カテゴリ:エッセイ( 145 )

お茶からお茶へ、旅から旅へ

日本人にアイルランドという国の存在を知らしめた「アラン島のセーター」の著者・伊藤ユキ子氏による本。「アラン島の・・・」も読んでみようかな。今さらだけど。(私のアイルランド旅行記の中でアラン島(ほんとうは諸島)のことを書いてあるのはこのページとその次のページ)

この人、とにかく筆が立つ。

たとえばウズベキスタンのお茶どころのこの描写。
樹齢はいかほどか、楡や桑の大木が池にしなだれかかるように枝葉をのばしていた。横一列に並んだ噴水の帯がガラス細工のような涼感を添えている。水しぶきに透けて見える緑陰と縁台とお茶をすする人々と。

あるいはモンゴルのゲルの中のこの描写。旅行の無事を祈って僧がお経をあげるシーンである。
半開きの天窓から差し込む陽光が、ゲルのなかほどを照らす。光の脚によって背中に彩度の高低をつくる僧のデールは橙色。袖口の折り返しは鮮やかなモンゴリアン・ブルー。仰げば、それと同じ色の空を天窓に切り取っている。香煙は読経の声とともに光の柱へ吸い込まれ、上へ、上へ。

特に面白いのが、中国とウズベキスタンに関する最初の2章である。お茶を飲みたい一心で、言葉も通じない国で、いろいろな出会いを体験し、ずんずん突き進んでいくそのさまには、旅人として感嘆してしまう。出色。

残念ながら、後半はちょっと尻すぼみ。旅本としてはね。
お茶の蘊蓄を深めるには悪くないと思うけれど。

杭州の西湖周辺の龍井茶や虎ほう泉の記述は、行く前に読んでおくべきだった。(私の中国旅行記のうち、このあたりのことを書いているのはこのページ以降の数ページ)



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by foggykaoru | 2007-11-03 08:23 | エッセイ | Trackback | Comments(0)

六嶋由岐子著「ロンドン骨董街の人びと」

著者は古美術の勉強のためにロンドンに留学し、修士課程修了後、老舗の古美術商「スピンク」で、日本人初で最後の正規の職員として働いた経験を持つ人。

だいたいが、洋の東西を問わず、古美術の世界というのは、きれいごとでは済まないはず。
その上、階級社会の根強く残る英国で、王室に直結する、最上流階級のまっただ中に身を置いたのである。生半可な体験ではない。ネタとしては極上である。

第1章では、留学生としてロンドンに最初に居を構えたイーストエンドの実情が描かれている。
イーストエンドというのは、ガイドブックにはおよそ言及されておらず、また、企業の駐在員としてロンドンに在住する日本人の大多数が、一度も足を踏み入れることなく終わる地区。
これが実にすさまじいというか、ヤバイ場所なのである。
最近、日本は「格差社会」になったと言われるが、英国に比べればまだまだなのだということがよくわかる。

第2章からはうってかわって、古美術とそれを取り巻く人々の華麗な世界。読むうちに、「最も英国らしい英国」の伝統の厚みと品格が浮き彫りになっていく。そして、そのいやらしさ、傲慢さも。

英国のいやらしさ。
これをはっきりと描き出しているという点で、このエッセイは他に類を見ない。と同時に、その筆致に、英国に対する深い愛がこもっているという点でも比類が無い。

特定の外国に心惹かれ、その国との関わりが深くなると、どうしてもその国の嫌な面も見えてくる。単に憧れているだけでは済まなくなってくるのだ。でも、つきあいが長くなれば、その国がいわば自分の一部になってしまい、切り捨てることはできなくなる。切り捨てるということは自分を否定することになるから。悩み苦しんだあげく、欠点や嫌なところを現実として見つめ、認識しつつ、「いろいろあるけれど、やっぱり好きなのだ」という境地に達するのだと思う。

真に読む価値がある海外事情エッセイとは、そのレベルのものなのではないだろうか。

だから、英国ファン必読書だと思うけれど、初心者マークの人にはどうなのかなあ。英国に対する無垢な憧れに冷水をぶっかけることになるかも。
そのかわりに(?)年季の入った英国ファンには自信を持ってお薦めする。


