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メアリー・アニングの冒険

副題は「恐竜学をひらいた女化石屋」。
帯には「『フランス軍中尉の女』のモデル」と書いてあったけれど、映画を観ていない私にはちんぷんかんぷん。てっきり、女だてらに(←死語?)化石に興味を持ち、化石を求めて探検した女性の評伝かと思ったのだが、まったく違った。

メアリーが化石屋になったのは、そういう環境に生まれ、そうしないと食べていけなかったからなのである。
彼女は1793年、英仏海峡に面した小さな村ライム・リージスで生まれる。
ここは海岸を歩けば化石が転がっているという場所。彼女の父親は大工だが、化石収集と販売というサイドビジネスをしていた。その父親は彼女が幼いころに死ぬ。困窮した母親は化石ビジネスを継ぎ、息子と娘(つまりメアリー)が助けることになるのだが、かなり早いうちからメアリーが実質的に商売の中心になる。その後、メアリーは(ろくに学校にも行けなかったが)その博識と知性によって当時の学者たちをもうならせるようになり、「フォッシル・ウーマン(化石婦人)」として知られるが、下層階級で、かつ、女性だったため、正当な評価も報いも受けずに(一応、食べていけるぐらいの年金などはもらったけれど)、ライムでその生涯を閉じ、忘れ去られる。

地質学の名称にやたら英国がらみのものが多い(カンブリアとか)のは、英国が地質学の先駆者だから。なんでも、英国には実に多彩な地層がコンパクトにまとまっているのだそうだ。
昔読んでいまいちその良さがわからなかった英国児童文学作品に「砂」というのがあるけれど、あの舞台はライムだったのかしらん。
もしそうでなくても、こういう歴史があったからこそ、ああいう作品が描かれたのだなあと納得。


でも、私にとっての最大のツボは「時代」。

英国は世界に先駆けて市民革命と産業革命も経験していちはやく近代国家になり、「知への好奇心が生活水準の向上とともにふくれあがった」。
かくして19世紀初頭から、イギリスでは博物学が大ブームになったのである。
「マスター&コマンダー」のドクター・マチュリンは時代の落とし子。

メアリーが生まれた年はフランスで恐怖政治の嵐が吹き荒れていたころ。
そのうちにナポレオンが出てきて対仏戦争が始まる。
彼女の最初の大発見が1812年。ナポレオンがロシアで冬将軍にやられた年。
エルバ島から復活したナポレオンが最終的に敗れるのが1815年。
メアリーの大活躍はこのあたりから後の約20年間。
お隣のフランスがようやくまともな形(王政)に戻って「やれやれ」と息をつき(軍人は失業する)、暇になったぶん、英国の上流階級は博物学にのめりこむのだ。
「マスター&コマンダー」のブレイクニーくん、無事祖国に帰っていたら、絶対に博物学者になってたはず。
「スカーレット・ピンパーネル(紅はこべ)団」のメンバーとしてフランス貴族をギロチンから救うというゲームに燃えていたぼんぼんたちの中にも、後半生を博物学に捧げた人が1人ぐらいいても不思議はないかも。


メアリーの生涯には謎に包まれた部分が多く、この本は空白の部分を想像で補って書かれているということだが、面白いです。ここまで面白くしたのは著者の力量だと思う。

ということで、著者の紹介。共著なのである。
1人は吉川 惣司という人。虫プロ出身。数々の有名なアニメ作品にかかわっている。
もう1人は矢島道子という人。東大大学院出身の理学博士。専門は古生物学。
絶妙のコラボです。

将来、英国南部を旅するときは、ライムにも行かなくてはならなくなった。


この本に関する情報はこちら

by foggykaoru | 2009-08-25 20:55 | 伝記・評伝

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