アンリ・トロワイヤ著「サトラップの息子」
2008年 02月 25日
そのトロワイヤが普通の小説を書く作家だったということに、まず驚いた。
それどころか、若くしてゴンクール賞(日本で言えば芥川賞みたいなもの?)を受賞し、40代の若さでアカデミー・フランセーズの会員になったという、正統派バリバリの文学者だったのである。
ロシアの裕福な家庭に生まれ、ソ連邦の誕生とともに、家族をあげて命からがらフランスに亡命し、帰化したという彼自身がこの小説の主人公。非常に私小説っぽい雰囲気の作品だが、訳者のあとがきによれば、彼とその家族以外はおそらく創作であろうとのこと。
地味な小説なので、読んでいるときはそれほど気に入ったという自覚はなかったのだが、妙にあとをひく。私は子どもの頃、気に入った作品は読み終わったとたんにまた読み直す、という癖があったのだが、久しぶりにそういうことをさせてくれた作品。
トロワイヤ、あなどれんぞ。
さすがアカデミー・フランセーズ(笑)
ソ連の社会主義革命は、トロワイヤのような才能を駆逐したのだ。文学に限らず、いろいろな方面の才能を。たぶん今もなお、その損失は埋め合わされていないんじゃないだろうか。モスクワ空港のトランジットの混乱ぶりは、気の利いた人が足りない証拠(爆)
祖国を捨てることによって人は心に傷を追う。その傷はたとえ新しい国に順応できたとしても、決して癒えることはないのだろう。ふと、「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」を思い出した。
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草思社刊です。
by foggykaoru | 2008-02-25 21:28 | 普通の小説 | Trackback | Comments(2)
かなり前に近代ロシア絵画展があって、その時に買った図録を後で見返して暗澹とした気分になりました。革命前には、非常に生き生きとした人物画や風景画が色々あったのですが、革命後はメーデーの大群衆とか、灰色の労働者の群れと一緒に歩くレーニンとか(これは「レーニンと共に」という題でした)、農家で電灯を初めて付けた情景(「レーニンの灯、と人々は呼んだ」)とか、そんなのばっかりでした。