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これ以外に、最近読んだ海外事情のエッセイのうち、出色だと思ったのは以下の2作。
パリふんじゃった
パリ住み方の記
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by foggykaoru | 2007-07-19 19:34 | エッセイ | Trackback | Comments(22)

「午後は女王陛下の紅茶を」

この本、すでに10日以上前に読んであったのです。連載モノを頑張り過ぎた反動でポストする元気がなくなっちゃって。
これからは普通のペースでぼちぼちやっていきます。

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著者の出口保夫氏の名前は、あんまりあちこちで見かけるので、すっかり読んだ気になっていたのですが、どうやら今までちゃんと読んだことがなかったようです。
読んでみたら、わりと好きな文章でした。これなら他のを読んでみてもいいかも。

この本は氏が山ほど書いている、英国の紅茶礼賛蘊蓄エッセイの1つ。(私が読んだのは文庫だけれど、もとの単行本は)1986刊行。

本気で英国式お茶の作法に凝ろうとか、道具を揃えようという人には、そこそこ実用書として役立つし、単に英国になんとなく興味があるという人にとっては、軽い暇つぶし本として楽しめます。

しかし、英国人が1日に飲み食いするもののうち、紅茶(+牛乳)とそれに付随する「小麦粉+砂糖+バター」で作られたお菓子の占める割合というのは、相当高そうです。いくら美味しいからって、栄養的に偏り過ぎのような気がする・・・。

最後の章が氏の主催する「英国紅茶同好会」の紹介記事だったのにはちょっとびっくり。
この会、検索してみましたが、サイトは持っていないようです。

巻末の付録が「おいしい紅茶の飲める店」のリスト。
その昔、ARCの関東お茶会は「サーモピレー」という店で行われていたと聞いたことがあるのですが、今は無きそのお店、ちゃんとこの本のリストに載ってました(合掌)
このリストの「最新版」はネット上で見ることができます。こちらです。
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by foggykaoru | 2007-07-15 21:20 | エッセイ | Trackback | Comments(10)

林望著「イギリス観察辞典」

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リンボウ先生がいろんなところに書き散らかしたイギリスに関するエッセイを集めたもの。ただ集めただけではなくて、冗談半分で「辞典」という体裁にしてある。長い項目で数ページ、短いものだと1ページそこそこなので、暇を見つけてちびちび読むのにぴったり。

イギリス好きなら楽しく読める。
イギリス好きでない人には面白くないかも。

ある国のセールスマンとしてうってつけなのは、「その国の専門家ではないけれど、その国の事情に詳しくて、その国に親近感を抱いている、筆の立つ知識人」だと思うのです。その好例がリンボウ先生。
いつも彼の本を楽しみながら、こんな腕利きのセールスマンを抱えているイギリスに、一種の羨望というか、嫉妬すら覚えてしまうのが、イギリス好きながらもフランス贔屓でもある、コウモリ女の私なのです。

この本のツボは3点。

1) 古い牧師館に泊まる
牧師館に限らず、古い建築物に手を入れて、泊まれるようにしているのだそうな。
管理しているのはランドマーク・トラストという財団。
泊まってみたいなあ。
仲間を集めてそういうところでまったりしてみたい。

2) ウナギ
ケンブリッジからイーリーにかけては真っ平らな土地で、しかも湿地。干拓してかなり改善したものの、今もその名残の沼地が多く、ウナギがたくさんいるそうだ。
「イーリー」という地名が「ウナギ」に由来するということは聞いたことがあったけれど、そこまでイギリスとウナギの関係が深いとは思っていなかった。

最後はランサムファン限定ネタです(ウナギも半分ランサムネタだったけど)
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by foggykaoru | 2007-04-25 20:30 | エッセイ | Trackback(1) | Comments(14)

前川健一著「旅行記でめぐる世界」(文春新書)

日本人が自由に海外渡航ができなかった戦争直後から、現在に至るまでの旅行記の紹介本。
バックパッカーの先駆者である著者の名前は前から知っていた。
本は読んだことがなかったけれど。

