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聖人と悪魔 呪われた修道院

すごい題名ですが、ホラーじゃありません。
原題の「The Falconer's Knot」=「鷹匠の結び目」では誰も手にとってくれないでしょうから。
著者はメアリ・ホフマン。ファンタジーを得意とする人らしいけれど、この作品はファンタジーではなくて、歴史もの。

舞台は中世のイタリア、ウンブリア地方。ペルージャ、アッシジ、グッピオという、実在の町のすぐそばに位置するジャルディネットという架空の町の修道院。
アッシジのサン・フランチェスコ大聖堂内の壁画が今まさに描かれているというおりに、殺人事件が起こります。まずペルージャで。そして修道院で。
そこに男女の愛憎がからんできます。
当時の女性の置かれた地位や、修道院がどのように利用されていたのか等々、なかなか面白いです。

児童書というより、ジュブナイル。
小学生には無理です。
高校生と、おマセな女子中学生にお薦め。(マセてないと無理)

「修道士カドフェル・シリーズ」の趣があります。カドフェルはいないけど。
だから、いちばん向いているのは歴史好きな大人かも(笑)

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図書館でこの本に出会ったのは、メインサイト向けにアッシジとペルージャの訪問記を書いていたときでした。
おかげでテンションが上がったことは言うまでもありません。

その訪問記、本日完結編をアップしました。
興味のおありの方は「えせバックパッカーの旅日記」へどうぞ。
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by foggykaoru | 2011-06-26 11:39 | 児童書関連 | Trackback | Comments(4)

鹿鳴館の貴婦人 大山捨松

明治初頭、津田梅子と一緒に米国留学した山川捨松の生涯。
帰国後、18歳年上の陸軍卿・大山巌の後妻となり、鹿鳴館の花形として知られ、津田梅子の英学塾創立を手助けしたりした・・・ということは知っていたので、新鮮な驚きは少なかったが、ここまで優秀だったとは知らなかった。なにしろ、名門ヴァッサー女子大の卒業生代表としてスピーチを発表したのだ。すごいじゃありませんか。

そんな優秀な人でも、帰国後の日本では、結婚する以外の道はなかったのだ。本当は仕事をしたかったけれど、そんな場はなかった。日本語が下手なのもネックになった。

「日本が戦後処理を考えて戦った唯一の戦争」が日露戦争だとは聞いていたけど、その中心が大山巌だったとは知らなかった。
薩摩出身の彼は、才色兼備の捨松を見込んで結婚を申し込んだ。会津藩士の娘なのに。捨松は大山と何回かデートして、その人柄に納得した上でOKする。彼は若いときフランス留学をしていて、話題や価値観が合ったのだろう。とても仲がよかったという。
ちなみに、著者の久野明子は、大山巌の先妻の娘のひ孫にあたる人。

捨松が大山と結婚したのは、そうすることによって、仕事はできないにしても、「お国のためになることができる」と考えたから。実際、津田英学塾の前には、華族女学校(女子学習院)の創立にもかかわったし、それこそ、鹿鳴館で良きホステス役を務めたし、日本初のバザーなんてことを上流階級夫人によびかけて催したり。
もちろん、もしも男性だったら自分が大臣になって日本の政治を推し進めるぐらいのことはできただろうけれど。

「時代」の抑圧の中で、自分にできる最大限のことを知性によってなしとげた女性の一生。「すごい」と感嘆すると同時に、ちょっと切ない。


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by foggykaoru | 2011-06-21 22:11 | 伝記・評伝 | Trackback | Comments(6)

いわゆる拡散希望

あんまりこういうことはやらないのだけど。

福島第一原発の状況についてのテレビ番組です。
19分と長いけれど、ぜひご覧ください。

ここで述べられていることは、「可能性の高い推測」です。
ど素人の私でさえ、内心ありうるんじゃないかと、ずっと思っていたこと。

1つの原発がやられただけで、今のこの状況。
こんなに地震の多い国で原発を何十個も作ったのは間違いだったと思います。

日本は脱原発をはかるべきだと思います。
原発がないと電力供給が危ないって? 
そりゃまあ最初は大変でしょう。

でも、日本人は得意の技術力で低公害車とか、世界の先端を行くようになった国。
「原発はもう頼りにできない」と腹をくくって、本気で別の手だてを考え始めたら、それなりになんとかすると思うんです。
なまじっか原発があって、原発マネーがどかんと入ってくるから、考えなくなったんじゃないでしょうか。

