人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ガヴロッシュ歌う『ちびっこ仲間』英仏版の違い[追記あり] 

この楽しい歌は映画『レ・ミゼラブル』ではかなりはしょられていましたが、確かフランス語版はめちゃくちゃフランス臭かったはず、と思って確認してみました。


まずはフランス語版。日本語訳だけご紹介します。
(ガヴロッシュのソロパートはかなり超訳で、コーラスパートは抄訳です)
原詩を見たい方はこちらへ。

題名: 『・・・のせい』
地べたに倒れたのはヴォルテールのせい
どぶに鼻をつっこんだのはルソーのせい
俺が公証人でないのはヴォルテールのせい
俺が小鳥なのはルソーのせい
[コーラス(~なのはヴォルテールのせい ~なのはルソーのせい)]
俺は地べたに倒れた
どうやって転んだかは神様だってご存知ない
俺のことを自分の子どもだとわかってくれるおやじもお袋もいない
だから自分で家族を作ったのさ
家族がいない奴らと一緒に
ぼろは着てるけど愉快な奴らで
こんなにでっかい心を持ってるんだ
[コーラス お前が楽しい奴なのはヴォルテールのせい 服がボロなのはルソーのせい]
俺は裸足だけど
この足はちゃんと前に進むぜ
気に入ったものは取っちまう
金を払う? そんなこと問題じゃねえ
店のおやじやおかみなんか みんなアホ
[コーラス お前を捕まえるには おまわり1人じゃ足りない]
俺のことはみんなが知っている
クリニャンクール(注:パリの地名です)からベルヴィル(注:これもパリの地名)まで
俺はみんなに好かれてる
おまわりは別だけどさ
俺は入ってくるものと
入ってこないもので暮らしてる
次のメシのメニューなんか知らない
着てるのがボロなのは
[コーラス ルソーのせい]

まだまだ続くのですが、繰り返しが多いので省略します。

とにかく、すべてはフランスが誇る偉大な思想家ヴォルテールとルソーのせい。
なぜこの2人なのか? 
そんなに悪い人じゃなかったと思うんだけど。
偉そうで鬱陶しい存在だったのかな?

それはおいといて、この歌詞の最大の魅力は
「ヴォルテール

「ルソー」(厳密に言うと「オー」なのですが)
に合わせた脚韻です。
聞きたい方はこちら


さて、英語版です。
題名は『Little people』、すでに原詩とはかけ離れている。だから日本語の題名は『ちびっこ仲間』。

They laugh at me, these fellas,  奴らは俺のことを笑う
Just because I am small  俺がちびだからってだけで
They laugh at me because I'm not hundred feet tall! 俺の身長が100フィート無いから
I tell 'em there's a lot to learn down here on the ground 
奴らに教えてやる
下々の世界には勉強することがいっぱいあるんだって
The world is big, but little people turn it around!
世界はでっかいけど、ちっこい俺らがひっくり返してやるんだ

A worm can roll a stone ミミズだって石を転がせる
A bee can sting a bear  蜂だって熊を刺すことができる
A fly can fly around Versailles ハエだってベルサイユの周りを飛べる
'Cos flies don't care! ハエは気にしないからな
A sparrow in a hut あばら屋のスズメだって
Can make a happy home 幸せな家庭を作れる
A flea can bite the bottom 
Of the Pope in Rome! ノミだってローマ法王のケツを噛めるんだ

なかなか面白いですねえ。
「てのひらを太陽に」を思い出すけど(笑)


フランス語版は生活感、「どん底感」があふれています。どん底で必死に生きている。
これこそ「レ・ミゼラブル」、すなわち「惨めな人々」

英語版は切迫感が薄い。
たいして惨めじゃない。

英語版はディズニー、と言ったら怒られますか?



[1/19追記]
むっつりさん、ラッコ庵さんのコメントに触発されて、少し調べてみました。
最初から調べろって? すみません。

フランス革命の種子を播いたのは啓蒙思想。
その立役者がルソーやヴォルテールだった。
せっかく革命を起こしたのに、それに続く恐怖政治→ナポレオン帝政→王政復古、という流れの中で、庶民の暮らしはいっこうによくならない、ということがこの歌の底流に流れているのでしょう。
これは英語圏の一般観客に通じるはずがない。
だからディズニーでいくしかない。

悪口言ってるみたいに聞こえるかもしれませんが、Little peopleの歌詞は素晴らしいと思います。
特にミミズのくだり。
リズムにばっちり乗れるし、脚韻も効いている。
し・か・も 内容がある。
名訳です。

by foggykaoru | 2013-01-18 22:02 | 観もの・聞きもの | Trackback | Comments(6)

Commented by むっつり at 2013-01-19 06:25 x
啓蒙思想家って、庶民は惨めで、本来はあるべき権利が踏みにじめらている事を気付かせましたからね。
楽園で不死身だと思っていたのに、智恵の実を食わされて実は自分たちは老いて死に行く存在と気付かされて、楽園を追われたのと同じです
知らなきゃ幸せ…
ですからルソーは邪悪な蛇と同じ?
Commented by foggykaoru at 2013-01-19 10:03
むっつりさん。
ルソーはヒューマンな感じのことを書いたけど、実生活では相当勝手なやつだった
ヴォルテールは百科全書を書いて、最後にロシアのエカテリーナのところで病気になって死んだ
ということしか知りませんでした。

そうか、啓蒙思想は民衆の不満を呼び覚ましたんですね。
Commented by ラッコ庵 at 2013-01-19 15:50 x
原作(やっと4巻まできました)でも「ジャン・ジャック」ってよく出てきます(笑) 映画はサクサク進んでいいなあ。一番びっくりしたのは例の象が思ったより大きかったこと。
Commented by foggykaoru at 2013-01-19 16:03
ラッコ庵さん。
おお! 
原作でジャン・ジャックはそんなに話題になっているのですか!
ヴォルテールはどうなんでしょう?
出てきたらお知らせください。
今Wikiを見たら本名はフランソワ=マリー・アルエだそうな・・・
しかもWikiによると、ルソーとヴォルテールは、知り合ったころはまあまあ良好な関係だったけれど、そのうちにものすごく対抗意識を燃やすようになったそうな。
Commented by 銀の匙 at 2013-01-26 22:03 x
これから『レ・ミゼラブル』を観ようと思ってるんですけど、英語だと雰囲気でないんじゃないかな…?と心配してたら(『マリー・アントワネット』とか『三銃士』とかガッカリしませんでした?)、英語版もなかなか面白い歌詞みたいですね。

「ハエだってベルサイユの周りを飛べる」のスタンザは自負と自虐が入り混じっててとても良くできてると思いました。

フランス語の方はもっと大人びてますけど(かおるさんの訳が素敵だからかな)、かなり状況説明も入ってる感じがしますね。
Commented by foggykaoru at 2013-01-27 10:47
銀の匙さん。
私は原則的にフランス原作の英語の映画を見ないのですが、『三銃士』はオーリーに免じて許してやりました。
『レミゼ』は、フランスでコケたのを拾って成功させたマッキントッシュさんに免じて許してます(笑)
本当はフランス語版を観たいけれど、絶対に無理だろうから。

フランス語版の歌詞は、原作を読んでいる人にとっては「ツボ」が多いんじゃないかと思います。でも私は読んでないからわからない(汗)
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

<< 思わぬところでビルボに会いました 身体のいいなり >>