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肉うどんと種入り菓子

ケストナーの「雪の中の三人男」(創元推理文庫)を読みました。
これは児童書ではなくて、大人向けの文学。ケストナーに興味があるのなら、ご一読を。

ところで、この作品に「肉うどん」という料理が登場します。「牛肉入りのうどん」と訳されているところもあるのですが、とにかく、「うどん」なのです。
元のドイツ語では何なのでしょうね? 牛肉の煮込みのパスタ添え? 
日本語版の初版が1971年。訳者は小松太郎という1900年生まれの人。翻訳にとりかかったときは、すでに高齢だったのでしょう。
それにしても肉うどんとは… 舞台はドイツですよ、ドイツ。

もっとも、翻訳文学を読んでいると、こういうことはちょくちょくあります。

6年ほど前にランサム全集を読み直したとき、ダリエン岬でいきなり「コーヒー茶碗」が出てきたのには驚きました。これは原文では"mug"、つまりマグカップ。
子どもの時から謎だったのが「種入り菓子」。何かの種---大きさとしてはひまわりの種ぐらい---が入っているお菓子だと、漠然と思ってました。
大人になってからランサムを読んだ(=正確に言うと、私が読ませた)友人は、既に大人の教養があったから、「パンだね」の「たね」のことだと思ったそうな。

「エルマーのぼうけん」には「みかん」が登場します。これまたえらく日本的な食べ物です。原文ではオレンジなのではないかと思うのですが。ご存知の方、教えてください。

「ライオンと魔女」に出てきたプリンは「ターキッシュ・ディライト」。これは瀬田貞二氏があとがきで明らかにしています。この謎のお菓子を実際に口にすることができたのは、ほんの去年(おととしだったかも)のことでした。

これらの翻訳を笑ったり、一律に批判することはできないと思うのです。すべて、読む人の身になって、翻訳者が頭をひねって考え出した訳語なのですから。

食べ物というのは、その国の文化が最も端的に現れるものなのではないでしょうか。今、「種入り菓子」を笑えるのは、ここ数十年の間に日本社会と日本の食卓が急激に欧米化した証。
飲み食いの話題がやたらに多いランサム・サガを、1960年代に翻訳した神宮輝夫先生のご苦労は、並大抵のことではなかっただろうと想像します。

それに比べて最近の翻訳は…などと言えるほど読んでいないのですが、「ライラの冒険シリーズ」の翻訳は気に入りませんねえ。"Clouded Mountain"を「クラウデッド・マウンテン」と書いて済ませるのは、翻訳の名に値しないと思うのです。

by foggykaoru | 2005-02-03 20:53 | バベルの塔 | Trackback(2) | Comments(17)

Tracked from 絵本と映画とフェレットと.. at 2005-03-14 15:00
タイトル : 「ライオンと魔女」に出てきたプリン
「Foggyな読書」さんの記事からTBさせていただきました。 「ライオンと魔女」に出てきたプリン そう、一口食べてエドマンドがとりこになってしまった あの、美味しそうなプリン♪ あれって、空想の食べ物かと思っていたら 「ターキッシュ・ディライト」という、実在するお菓子だったんですね。 どんなお菓子で、どんなお味なんでしょうか? 食べてみたいな〜。 自分でもつくれるのかしら? 「ターキッシュ・ディライト」探しに ハマってしまいそう。。。。。 関連記事... more
Tracked from Sextans 好奇心の.. at 2005-03-22 22:33
タイトル : かき卵いり卵。
先日ランサム好きの友人たちとイタリアンを食しつつ(笑)おしゃべりしていたときのこと。 「かき卵といり卵って、どっちのコトバを使ってました?」 とわたしが質問してみました。 どういうことかと言いますと。 アーサー・ランサムの「ツバメ号とアマゾン号」のシリーズに出てくるキャンプ料理が かき卵だからです。 まずは日本の「いり卵」。 これは油をつかわずに、湯煎にかけながら卵をぽろぽろのそぼろ状態にするものです。 二色そぼろご飯の卵がこれです。 そして「かき卵」。 こ...... more
Commented by ケルン at 2005-02-03 23:57 x
ケストナーの大人向け小説、他に『消えうせた密画』『一杯の珈琲から』『ファービアン』もあります。『ファービアン』は、彼のシニカルな面が全開で、ちょっと疲れるかもしれませんが、ケストナーの生涯を語る上では外せません。私が好きなのは『一杯の珈琲から』。軽妙洒脱で、音楽でいえばドイツの山歩き用の楽しい歌か、軽快なポルカのイメージがあります。
原書も持っていますが、いつの日か読めるかなあ。。。
どうぞご一読を!
Commented by ケルン at 2005-02-04 00:00 x
すみません。書き忘れ。
「肉うどん」といえば、『サウンド・オブ・ミュージック』に出てくる「私のお気に入り」という歌には、「ヌードルつきシュニッツェル」というお料理が出てきます。『雪の中の三人男』の原書は見ていませんが、関係ないかしら。
Commented by foggykaoru at 2005-02-04 22:47
ケルンさん、ようこそ!
「雪の中の・・・」は、先日銀座に行ったとき、ナルニア国で買ったものです。「消え失せた密画」「一杯の珈琲から」もあって、どれにしようか迷ったんです。
>ヌードルつきシュニッツェル
シュニッツェル!! 確かにそういうたぐいの肉料理である可能性もありますね。
Commented by KIKI at 2005-02-05 15:02 x
あれあれ、いつの間にコメント機能つきに!?
ターキッシュディライトは私には未だに謎なお菓子です。
早く英国に行かないといけませんねぇ・・・。

