人気ブログランキング | 話題のタグを見る

オペラ座の怪人---ラウルの苗字について

戸田奈○子氏が手がけた「オペラ座の怪人」の字幕に関する騒動が、ついに週刊誌ネタになってしまいました。3年前の「指輪」の字幕問題のことも言及されています。たまたま買った週刊新潮を読み、あの当時の大騒ぎを懐かしく(!)思い出しました。

今回もウェブサイトが重要な役割を果たしました。
その中心となった「字幕改善連絡室」を、久しぶりに覗いてみて、すっかり有名になってしまった「情熱のプレイ」以外にどんな誤訳があったのか、じっくり読んでみました。あの映画は1回しか観ていないので、どんな字幕があったのか、あまり覚えていなかったのですが、読んでみて、「うんうん、そうそう、あれはひどかったなあ」とうなずくところが多々ありました。

で、今回の話題は英語ではありません。英語は英語のプロにお任せいたします。

前からちょっと気になっていたことが、ここにもあったのです。
それはラウルの苗字の日本語表記。"Chagny"という綴りなのですが、これが「シャニー」になったり「シャニュイ」になったりと、ぶれが見られます。
果たして彼の苗字は何というのか? そしてカタカナではどう書くべきなのか?





フランス語の"gn"の綴りは、ローマ字で表記すれば"ny"、つまり「ニャ行」のような発音になります。
たとえば、「田舎」という意味の"campagne"は「カンパーニュ」。「パン・ド・カンパーニュ」というフランスパンをご存知の方も多いはず。
で、"Chagny"は"gn"の後に"y"が来る。"y"とはいったいどんな発音かと言うと、"i"と同じなんです。つまり、"ngy"はローマ字表記すると"nyi"となる。
あらら? こんなローマ字見たことないって?
そりゃそうです。そんな綴りはありません。でも、日本語のにはあるのです。

それは「ニ」の音。
ローマ字で"ni"と書くと思われている、あの音です。

日本語の「ニ」は、「ナ行」、つまり「ナ、ニ、ヌ、ネ、ノ」の2番目の音だと思われています。
でも、ほんとうは「ニャ行」、つまり「ニャ、ニ、ニュ、ニェ、ニョ」の2番目の音なのです。

なになに、どう違うかわからない?

「ナ」と「ヌ」を注意深く発音してみてください。そのときの舌の位置と、音の響きをよーく覚えてから、「ニ」と言ってみてください。舌が上あごに当たる位置と、舌の形が微妙に違ってしまうのがわかるはず。
次に、「ニャ」と「ニュ」を発音してから、「ニャ」「ニ」「ニュ」と言ってみてください。今度は舌が同じ状態であることがわかるはずです。

つまり、日本人がふだん"ni"だと思って発音している音は、実は"nyi"なのであって、"ni"ではないのです。
正しい"ni"を発音するには、「ナ」「ヌ」の舌の位置と形をしっかり確認した上で、「ニ」と発音する。このとき、はっきりと"i"という母音を発音しようとすると、舌が動いてしまいやすい。なるべく口の形を変えないで、あいまいな"i"を出すようにすると、正しい"ni"が発音できます。

日本語の「イ」の段(=イキシチニ・・・)の音は、くせ者なのです。

ヘボン式ローマ字で「サシスセソ」は"sa shi su se so"であって、"sa si su se so"ではないのはどなたもご存知でしょう。外国語を勉強するとき、「シ」か「スィ」かで悩まされた(英語の例を挙げれば、"she"か"see"かということです)人も少なくないはず。

日本人が習うことが多い外国語には、"ni"と"nyi"を区別できないと支障をきたすという言語はないから、この2つの音の違いが意識されることはないのです。

「他者との比較によって、初めて自分がわかる」ということの一例です。

というわけで、ラウルの苗字"Chagny"の発音は「シャニー」です。
いつものとおりの「ニ」でいいのです。それが正しいフランス語の"gn"の音なのですから。

by foggykaoru | 2005-05-03 19:49 | バベルの塔 | Trackback | Comments(8)

Commented by hanipyon2 at 2005-05-06 08:08
「シャニー」なんですね
すっきりしました^^
ありがとう、かおるさん
Commented by foggykaoru at 2005-05-06 20:36
はにぴょんさん。
そうなんです。
これからは自信を持って「シャニー」と言ってください♪
Commented by KIKI at 2005-05-06 23:57 x
戸田さんまたやられてたのですね・・・。
っていうか今までの他の作品は日本人に原作とかが
知られてなく、露見してなかっただけとか!?

フランス語は発音が難しいですね。
昔習ってましたが(学校で必修でした)結局挨拶しかできません(^_^;)
Commented by foggykaoru at 2005-05-08 19:46
KIKIさん。
最近、戸田さんの字幕はネタ扱いされることが多いです。
誤訳も多いけど、日本語のセンスも悪いと思うんです。
なんで、"power"を「パワー」と訳すかなー?
「オペラ座の怪人」は100年ぐらい前の物語なのに、雰囲気ぶちこわしです。
第一、 「字幕は字数制限があって大変なのだ」と言うのだったら、「力」にすれば、2字も節約できるのに。

ほんとうは、ヨーロッパ言語の中で、英語の発音が抜きんでて特殊で、日本語とはかけ離れているんですよん。でも、最初に英語を習うから、かえって他の言語の発音が難しく感じられるんです。
Commented by crann at 2005-05-09 12:20
英語じゃないんだから、謙虚に調べればそれですみますのにね・・・

シャニー子爵、すっきりです。

あ、でも子爵夫人がコンテスなのがまだひっかかって(爆)DVDが出たらまず見てみようっと(笑)これは字幕ではないのですしね。
Commented by Rupinasu_3 at 2005-05-09 16:07
そうだったんですかぁ、シャニーなんですね。
DVDは買おうと思っているので、絶対に字幕を直して欲しいと切に願ってます。
でなきゃ、パソコンに繋げて好きなように直せるとか してほしいです。(笑)
Commented by foggykaoru at 2005-05-09 21:25
crannさん。
原作本の日本語訳ではどうなっているのかしら。
フランス語のプロが訳しているはずだから、「シャニー」なのではないかと思うのですが。
子爵夫人はヴィコンテスなんですけどね。。。それは映画自体の問題?
Commented by foggykaoru at 2005-05-09 21:28
Rupinasu_3さん。
あら、そんなに意外でした?
"Chagnuy"という綴りなら「シャニュイ」と読みますけど。
原作ではどうなっているのかしら。まさか"u"の字が入っていたりして。
なんだか不安になってきました。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

<< 阿刀田高著「楽しい古事記」(角... コンスタンティン >>