古本屋で見つけたときは読み捨てるつもりだったが、読んでみて、捨てないことにした。

紹介されている本のうち、既読のものは以下のとおり。
トルコのもう一つの顔
・新西洋事情
・東方見便録
・63歳からのパリ大学留学
・河童が覗いたヨーロッパ
・パリ 旅の雑学ノート
これらに関するコメントが的確で納得のいくものだったので、前川氏の評価はあてになると思う。(少なくとも私にとっては。) 特に紹介コメントに熱がこもっているいくつかの旅行記は、いずれ読んでみようと思う。

ところで、私は自分で旅行記を書くようになってから、他の人が書いた旅行記をほとんど読まなくなってしまったのだが、どうやらそれは私だけではないらしい。
インターネット上には、あまたの旅行体験記が載っているものの、旅行記はそうは売れない。旅行記を書きたい人はいくらでもいるのだが、他人の旅行話はあまり読みたくないのである。

そのとおり。
ネット上の旅行記というのは、さしてアクセスを稼ぐことはできない。要するに、あまり読んでもらえない。一番労力を注いでいるコンテンツなのに(涙)

沢木耕太郎の「深夜特急」も、もちろん取り上げられている。
この作品の人気の要因の1つとして、前川氏は次のことを指摘している。
沢木が意識してやったと思われるテクニックは、時代色を出さないことだ。・・・(中略)・・・時事の話を入れると、当時の時代背景はよくわかるが、旅行記が古めかしくなるのを避けたのだろう。

よくわかる。
私はネット上に旅行記をアップするとき、情報を求めにやってくる人のことを考えて、そのときどきの最新情報をなるべく入れるようにしている。でも、なまじっかそれがあることによって、アップしたその瞬間から、その旅行記は急速に老化していくのだ。
これを避けるためには、旅行後ある程度の年月がたった旅行記は見直して、物価その他、アップ当時には参考になる情報だったはずの事柄を、削除していくという手入れが必要なのだと思う。

「そんなことしたって、どうせ読んでもらえないんでしょ」という声が聞こえてきそうだが。


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by foggykaoru | 2007-04-05 20:25 | エッセイ | Trackback | Comments(10)

林望著「思い通りの家を造る」

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別に家を造る予定はないのですが、リンボウ先生のファンなので。

読んでみて、正直、ものすごく目新しいということはあまりなかったのですが、1つ、大発見がありました。長年の謎が解けた思いです。

どういう謎なのかというと・・・

中高時代、私は英語のオベンキョのために「リンガフォン」という教材をせっせと聴いていました。
このリンガフォン、もちろん昨今のようなCDなんかじゃありません。
何だったと思います?

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by foggykaoru | 2007-03-12 20:24 | エッセイ | Trackback | Comments(6)

戸塚真弓著「パリからのおいしい旅」

「パリ住み方の記」の著者の手になる本。彼女の専門はむしろこういう本なのでしょう。どちらが面白いかと問われれば、間違いなく「住み方」の方なのですが、この本も悪くありません。料理以外の記述も、かなりしっかりしているので、フランス好きにはお薦めできます。次から次へと美味しい料理やワインが登場してきて、生唾ゴックン状態になること請け合い。フランスに行く機会は比較的あるものの、胃の働きがあまりよくない私には縁の無い世界なのだけれど、それでも十分に楽しみました。

ブルゴーニュワインの旅の章を読んでいて、友人とともにかの地を旅したときのことを思い出しました。ほんとうのワイン好きは、ぶどう畑を見ただけで大興奮するのだということを、あのとき知りました。お陰で、この本に出てくる数々の地名は、すでに親しいものでした。
友よ、ありがとう!(^^; 


忘れたくないことを書いておきます。これがこのブログの本来の趣旨だから。

★ボーヌの救済院は修道女たちによって運営されていた。その運営費は、寄付されたぶどう園でとれたぶどうでワインを作り、それを売ることによってまかなわれている。←「いる」という現在形が気になる。今もそうなのだろうか?