肉うどんって訳はいくら高齢でも・・・ねぇ(苦笑)
翻訳家ってほんと広くモノを知ってないといけないから大変ですよね。
Commented by ゆきみ at 2005-02-06 00:35 x
コーヒー茶碗って、どこが変なのかなぁという私は、一昔前の人ですね~。
気がつくと、今でも「乳母車」とか言ってます。ははは。
Commented by foggykaoru at 2005-02-06 09:46
ゆきみさん、こんにちは。
あそこを読み直したとき、「えーっ、紅茶飲むのにコーヒー茶碗って何よ!」って思ったんです。でもその後からmugは「柄付きコップ」になったんでしたっけね。そっちを書くべきだったかも。

乳母車って、よく考えてみると「乳母」の「車」ですね。考えなくてもわかるか(自爆) なーんかけっこうランサムっぽい♪
ゆきみさんのところは「大叔母車」と言うべきなのかもね(笑)
Commented by foggykaoru at 2005-02-06 09:48
KIKIさん、レスの順番が逆になっちゃってごめん。
レスつけは掲示板だけで十分!とか思ってたんだけど、結局こうなっちゃいました(苦笑)
ターキッシュディライトはにちゃにちゃしたういろうみたいなものでした。プリンのほうが美味しいと思うわ(笑)
Commented by foggykaoru at 2005-02-06 10:08
ランサム好きの皆さまへ
このブログでランサムネタが盛り上がるのは、私にとって、とても嬉しいことです。ですが、掲示板でランサムの話題が出なくなると、これまた寂しい・・・。
旅情報を求めてやってきた人が、掲示板を見て、「ん?ランサムって何?」と思ってくれて、そのうちの何パーセントかが実際にランサムを読んでみてくれることを期待して、あえて掲示板を分けずにきたのですから。
ということなので、これからもランサムネタがあったら、どしどし掲示板に投稿お願いします。
Commented by 増本 at 2005-03-10 16:12 x
いきなりの割り込みでご免なさい。下記の件でお願いしたいのです。
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Commented by Rupinasu_3 at 2005-03-14 15:07
はじめまして、児童書関連の記事を見ながら
リンクをたどって、偶然こちらの記事を発見しました。
「ライオンと魔女」に出てきたプリンが、実在のお菓子だったなんて、知りませんでした。
なんだか、大発見をした気分で嬉しいです。
事後報告ですみませんが、TBさせていただきました。
ありがとうございます。

実在するとなると、食べてみたいです〜
お味の方はいかがでしたか?
Commented by pipina_tuc at 2005-03-15 22:55
えっ!?あのプリンは、卵のあのプリン(プディング)と違ったのですか~!にちゃにちゃしていて、味も卵のプリンに劣るとは。ショッキング・・・。