「貧すれば鈍する」と言うけれど、「貧する」とはお金が無いことを意味するとは限らない。
原発に関しては、品性が貧したから鈍したんです。
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by foggykaoru | 2011-06-19 10:11 | ニュースから | Trackback | Comments(5)

クロノスの飛翔

中村弦著。
2008年に建築にまつわる作品で日本ファンタジーノベル大賞を受賞したこの人、私はちょっと注目しているのですが、1年に1作しか書かない(少なくとも今のところは)という寡作な作家なので忘れかけていて、久しぶりに行った本屋で偶然見つけました。ああよかった。

クロノスとは、なんと伝書バトなのです。もうそれだけでランサムファン必読です。
しかも大活躍する。私に言わせれば主役です。あっ、だからタイトルになったのか(笑) 
読み終わったとき、クロノスのファンになってました♪

伝書バトが昔はどれほど重要な通信手段だったかを知らない人には、新鮮な驚きが多いかも。

ただし、帯(裏表紙にわたっているほう)はネタバレなので読まないほうがいいです。
私は表しか見ないで買って、(頼んだわけじゃないのに)その場でカバーをかけられてしまったので、佳境に入ったときの感動は相当なものでした。
あの本屋のカバー、過剰サービスだと思っていたんだけど、今回ばかりはニッポンの本屋に拍手!(爆)

ちょいと「公安もの」が入っているので、最初のうちは、以前けっこう読んでいた逢坂剛とか高村薫を思い出したりしました。最終的には全然似てないんだけど。なにしろファンタジー大賞取った人だから。

この作家の特徴は読んだあと、心がほっこりするところ。
その温かさを甘さと見て、批判する人もいるかもしれないけど、私は好きです。
高村薫よりも10倍好き。
あの人の作品はすごいけど、読んだ後どうしようもなく憂鬱になっちゃうから読むのをやめたのよ。

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ネタバレです。
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by foggykaoru | 2011-06-16 20:28 | 普通の小説 | Trackback | Comments(8)

ケンブリッジのカレッジ・ライフ

副題は「大学町に生きる人々」
著者は安部悦生という、大学の経済学の先生。

ぱらぱらっと中を見て、「わりとありがちなエッセイだな」と思ったけれど、「オックスフォード物語」を読んだ流れで。

前半のケンブリッジ大学内部の話はけっこう面白かった。
英国の大学、、というより、オックスブリッジにあるという「カレッジ(コレッジのほうが正確?)」。
この謎が解けた。
オックスブリッジにも「学部」はある。
学生は学部とカレッジの両方に所属する。
学部は国立。カレッジは私立。入試を実施するのはカレッジ!
カレッジでは「スーパーヴィジョン」と呼ばれる1対1の指導を受けるというが、最近は学生数が増大し、また、専門領域が高度になっていることもあり、スーパーヴィジョンがずっと続くというわけではないらしい。

いちばん印象的だったのは「ハイテーブルの食事はとても美味しい」ということ。
学生のローテーブルとは全然違うのだそうだ。
ということはつまり、ブリティッシュヒルズの素晴らしいディナー、あれはハイテーブルの食事を追求しているということであり、オタク的には大正解だったのです。これがこの本の最大の収穫(笑)

後半は「ありがちなエッセイ」の域を出ないものでしたが、英国好きには楽しく読めるはず。

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by foggykaoru | 2011-06-12 11:52 | エッセイ | Trackback | Comments(2)

紅海横断----イスラエル人

旧約聖書のお話です。
エジプトで屈辱の日々を送るイスラエル人たち。そこへモーゼが現れ、彼の力で紅海は真っ二つに割れ、イスラエル人たちは無事に父祖の地に戻ることができたのでした。めでたしめでたし。
・・・という場面を観てみたい方はこちらへどうぞ

フランス製ミュージカル「十戒」の一場面です。
このミュージカル、フランス上演は2000年で、日本に来たのは2002?3?年ごろ。
よほどチケットが売れなかったらしく、フランス語関係者に「割り引くから買いません?」というお知らせが回ってきたのです。
割引だからと(!)S席を奮発しました。

会場は代々木体育館かなんかで。
どでかいステージの中央に超巨大スクリーンが設置されていました。
なまじS席だったものだから、近すぎてよく見えない・・・(涙) 
A席にすればよかったと後悔したのでした。

でも、紅海横断を観られて大興奮でした。
この場面に興奮する仲間と一緒だったらどんなによかっただろうと思ったものでした。

よかったらその後の歌も聞いてください。
タイトルは「Mon frere」。英語で言えば「My brother」

この「十戒」では「モーゼとエジプト王ラムセス(←かっこいい)が血をわけた兄弟だった」という設定なのです。(しかも同じ女性を愛したりする!!)
自分たちの出生の秘密を知った2人が「ともに生きたい」と思いつつも、立場が違うため、それがかなわない。

