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王妃に別れを告げて

シャンタル・トマ著。白水社刊。

王妃というのはマリー・アントワネットのこと。
バスティーユが陥落した1789年7月14日から16日までの3日間のヴェルサイユの様子が、王妃の朗読係の女性の目を通して描かれている。

もう2週間ぐらい前に読み終わったのだけれど、感想文を書く元気が出なかった。
面白かったのである。けれど、風邪引きかけで体調が下り坂のときに読む本ではなかった。

たとえ平民であっても、生まれたときから与えられていたものが、ある日、突然なくなる、というのは、大事件である。
それが王侯貴族だった場合、それはまさに自らのよって立つところがなくなるということを意味する。
ドアの前に立っても、自然に開かれない。
喉が渇いても飲み物が現れない。
召使いが消えてしまったから。

そういう底知れない喪失感が、読み進むにつれて深まっていくのだ。風邪に対する抵抗力も落ちるというもの(苦笑)

でも、教科書で習ったフランス革命観が変わった。深まった。
遠くから見たときは、一枚の平らな布だと思っていたのだが、近くに寄って見たら平らではなくて、たっぷりとしたひだがあった。そのひだの奥を見てみたら、繊細で華麗な刺繍がほどこされていた・・・そんな気分。

バスティーユが陥落した。
暴徒がヴェルサイユをも襲うかもしれない。
「鉄柵に鍵をかけるべきか」と動揺する貴族たち。
そこに一声。「でも鍵はないのです」

中世の城砦とは違い、ヴェルサイユは開かれた宮殿だった。
革命以前から、衛兵の目を盗んで、物乞いが入り込んだりしていた。
廊下の隅には生き倒れが転がったりしていた。ひえ~~~

よく、インドでは生と死が隣り合わせにあって、インドを旅すると人生観が変わるとか言われるけれど。
ヴェルサイユはインドだった?!

主人公は王妃に別れを告げて、ウィーンに逃れ、フランス革命を生き延びる。
そして1811年。ナポレオン軍がウィーン入りする。

ナポレオンがロシア遠征で敗走したのは、翌1812年・・・
「のだめカンタービレ最終楽章・前編」を思い出した私でありました(笑)


この本に関する情報はこちら

by foggykaoru | 2010-04-27 21:14 | 西洋史関連 | Trackback | Comments(4)

Commented by むっつり at 2010-04-28 02:14
ヴェルサイユ宮殿は市民が自由に訪れられるだったそうで、それがマリー・アントワネットにはショックだったそうですが
王室と平民との垣根が低かったので革命が起こったのだか?
他国では王侯貴族の権威は絶対、批判する事なんて考えも出来なかったそうです
「パンが無ければお菓子を食べればよいのに」なんてプロパガンダが流れてたのも、元老院と市民によって選ばれたローマ皇帝の時代以来の事だったとか
かくして近代の始まりです
正義の追求は恐怖政治になり、ナショナリズムは徴兵制度になって貴族と従者と傭兵の軍には不可能だった大規模消耗戦をもたらして無敵のナポレオン軍団になりましたから
近代国家の根源はフランス革命から始まっていますね
Commented by foggykaoru at 2010-04-28 20:40
むっつりさん。
マリー・アントワネットはなまじっかルイ16世があまり女好きでなくて、愛人をつくらなかったばかりに、憎悪の的になってしまったのですよね。。。
王室と平民の垣根が低かったかどうかはわからないけれど、国王はは王権神授説を信じていたのだし。
平民が「権力が欲しい」と言ってきたとき、彼は怒ったわけではなくて、仰天したようですね。
Commented by margot2005 at 2013-01-13 23:39
こんばんは。

映画「マリー・アントワネットに別れをつげて」はつまらなかったですが、こちらの小説には惹かれますね。本屋にGOしようと思います。

Commented by foggykaoru at 2013-01-14 16:38
margot2005さん。
やっぱり映画はダメでしたか・・・
この小説はまともです。
でも、体調が悪いとき、ストレスがあるときには薦めません(苦笑)
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