カテゴリ:伝記・評伝( 41 )

ミツコと七人の子供たち

著者はシュミット村木眞寿美という人。
「ミツコ」とはクーデンホーフ光子。
ハプスブルク家が君臨する落日のオーストリアの貴族に嫁いだ、あの人のことです。

なかなか興味深いです。
外交官クーデンホーフ伯爵の妻となった経緯、オーストリアに渡ってからの生活。
そして、早すぎる(そして謎の残る)夫の死。
さらに、この本の大きなポイントは、タイトルにあるとおり、「7人の子供たち」。
ハプスブルク家の時代が終わり、ナチス・ドイツが入ってくると、彼らの人生は大きく翻弄されます。
伯爵の子女がそんなことに・・・

「民族自決主義」を唱えたアメリカのウィルソン大統領が、ヨーロッパの実情を全然わかっていなかったということもよくわかります。
要するに、「この線からこっちがなに人、あっちがなに人」ということではなかったのに、線を引っ張ったから、それまではなかった諍いが生まれ、悲劇に至ることもあった、ということです。
旧ユーゴ解体のときもそういうことがあったと聞きます。宗教が異なる人々が平和に暮らしていた村だったのに、一方が一方を排斥する形になってしまった、というような。

ネタばれしたくないので詳しくは書きません。

光子という人は、その当時の日本女性の常として、「学」はなかった。
でも、決しておバカだったわけではなく、けっこう学習能力は高かったようです。
でも学習意欲は夫の死とともについえてしまう。
一方、彼女の子供たちは、インテリだった父親の血を引いているし、学問をする環境に恵まれていたから、深く思索する力もあった。
でも彼女には、そこまでの能力は無かった。
母子の関係はぎくしゃくせざるを得なかった。

というわけで、晩年はあまり幸せではなかった。

彼女の息子が「パン・ヨーロッパ」を提唱し、それがずっとあとになって欧州連合という実を結んだ、と言われますが、英国がEU離脱を決めた今、この本を読んで、愁いみたいなものを感じてしまいました。



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by foggykaoru | 2017-01-20 20:16 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(0)

昭和史のおんな

澤地久枝著。

とりあげられているのは
東郷青児と心中未遂事件を起こした女性
満州事変直後、軍人である夫の出陣前夜に自害した女性
息子に保険金をかけて殺した母とその娘
堕胎罪に問われ、女優生命を絶たれた女性
女優岡田嘉子のソ連行きに同行した杉本良吉の妻
医学生である夫が一人前になるまで支えて捨てられ、チフス菌入り饅頭を送りつけた女医
性研究にまい進する夫を支え続けた女性
著名な学者をその妻から略奪した女性

保険金殺人は昨今もあるけど、他の事件はまさに「昭和」な事件。
女性の問題は、結局のところ相手の男性の問題でもあるのだなと深く思った。

昔は心中事件が非常に多かったという。
なにしろ、いろいろ制約とか障害がある。
男性は30歳、女性は25歳になるまで、親の許可無くして結婚できなかったんだそうだ。

今とはぜんぜん違う。

今多いのは、親子間の殺人。


暗い話ばかりだけれど、興味深い。
澤地久枝のジャーナリスティックな筆致が冴えわたっています。
が、ユーズドでしか入手できません。
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by foggykaoru | 2016-02-06 09:03 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(2)

シャネル

副題は「人生を語る」
シャネルにインタビューしたものをまとめたもの。
ポール・モラン(アカデミー・フランセーズの会員だったんですって)著。

シャネルは大嘘つきだったと聞いていたので、この本にはどの程度本当のことが書いてあるのかなあと思いつつ読んだ。
あとがきを読んでびっくり。生い立ちのあたりが全部嘘だったなんて。

とにかく強烈。
アクが強い。
でも、ファッションに革命を起こしたんだもんね。普通であるはずがない。
自分のことを「嫌な人間だ」と言い切るところに潔さを感じた。
わかってるんならいいじゃん。

そして彼女を彩る恋人たちも「超」がつく一流人。
でも、彼女は誰とも結婚しなかった。
彼女には結婚は必要なかった。そのこともわかってる。

自分のことを「知性がない」と言ってるけど、いやいや、ものすごく頭がいいのだと思う。

正直、最初の30ページぐらいでやめようかと思った。
なにしろ強烈すぎて。
この調子で230ページはきついな、と。
だから全然ペースが上がらなかった。

でも読んでよかった。
フランスが世界で一番輝いていた時代のことが多少なりともわかったし。


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by foggykaoru | 2015-10-01 22:00 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(0)

父への恋文

副題は「新田次郎の娘に生まれて」
著者の藤原咲子は満州から命からがら逃げ延びてきた新田家の末娘。

栄養失調で育たないのではないかと危ぶまれていた娘のことを、父・新田次郎は慈しんで育てた。しかも自らの手で文章指導をして「お父さんがどうやって小説を書いていたのか、お前が書くのだよ」と語ったという。
気象庁勤務と作家稼業だけでも十分に忙しいのに。
愛情深いお父さんになる条件の一つは「身体が丈夫なこと」なんじゃないか
なあんて思ってしまいました。