最初の部分だけ歌詞をご紹介。(どちらが兄でどちらが弟なのか、すっかり忘れてしまったので、見た目で判断しました(爆))

ラムセス
♪1日は1人にとっては去り もう1人にとっては訪れる
 空が消えるとき星は死に瀕する
 明日が来ないのは私たちの愛 兄よ

モーゼ
♪1つの世界が1人にとっては開き もう1人にとっては崩壊する
 水源が枯れるとき海が懇願する
 川岸から離れ 失われるのは私たちの愛 弟よ

最後に執拗なまでに繰り返される「Mon frere」の叫び。
どちらも同じ言葉で呼びかけているからこそ生まれる迫力。
「兄」と「弟」の区別がある日本語だと、こういうラストにはできない。
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by foggykaoru | 2011-06-09 20:09 | 観もの・聞きもの | Trackback | Comments(0)

地下の洞穴の冒険

リチャード・チャーチ作。
子どもの頃に読んだ本。お気に入りにはならなかったけれど。
ランサム仲間の中で冒険・探検好きにかけては右に出るもののない人が
「子どものときに好きだったのに、大人になってから読み直してがっかりした」
と言っていたので、再読するのにちょっと勇気がいった。

読み始めると・・・

これは実にランサム的、そしてイギリス的じゃないですか!
イギリス人が書いたんだからイギリス的は当たり前か(苦笑)

で、もうちょっと読み進むと・・・

そうそう、思い出した、こいつこいつ。
1人、嫌な奴がいるんです。どうしようもない奴が。

子どものときにこの本が好きになれなかった原因の1つはこれです。ランサムが好きになったのは、ともに冒険する子どもたち全員の性格が良いからで。
もう1つ、この作品には、女の子が登場しない。ランサムが好きになったのは、自己移入しやすかったティティの存在が大きいので。

でも、今の私には嫌な奴が登場する物語に対する耐性はついている。それはそれで面白がることができる。大人の余裕です(笑)
そして、今さら女の子に自己移入することもないので、男の子だけの冒険でも大丈夫。

というわけで、私の場合は、今回、この作品が好きになりました。
非常に地味な語り口です。まさに自然主義文学。詳細な描写。息詰まる現実感。力があります。名著だと思います。

続編の「ふたたび洞穴へ」も再読してみたいです。(でも、絶版かも)


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by foggykaoru | 2011-06-08 20:00 | 児童書関連 | Trackback | Comments(2)

オックスフォード物語

副題は「マリアの夏の日」
著者はジリアン・エイブリーという英国の女流児童文学作家。2009年刊。
神宮輝夫訳だから読んでみたのです。

1957年に英国で出版されたこの作品。
時は20世紀前半、良家の子女が学校に行かずに家庭教師に勉強を教わることが珍しくなかった時代です。全寮制の女子学校でつらい思いをした主人公マリアは、学校から逃げ出し、育ててくれた大おばさんの家に戻ろうとしたのだけれど、あいにく乗った列車がオックスフォードどまりだったので、オックスフォードの学寮長をしている大おじさんのもとに飛びこむ。
隣家に住む教授の息子3人と一緒に、家庭教師に勉強を教わるようになって・・・

いやー 
古き良き英国の匂いがぷんぷんするお話でした。

しかしこれを21世紀になってから日本で出版するなんて・・・。
絶対に売れないって。
大人のための小説ならともかく、児童文学ですよ。相手は子どもです。これは日本の子どもにはウケない。
日本の英国マニアの大人にはウケます。
だってオックスフォードですよ! 
しかも学寮、つまりカレッジ(コレッジのほうが正しい?)ですよ!! 
ガウン着て、ハイテーブルの世界ですよ!!! (この作品にはどっちも出てこないけれど)

神宮先生のオタク心をくすぐったのかな?(笑)

さらに
「大おばさんに育てられたマリア」
という設定は、英国好きの中でも、Rから始まる英国児童文学作家のファンには、微妙にツボだったりします。
神宮先生にとっても、実はそれがツボだった・・・ってことはないか(爆)


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by foggykaoru | 2011-06-05 19:17 | 児童書関連 | Trackback | Comments(2)

