2009年 05月 03日 ( 1 )

ルネサンスの女王エリザベス

敬愛する石井美樹子さんの本。

表題に偽りあり。
この本は前半こそエリザベス1世を扱っているけれど、後半は同時代の他の女性たちの生涯を描いているのだから。
本を売るために編集者がつけた書名なんだろうな。

かなり前に読んだ「イギリス・ルネサンスの女性たち」の二番煎じの感があるけれど、それなりに面白い。

エリザベス以前、たとえば姉のメアリーの肖像画は写実的なのだが、エリザベスのは違う。彼女はセルフプロデュースの感覚が鋭くて、中年以降、おいさらばえた姿の肖像画は廃棄させてしまい、イコンのような「これぞ女王でござい」というごてごてスタイルの絵を描かせつづけたのだそうだ。国民の心を惹きつける戦略として。それはプロテスタント化した英国において、聖母マリア像の代償的な役割を果たした。マリアと同じくバージン(というふれこみ)だし。ごてごてスタイルではあっても、彼女は使い回しが上手で、宝飾品類も姉のメアリーのおさがりだったりして、見た目ほど支出は多くなかったとか。

また、自分自身はルネサンスの光を存分に浴びた随一の教養人だった。姉メアリーの母キャサリンがスペインのイザベル女王の娘で、「女性も教育を受ければ母のような優れた統治者になれる」という考えだったおかげ。けれど、彼女の在位中に英国ルネサンスは急速にかげっていったのだとか。政治的に後継者を残さなかっただけでなく、文化的にもそうだったのだというのが興味深い。

イギリスの宗教改革は、ヘンリー8世が離婚したかったという、ともすれば個人的事情にばかり注目が集まるけれど、成功のカギはイギリスの国内事情にあった。
宗教改革者たちは、改革期の不安定な社会状況を国王の権威によって乗り切ろうとし、国王に積極的に宗教上の力をあたえた。(中略)王の絶対的な力を後楯に、市場の統一と拡大、流通機構の拡張をはかろうとひた。国王の思惑と、下からの「期待」が見事にからみあったところに、イギリスの宗教改革が実現し、絶対君主が出現したのだ。

そして、フランスとスペインという二大カトリック国家に挟まれて、イギリスはかなりの窮地に陥る。正式な外交の窓口はパリのイギリス大使館のみだった。となると、諜報部員の個人的活動の比重が高くならざるを得ない。実際、女王暗殺の企てが何度かあり、彼女が天寿をまっとうできたのも優れたスパイたちの力あってこそ、なのだそうだ。

エリザベスが登場した当時の英国がのるかそるかの状況だったことは知っていたつもりだったが、この本を読んでみて、改めてエリザベスの偉大さを感じた。歴史に「~たら」「~れば」は無いのだし、個人が歴史の流れに及ぼす影響など微々たるものだと思うけれど、エリザベスがいなかったら、その後の英国はどうなっていたのだろうか。少なくとも、その発展はかなり遅れたのではないか、群雄割拠のヨーロッパの地図はどうなっていたのだろうか、等々、月並みな感慨にふけったのであった。

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by foggykaoru | 2009-05-03 08:59 | 西洋史関連 | Trackback | Comments(2)