しかも丈夫な人は長患いをしないで、バタンと死ねるわけで。羨ましい。
(新田次郎はまだまだ仕事をしたかったんだろうけど)

これを読んだあと、「小説に書けなかった自伝」を読んで、「もう新田家の話はいいかな」と思った次第。

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by foggykaoru | 2015-04-21 20:54 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(0)

小説に書けなかった自伝

新田次郎の自伝。
彼の子供たちの本を立て続けに読み、この本まで読んでしまった今、もう新田家の話はいいかなという気分(苦笑)

巻末の年譜を見ると、気象庁職員と兼業しながら、よくもまあこんなにたくさん書いたものだと驚嘆する。
ほんとうに勤勉で、かつ、身体が丈夫な人だったんだなと。(その体質を受けついだお蔭で、幼い子供たちも満州からの帰還を果たしたわけだ。)

この作品は60代に書かれたもの。
そのわりに書きぶりが「青い」。それは「若さ」やバイタリティーに通じる。
「老成」という言葉とは真逆。そこが彼の個性であり、魅力なのだろう。
そして、それは彼の妻にも共通しているような。

自伝それ自体よりも、年譜の後に収録された、藤原ていによる「我が夫」、藤原正彦による「我が父」が興味深かった。


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・・・今、ブログを見直したら、この本の前に読んだ本のことを書いてなかったことに気づきました。その本のことは後日。
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by foggykaoru | 2015-04-15 19:54 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(2)

「かの悪名高き」十九世紀パリ怪人伝[追記あり]

鹿島茂の本。
今の日本において、この時代のフランスを語らせたら彼の右に出るものはいない。

これも内容はすっかり忘れてしまった(涙)
直前に読んだ池内さんの本と時代的にかぶっているのだが、つくづく19世紀はヨーロッパの世紀だったんだなと思った。
そして、本格的に情報が金を生む時代が到来して、それが現代にもつながっているんだな、と。

その時代に成功をつかんだ人々の、生き生きとした、そして生々しい生きざま。(馬から落ちて落馬したような表現でゴメン)

ただ、読んでるとだんだん飽きてきます。

一番最初に紹介される「オペラ座の蛸博士」ヴェロンがいちばん面白い。
あのパリのオペラ座の歴史も紹介されているし。
じり貧状態だったオペラ座を建て直し、今あるオペラ座を作り上げたのは彼だった。
具体的に何をしたか、ほとんど忘れてしまったけれど、覚えてるのは・・・
若い踊り子に金持ちの親父が目をつけて、自分の女にして・・・というようなことは、以前からあったのだけれど、それをシステム化したとまでは言わないけれど、やりやすい形にして、集客力を上げたとかなんとかいうこと。


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[12/15追記]
読み直しました。
おそろしくいい加減なことを書いていたので訂正します。

ヴェロンは、オペラ座の出資者やジャーナリストたちが、踊り子の練習の様子を見物することができるようにしたのだそうです。
男性陣は女の子の品定めがしやすくなり、女の子(とその親)はパトロンを見つけやすくなった、ということで、双方がとても喜んだのだそうな。
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by foggykaoru | 2014-12-14 08:40 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(2)

自由人は楽しい

副題は「モーツアルトからケストナーまで」

池内紀の本。
この人の本は間違いないと思って古本屋で購入。
NHKのラジオ番組でしゃべったこと(なんと台本無しで!)を本にまとめたとあって、とても読みやすい。

ドイツ・オーストリアの18世紀から19世紀にかけての有名人---モーツアルト、ゲーテ、ロートシルト、グリム兄弟、シュリーマン、トーマス・マン、ヘルマン・ヘッセ、ケストナー---の人生と人となりを語っている。
一番面白かったのはロートシルトかも。ロスチャイルドのことです。知らないことばかりだったし。
いまひとつだったのは最後の2人。特にケストナーはどうってことなかった。たぶん、(私にとって)新しい情報があまりなかったからでしょう。
あとは程度の差はあるけれど、けっこう面白かった。
でも全部忘れてます(涙)

ユーズドでしか入手できません。
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by foggykaoru | 2014-12-06 19:52 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(0)

旅へ

世界をカヌーでめぐっている野田知佑氏の前半生の自伝。
「野田知佑のできるまで」という感じです。

しかしまあ
何と申しましょうか・・・

「青春の彷徨」という言葉を思い出しました。

大学を出たものの、自分の生きる道が見つからない野田さんは国内を旅してまわる。
つまり、いわゆる「自分さがしの旅」です。
野田さんの悩みは実に深く、考えあぐねて海外へ。
まだ1ドルが360円だった時代に。
「地球の歩き方」が出る何十年も前に。
今とぜんぜん違う。

