翼よ、あれがパリの灯だ
2009年 03月 29日
図書館の児童書コーナーでちくま少年文庫(抄訳)を見つけたので読んでみた。
まず感慨深かったのは、これが1927年のことだということ。
戦争に飛行機が登場したのは第一次世界大戦。1914年。
若き学徒・トールキンも駆り出された。
のちに彼が書いた指輪物語の「翼のある獣」、あれには絶対にそのときの恐怖体験が投影されている(と私は思うのだけれど、トールキン自身はそういう指摘を好まなかった)。
それから十数年たったというのに、大西洋を横断飛行は命がけの冒険だったのだ。
で、ランサムが「ツバメ号とアマゾン号」を発表したのが1929年。ランサム・サガに飛行機の記述は無い。だから何なんだと問われると困るんだけど、とにかく、そういう時代だったんだな、と思ったのです。
この大西洋横断飛行には賞金がかけられていたのだそうです。知らなかった。
何人ものパイロットが次々と挑戦し、次々と失敗し、多くが命を落としていく中、リンドバーグはスポンサー探しに奔走する。
このあたり、現代の登山家や冒険家と言われる人々と同じ。
良いスポンサーについてもらえるかどうかは、その人の実績のみならず、人間的魅力によるものが大きいだろうから、リンドバーグは「人たらし」あるいは「おやじキラー」だったのかも。
そして、できる限りの燃料を積み込むために、六分儀もラジオもパラシュートも載せない。まあ確かに墜落したら六分儀もへったくれもないし、それまでの飛行経験に基づいた決断ではあろうけれど、まさに博打。
そうやってまでして積み込んだ燃料だけれど、飛行機がその重量に耐えて離陸できるかどうかすらわからない。なにしろ誰もやったことがないのだから。
どうにか飛び立ち、33時間にわたる孤独と疲労と睡魔との闘いに耐え抜き(垂れ流しだったんですってね。さすがにそんなことまでは書いてないけど)、パリにたどりつくわけだが、何より驚いたのは、前日も忙しくてほとんど完徹だったということ。そんな体調なのに、天気予報を聞いて「出発するなら今だ」と決断する。
今だって悪天候時の飛行は危ないけれど、リンドバーグ時代は飛行高度が低い。ときには海上30メートルなんてときもあるぐらいなので、雨雲や霧が大きな障害になる。雲を避けようと高度を上げすぎると氷との戦いになる。
さらに、到着すべきパリのブールジュ飛行場を見たことがない。「こんな感じ」と噂で聞いているだけなので、「ここかな? うん、きっとそうだ」てな具合。ほんの100年足らず前のことなのに、世界はなんと広く、なんと謎に満ちていたのだろう。
今、気軽に飛行機に乗っけてもらって旅している私です。
ありがとうリンドバーグ。
ありがとう過去の飛行士たち。
サン・テグジュペリの「夜間飛行」あたりも読んでみようかなという気になりました。
いちばん印象的だったのはこれ。
父は、ミネソタの、古い移住者のいったことばをいつも引用した。「ひとりはひとり、二人になると半人まえ、三人では結局ゼロになる」と。
これが開拓者精神というものなのね。独立独歩。
ことあるごとに毛利元就の「三本の矢」を引用する日本人の精神性とは正反対です。
私が読んだ本はおそらく絶版。ユーズドでしか入手できません。情報はこちら
でも、単行本なら今も在庫があるようです。そちらはきっと完訳。情報はこちら
by foggykaoru | 2009-03-29 09:53 | 西洋史関連 | Trackback | Comments(5)

「海にでるつもりじゃなかった」の序盤で「なにもおこるはずがない」の章99ページの最後から100ページの頭にかけて飛行艇に関する記述があります
「ひみつの海」の「六隻で探検」(320ページ)では『飛行機から見ている人がいたら…』と間接的な記述
飛行艇は当時の『海軍』の最新装備、もう一つは鳥眼ですからランサム自身は飛行機に興味がなかったのは確かですね
リンドバーグの飛行機って、実は前方視界0
操縦席の前の燃料タンクが大きすぎるんです
離発着の際には潜望鏡式の鏡を二枚を組み合わせた物を横窓から突き出して確認したそうです
冒険というより無茶ですね
現在の飛行機の設計では絶対に認められないでしょう…
発展って冒険の積み重ねですね

おもしろそうですね。
奥さん(アン・モロウ・リンドバー)の著書『翼よ、北へ』は好きな本です。一緒に読むとさらに良いだろうと思います。よかったら読んでみてください。
おお、ランサム・サガにも「飛行機」という単語があったんですね!
ちっとも覚えてない・・・(汗)
そう、リンドバーグの飛行機は前が見えなかったんですってね。
ほんとうに無謀です。
>発展って冒険の積み重ねですね
名言ですな。何かのときに使わせていただきます(爆)

さすがにリアルタイムではみてませんけれど・・・1957年制作。
最後のほう、眠くて眠くてたまらなかったというあたりを憶えています。
『翼よ、北へ』はお薦めです!