面白い。
瀬田さんのいい味が出た字幕に拍手ですが、その訳は「小学生か?」と思ってしまいました。
へえ。子供を叱る時に敬称が付くんですか。確かにざっくばらんな言葉より丁寧語で叱られた時の方が怖かったけれど。
Commented by mog at 2006-08-21 13:44 x
☆“モリアの炭坑”って、それは東京大学英米文学の教授とおんなじってことです、ある意味、“スゴイ”です。
Commented by foggykaoru at 2006-08-21 21:14
蓮さん。
ヨーロッパ言語では、二人称単数は二つあるのが主流。英語が特殊なんですよ。
使い分けに関して、こういうふうに解説を加えるのはできても、実際に自分で訳さなくてはならないときには、どちらを使うべきかでけっこう悩むんですよ。。。
Commented by foggykaoru at 2006-08-21 21:16
mogさん。
ってことは、KLMの指輪映画の日本語字幕作成者は、瀬田訳と某T大教授訳の、それぞれいいところを採用したんでしょうか?(爆爆爆)
Commented by フェンディ at 2006-08-25 00:55 x
こんばんは、お久しぶりです。
>ファラミアが「おにいちゃん、お帰り!」
に腹筋が切れそうです。(爆笑)
お、可笑しい!可笑しいよー!!ひーん(泣き笑い)
Commented by foggykaoru at 2006-08-28 20:17
フェンディさん。
ファラミアは心優しい弟ですもの。
おにいちゃんが帰宅したら、きちんと挨拶するに違いありません(爆・爆)
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