ターキッシュ・ディライトは日本でも食べられるのですか?気になります。
Commented by foggykaoru at 2005-03-16 17:54
Rupinasu_3さん、はじめまして♪ TBありがとうございます。こちらからもTBさせていただきますね。
お味のほうは・・・プリンのほうが美味しいです。。。と、なぜか言葉少な(爆)
Commented by foggykaoru at 2005-03-16 17:56
ぴぴーなさん、「ライオンと魔女」のあとがきで、瀬田貞二さん自らがそうお書きになっているんです。
私が食べたターキッシュ・ディライトは、友人がくれた海外旅行土産でした。日本で買えるのかなぁ・・・?
Commented by crann at 2005-03-22 22:12
かおるさん、トラバありがとうございます。

「肉うどん」は、挽肉入りのクヌーデル、太いヌードル入りスープではないでしょうか?たぶん、ですが。
確かに見た目は肉うどんといえます(笑)

「ターキッシュデライト」のこと、米原万理さんの『旅行者の朝食』にでてきます。これがまた、米原さんのご幼少に出あったトルコの美味なるお菓子の人生かけた?(笑)探求話で、それを読むと、実はターキッシュデライトのホンモノ、源流はものすごく美味なる謎のお菓子で、それを西欧人が求めた結果が・・・ターキッシュデライトらしいです。
どうもシシリアにも同系統のお菓子があるらしいですよ。
これを読んだら、エドワードが魔女についていってしまうのは仕方がないかな?と思えます(笑)

ランサム・サガを翻訳した神宮さんのご苦労、いまさらですが大変だったでしょうね。
スクランブルエッグという言葉自体は、1960年代では一般的だったそうですので、あえて「かき卵」を含めて日本の言葉におきかえようとした、瀬田さんにも通じる「日本語」への変換への思いが感じられました。
Commented by foggykaoru at 2005-03-23 21:53
crann@leiraniさん、こちらこそTBありがとう♪
>ターキッシュデライトのホンモノ、源流はものすごく美味なる謎のお菓子
むむむ。。。それがあんなものになってしまったのは、やっぱり味オンチのイギリス人の責任なのでしょうか?(爆)
あのにちゃにちゃしたお菓子だと思ってはいけないんですね。
あくまでも、ネーミングから来る、異国的なイメージを大切にしなくてはいけない、、、と(笑)

>スクランブルエッグという言葉自体は、1960年代では一般的だったそうです
そうだったんですかーー
私はまだ子どもで、あんまりお料理の名前を知らなかったので、スクランブル・エッグと言われても、ぴんとこなかったかも、、と思うのですが、「ツバメ号とアマゾン号」には、ご丁寧に作り方も書いてありましたっけ。だったら、スクランブル・エッグでも大丈夫だったかも(笑)
Commented by ars at 2007-10-29 02:41 x
はじめまして。

いつも楽しく拝読させて頂いております。
「種入り菓子」ですが、これはseed cakeではないでしょうか。
実際、けしの種を入れて、ケーキを焼きますよね。
BBCのcookingのところにレシピがありました。
http://www.bbc.co.uk/food/recipes/database/bluepoppyseedcake_7097.shtml

お友達の言う「種」は、doughのことではないでしょうか。
お菓子を作るときに粉やベーキングパウダーや他の材料を混ぜて捏ねたもの
のことを日本語では「種」、英語ではdoughと言うのではありませんか。
広辞苑で「種」を引くと、「料理の材料」とあります。
ケーキのdoughを種というのは近頃、聞かないのは、私の生活がケーキ作りに
縁がないからかもしれませんが、doughのことを種と言うことがなくなっている
ということも考えられます。
そこで、oughを英和で引くと、「練り粉、パン生地、こね粉状のもの」などとあります。
Commented by foggykaoru at 2007-10-29 21:42
arsさん。
ようこそ♪ 
ご指摘ありがとうございます。
そのとおりです。種入り菓子の正体はシードケーキなんです。
ランサムに出てくる謎なアイテムのことを研究しているサイトがあるんです。「種入り菓子」でググるとトップに出てきます。
そのサイト、今は更新が止まってしまっているのですが、初めて見たときは「世の中にはこんなにランサムのことを研究している人たちがいるんだ~」と感動したものです。
友人が「種」を何のことだと思ったのかは定かではありませんが、たぶんarsさんのおっしゃるものなのではないかと思います。
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