偉大なる日

というのは、ミュージカル「レ・ミゼラブル」のナンバー「ワン・デイ・モア」のこと。
もともとは「Le grand jour」=「偉大なる日」という題名なのです。

ちょっとYoutubeに現実逃避してまして。
しみじみいい曲です。

お聞きになりたい方はこちらへ

さらに英仏の歌詞を比較してみました。

歌詞の翻訳って難しいです。
音符に乗るだけでなく、歌ってみて美しくなければいけないから。
だから、たとえ音節数が一致していても、「The big day」とは訳せなかった。

音符に多くの歌詞を載せられない日本語だと、中身がからっぽになってしまうけれど、英仏語だと、双方にそれほど大きな差があるわけではない。

それでも、マリウスとコゼットの歌詞がけっこう違うけれど、びっくりするほど違うのが、中ほどの、コーラスが二部になってかけあいになるところ。

フランス語だと

♪Le grand jour patriotique, 愛国心に満ちた偉大なる日
Le progrès reprend sa marche; 進歩が再び歩みを始める
Combattant de l'avenir,  未来の戦士が
Resurgi de son linceul  経帷子を脱ぎ捨ててよみがえる
Par l'espérance magnifique
D'un nouveau monde à construire.
建設すべき新しい世界への素晴らしい希望を抱いて
À la volonté du peuple.   民衆の意志に乾杯

フランスの歴史---革命と反革命の繰り返し---が端的に表現され、しかもその中で命を落とした人々に対する鎮魂の情がこもっています。

それに対して英語では

♪One day to a new beginning 新しい始まりまであと1日
 Raise the flag of freedom high! 自由の旗を高く掲げろ
 Every man will be a king  誰もが王になる
 Every man will be a king  誰もが王になる
 There's a new world for the winning 勝利のための新しい世界
 There's a new world to be won 勝ち取るべき新しい世界
 Do you hear the people sing? 人々の歌声が聞こえるか

イケイケドンドン。
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by foggykaoru | 2011-06-04 22:03 | 観もの・聞きもの | Trackback | Comments(5)

通訳ダニエル・シュタイン

ここんとこ、忙しくて、本は読んでいるのですが、感想文を書く暇がありません。でも、あまり時間がたつと忘れてしまうので頑張って書きます。

==========

著者はリュドミラ・ウリツカヤというユダヤ系ロシア人。ロシアでは人気のある作家なのだそうだ。

実在の人物をモデルとする主人公ダニエル・シュタインの生涯が、関係者の書簡集の形で綴られている。
彼はポーランド生まれのユダヤ人。第二次世界大戦中、ナチスから逃れ、出自を隠して生き延びる過程でゲシュタポに通訳として協力することになるが、その立場を利用して多くのユダヤ人を救う。さらに逃げ延びた先でカトリックの信仰に目覚め、洗礼を受け、修道士にまでなってしまう。大戦後、イスラエルが建国されて・・・

昔、「ユダヤ人の定義はユダヤ教を信仰しているということなのだ」と習ったが、もとからそうだったのだろうか? その考え方が強固になったのは、イスラエルという国ができてからなのかもしれない。

イスラエルという国。
今さら言うまでもないけれど、あの国が領有を主張している土地は世界全体を巻きこむ紛争の火種である。
パレスチナの人々を不幸にしたのはもちろんのこと。
でも、様々な土地にいたユダヤ人にとっても、イスラエルという国の枠組みの中に入ってそれに合わせて生きていくのは、必ずしも容易なことではない。

ダニエルは「聖人」の名に値する人だったのだと思う。
でもその考え方はなかなか受け入れられない。
まずユダヤ人にとっては、彼の生き方自体が不可解。
さらに、「真面目な」キリスト教徒にも受け入れられない。「異端」なのだ。
むしろ日本人のほうが、彼の言葉を素直に受け止めることができるのかも。

裏表紙に「一作で小説十作分の価値がある」とある。同感である。
読みでのあるものに飢えている人にお薦め。
宗教がらみであるという点からして、決してとっつきやすい小説だとは言えない。たとえば、ダニエルの行うミサの問題点なんて、何が何だかさっぱりわからない。でも彼の数奇な運命をたどるだけでも、得るもの、感じるものはたくさんあるはず。

最後に「旅する極楽トンボ」としての感想をひとこと。
歴史に「~たら」「~れば」はないということはわかっているが、もしもナチス・ドイツがあんなことをしなければ、今もなおヨーロッパにはたくさんのユダヤ人コミュニティーがあったはずである。それを旅人として垣間見てみたかった。


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by foggykaoru | 2011-06-01 21:44 | 普通の小説 | Trackback | Comments(2)