私は野田さんがさまよっていたころ、もう生まれていたので、あの時代の日本の雰囲気は、なんとなくわかるし、その中で自分の人生を真摯に模索する若者の姿には、ある種の感銘を受けました。

でも、野田さんは、自分をちょっと曲げれば定職にありつけた。
彼はそれが嫌だったのだけれど。
なにしろ日本全体が明るい未来を信じられた時代です。
就活に疲れ切った今の若者がこの本を読んだらどう思うのかな。

私が読んだのは文春文庫で「新・放浪記1」という副題がついていて、ユーズドでしか入手できません。どうせだったら続きも読みたいのだけれど、「2」は存在しないみたい。
ポプラ文庫には副題抜きの「旅へ」という本があります。たぶん中身は同じ。そちらに関する情報はこちら
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by foggykaoru | 2014-07-19 19:52 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(2)

二重らせんの私

副題は「生命科学者の生まれるまで」
著者である柳澤桂子氏は1938年生まれで、日本における女性科学者の先駆けである。アメリカで博士号を取得したが、難病に侵され、働き盛りの頃に研究職を断念せざるを得なくなり、サイエンスライターとなったという。

ずっと前に古本屋で買ってあった。でも理系の話は苦手。ずっと「積ん読」状態だった。あらこんな本があったのね、じゃ読むか、と思ったのは、、、O保方さん騒動の影響です。

幼い頃から生物が大好きだった著者が、博士号を取るまでの自伝です。とても良質な本です。大したもんです。行間に知性があふれている。

彼女がアメリカ留学したのは、遺伝子がどんどん明らかになりつつあった時代。たぶん、現代の生物学の夜明けみたいな時期。研究者にとっては胸躍る発見がたくさんあったのでしょう。メッセンジャーRNAとか、あー高校で習ったんだけど、何が何だかわかんないんだよねー状態の私には、やっぱりちょっと読むのが面倒臭くて、理解する努力をせずに飛ばし読みでした。すみません。

でも、全体的には全く難しくありません。なにしろ自伝ですし。

O保方さんがねつ造したんだか、わかりやすいようにと切り張りしたんだかはわかりません(でも切り張りはダメでしょ!って文科系の私でも思う)が、ひとつ言えるのは、彼女の記者会見には「あふれる知性」は感じられなかったということ。少なくとも私には。もちろん普通に知的な感じはしたけれど。あ、意味不明ですかね。あのぐらいの口がきける人は私の周囲にもけっこういるよねーという印象。ごめんね口が悪くて。(考えてみたら男性科学者だって「あふれる知性」を感じさえる人はそんなにいないかも)

とにかく、この本を読んだ直後にあの記者会見を見た私は、人間が小物化しているという印象を強く持ってしまったのでした。たぶん科学の分野に限ったことではなく。

エピローグで著者は言う。
お金がからんできたために、生命科学の様相は一変してしまった。あのコロンビア大学の教授たちのもっていた、豊かな水をたたえた大河のような雰囲気は失われた。研究者たちは手に手にDNAの入った試験管をもって、何かに追い立てられるかのように全速力で走りだした。いったいどこへいこうというのだろうか。
門外漢の私がこの言葉の重さをかみしめることができたのは、O保方さん騒動のおかげです。ありがとうございました。


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by foggykaoru | 2014-04-16 20:04 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(9)

魂のピアニスト

ピアニスト、フジコ・へミングの自伝。

以前、テレビで話している彼女を観て、「強烈!」と思った記憶があるが、この本を読んで納得した。

まず、母親が強烈。
強い子どもでなかったらつぶれてしまうんじゃないか。
そしてつぶれない子どもはさらに強くなる。

追い打ちをかけるのが国籍問題。
スウェーデン国籍の父親を持つ彼女はスウェーデン国籍だったのだが、長年一度もスウェーデンに行かなかったから、国籍を抹消されていた。そして日本は国籍をくれない。ひどい話だ。無国籍のままほうっておくなんて人権問題だ。

そしてようやくかなったドイツ留学。極貧の中で暮らす。
日本に帰るか? 
母親は「日本にはあなたの活躍する場なんてない」とばっさり。
ようやく注目され始め、大々的にリサイタルを開こうという矢先に倒れ、聴覚を失う。
療養後、ある程度は回復するが、聴覚は完全にはもとに戻らない。
演奏家としての道はなかば諦め、教師として生きようと、資格を取る。
15年間ドイツに暮らすことにより、年金を受給する資格を得る。
晩年になってから日本で急に注目され、演奏家として活躍する。

こんな人生を送ってきた人が強烈にならないはずがない。

「書きおろし」とあるが、「語りおろし」という感じ。
字が大きくて、1時間ぐらいで読み終えた。
巻末に載っている彼女の絵日記やイラストがなかなかのものである。
そのセンスはデザイナーだったという父親ゆずりなのだろう。
骨の髄までアーティストなのだなと思った。

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by foggykaoru | 2013-01-26 20:34 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(2)