★ヴェズレーにはロマン・ロランの家がある。

★あの華やかなプロバンス柄は、東インド会社がインドからその技術を盗んできたものなのである。

★ニースはイギリス人が開拓したリゾートである。
だから海岸沿いの遊歩道を「Promenade des Anglais(イギリス人の遊歩道)」と呼ぶのね!!

★プロバンスではロゼを飲め。
例外はカッシ。辛口の白。ブイヤベースにはカッシでキマリ。
このワインを生んだカッシの町はジモティの憩う素敵な町らしい。

★ヴェルサイユの町歩きは楽しそう。
次回パリに行ったときは絶対に足を伸ばそう。

★アルザスといえば白ワイン。(「のだめ」の千秋がフランスのレストランで注文してるのがアルザスの白)
その中に1つだけ、赤ワインがある。それはピノ・ノワール。

★フランスでルーブルに次いで2位の入場者数を残る美術館は、コルマールにある「ウンテルリンデン美術館」。

★現在、フォアグラといえばぺリゴール地方が有名だが、フォアグラのパテを生み、フォアグラの名を世に知らしめたのはストラスブールである。


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by foggykaoru | 2006-10-31 22:23 | エッセイ | Trackback | Comments(2)

神父のお仕事

ネラン氏の本に関連して追記です。

神父という立場にある人が、歌舞伎町でスナックのマスターをするというのは、いったいどういうことなのか?
神父というのは教会にいて、ミサをあげる人ではなかったのか?

こんな疑問を事情通にぶつけてみたところ、次のような答えを得ました。

神父には、特定の教会付きの人もいれば、そうでない人もいる。
教会付きでなくても、必ず教区には所属している。
そして、さまざまな仕事をしている。
その仕事や活動内容が、カトリック教会にとって有益であると認められるものであれば、極端な話、何をしてもいい。

というわけで、ネラン神父の水商売は、布教のための活動として、正式に認められたものであるはずだということでした。
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by foggykaoru | 2006-10-01 21:16 | エッセイ | Trackback | Comments(0)

戸塚真弓著「パリ住み方の記」

旅好き・外国好きの私なので、外国の文化とか国民性を扱ったエッセイは、昔から好きです。
ただし、フランスに関しては、もはや「すれっからし」になってしまって、めったなことでは満足できないので、最近はあまり読まなくなっています。というわけで、この著者の本も、ちょくちょく目にはしていても、あえて手を伸ばさなかったのです。

古本屋で見つけたこの本は、掘り出し物でした。
フランス人と結婚した著者が、より良いすみかを求めて、物件探しと引っ越しを繰り返した体験記。
題材自体の面白さもさることながら、文章のうまさに感心しました。

戸塚さんのフランスものの本は、これから敬遠しないで読もうと思います。


フランス人に限らず、ヨーロッパの人は、自分の家の内装などをDIYでやってしまうことが多いということは聞いていましたが、この本を読む限りでは、買った物件を、せっせと自分好みに作り上げた頃には、事情が変わってしまい、その物件を売らなければならなくなっていることが少なくないようで。
なんというか、徒労ですな。

でも、人生ってもともとそういうもの?


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by foggykaoru | 2006-09-10 14:11 | エッセイ | Trackback | Comments(2)

阿刀田高著「好奇心紀行」

忘れないように書きます。なにしろこのブログは自分のための備忘録だから。

エッセイ集で、1つ1つが短く、なおかつ、面白くてやめられなくなるというほどではないので、旅行中にちびちび読んで、読み捨ててくるには最適でした。まるで悪口みたいで、阿刀田さんに申し訳ないんですが。そこそこ面白いんですよ、そこそこ。

印象的だったのは、安部公房の「砂の女」が熱く語られていること。

私は、ずーーっと昔のことですが、一時期、安部公房の作品を続けて読んでいたことがありました。そして、最後に読んだのがこの「砂の女」。
いや、「読んだ」というのは正確ではありません。途中で挫折したので。

あれからウン十年もたった今なら、ちゃんと読み切れるのかな。
試してみようかと思っているところです。


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by foggykaoru | 2006-08-24 22:17 | エッセイ | Trackback | Comments(0)