オペラ座の怪人---ラウルの苗字について
2005年 05月 03日
今回もウェブサイトが重要な役割を果たしました。
その中心となった「字幕改善連絡室」を、久しぶりに覗いてみて、すっかり有名になってしまった「情熱のプレイ」以外にどんな誤訳があったのか、じっくり読んでみました。あの映画は1回しか観ていないので、どんな字幕があったのか、あまり覚えていなかったのですが、読んでみて、「うんうん、そうそう、あれはひどかったなあ」とうなずくところが多々ありました。
で、今回の話題は英語ではありません。英語は英語のプロにお任せいたします。
前からちょっと気になっていたことが、ここにもあったのです。
それはラウルの苗字の日本語表記。"Chagny"という綴りなのですが、これが「シャニー」になったり「シャニュイ」になったりと、ぶれが見られます。
果たして彼の苗字は何というのか? そしてカタカナではどう書くべきなのか?
フランス語の"gn"の綴りは、ローマ字で表記すれば"ny"、つまり「ニャ行」のような発音になります。
たとえば、「田舎」という意味の"campagne"は「カンパーニュ」。「パン・ド・カンパーニュ」というフランスパンをご存知の方も多いはず。
で、"Chagny"は"gn"の後に"y"が来る。"y"とはいったいどんな発音かと言うと、"i"と同じなんです。つまり、"ngy"はローマ字表記すると"nyi"となる。
あらら? こんなローマ字見たことないって?
そりゃそうです。そんな綴りはありません。でも、日本語の音にはあるのです。
それは「ニ」の音。
ローマ字で"ni"と書くと思われている、あの音です。
日本語の「ニ」は、「ナ行」、つまり「ナ、ニ、ヌ、ネ、ノ」の2番目の音だと思われています。
でも、ほんとうは「ニャ行」、つまり「ニャ、ニ、ニュ、ニェ、ニョ」の2番目の音なのです。
なになに、どう違うかわからない?
「ナ」と「ヌ」を注意深く発音してみてください。そのときの舌の位置と、音の響きをよーく覚えてから、「ニ」と言ってみてください。舌が上あごに当たる位置と、舌の形が微妙に違ってしまうのがわかるはず。
次に、「ニャ」と「ニュ」を発音してから、「ニャ」「ニ」「ニュ」と言ってみてください。今度は舌が同じ状態であることがわかるはずです。
つまり、日本人がふだん"ni"だと思って発音している音は、実は"nyi"なのであって、"ni"ではないのです。
正しい"ni"を発音するには、「ナ」「ヌ」の舌の位置と形をしっかり確認した上で、「ニ」と発音する。このとき、はっきりと"i"という母音を発音しようとすると、舌が動いてしまいやすい。なるべく口の形を変えないで、あいまいな"i"を出すようにすると、正しい"ni"が発音できます。
日本語の「イ」の段(=イキシチニ・・・)の音は、くせ者なのです。
ヘボン式ローマ字で「サシスセソ」は"sa shi su se so"であって、"sa si su se so"ではないのはどなたもご存知でしょう。外国語を勉強するとき、「シ」か「スィ」かで悩まされた(英語の例を挙げれば、"she"か"see"かということです)人も少なくないはず。
日本人が習うことが多い外国語には、"ni"と"nyi"を区別できないと支障をきたすという言語はないから、この2つの音の違いが意識されることはないのです。
「他者との比較によって、初めて自分がわかる」ということの一例です。
というわけで、ラウルの苗字"Chagny"の発音は「シャニー」です。
いつものとおりの「ニ」でいいのです。それが正しいフランス語の"gn"の音なのですから。
by foggykaoru | 2005-05-03 19:49 | バベルの塔 | Trackback | Comments(8)
すっきりしました^^
ありがとう、かおるさん
っていうか今までの他の作品は日本人に原作とかが
知られてなく、露見してなかっただけとか!?
フランス語は発音が難しいですね。
昔習ってましたが(学校で必修でした)結局挨拶しかできません(^_^;)
最近、戸田さんの字幕はネタ扱いされることが多いです。
誤訳も多いけど、日本語のセンスも悪いと思うんです。
なんで、"power"を「パワー」と訳すかなー?
「オペラ座の怪人」は100年ぐらい前の物語なのに、雰囲気ぶちこわしです。
第一、 「字幕は字数制限があって大変なのだ」と言うのだったら、「力」にすれば、2字も節約できるのに。
ほんとうは、ヨーロッパ言語の中で、英語の発音が抜きんでて特殊で、日本語とはかけ離れているんですよん。でも、最初に英語を習うから、かえって他の言語の発音が難しく感じられるんです。
シャニー子爵、すっきりです。
あ、でも子爵夫人がコンテスなのがまだひっかかって(爆)DVDが出たらまず見てみようっと(笑)これは字幕ではないのですしね。
原作本の日本語訳ではどうなっているのかしら。
フランス語のプロが訳しているはずだから、「シャニー」なのではないかと思うのですが。
子爵夫人はヴィコンテスなんですけどね。。。それは映画自体の問題?
あら、そんなに意外でした?
"Chagnuy"という綴りなら「シャニュイ」と読みますけど。
原作ではどうなっているのかしら。まさか"u"の字が入っていたりして。
なんだか不安になってきました。