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牟田口義郎著「物語 中東の歴史---オリエント五〇〇〇年の光芒」(中公新書)

十字軍にスポットを当てた本が手近に見あたらなかったので、とりあえずこれを読んでみた。

「物語 ○×の歴史」シリーズは(全部読んだわけではないけれど)私のお気に入り。(ただし、「物語 ドイツの歴史」はNG。) この本は、「キングダム・オブ・ヘブン」のお陰でにわか十字軍マニアになったものの、中東に関しては高校の世界史以上の知識を持ち合わせていない私にとって、レベル的にちょうどいいものだった。十字軍専門の本を読む前に読んでよかった。

イスラム教徒というと、敵に対して「剣かコーランか」、すなわち、「戦うか、それとも、イスラムに帰依するか」という二者択一の選択を迫ってきた、と思われがちだが、実は3つ目の選択肢があったのだそうだ。
それは「イスラムに帰依しないまま、貢納する」というもの。つまり、おとなしく従って出すものさえ出せば、イスラム教徒にならなくてもよかった。しかも、イスラム教徒が最も好んだのはこの3つ目だった。戦えば犠牲が生じる。相手がイスラム教徒になってしまったら、アラーの神の前で平等になってしまうので、自分の収入にならない。

「イスラム国家の支配者は、領内のキリスト教徒の信仰に寛容だった」と言われているが、そこにはこんな「あきんど」みたいな原理が働いていたのだ。さすが、商人出身者を始祖とする宗教だけのことはある。

中東の人々にとって、十字軍は「蛮族フランクの来襲」だったのだそうだ。
なるほどね。「フランク人=フランス人(プランタジネット王朝のイギリス人を含む)+ドイツ人(神聖ローマ帝国)」なのだから。

さすがにバリアンは出てこないけれど、サラディンの大物ぶりにはページが割かれている。
他にもあまりにも有名なスレイマンとか、重要人物はたくさんいるが、とりあえず、もう1人覚えるなら、マムルーク朝のバイバルスのような気がする。忘れないようにしよう。でも忘れるかもしれない。

モンゴルとの関わりも興味深い。
なにしろ日本人にとってのモンゴルは「元寇」とか、井上靖の「蒼き狼」ぐらいだ。(とか、偉そうに言って、実は未読)
だから、モンゴルのお偉いさんの奥さんが景教徒(キリスト教ネストリウス派)だったりして、意外と親ヨーロッパだった、なんて話には「へええ」だった。

この本を読んでよかったと思ったもう1つの理由。それは、世界史における大航海時代の位置づけがよくわかったこと。

ヨーロッパ人が喉から手が出るほど欲しがったのは、香料である。
だから、彼らは香料貿易中間点に位置する中東を支配したかった。
それが十字軍の大きな要因だった。
その後、強大なオスマン帝国ができると、ヨーロッパ人は陸路を絶たれた格好になる。
それでもとにかく香料が欲しい。
そこで、海に活路を見いだそうとする。
まず、ポルトガルのバスコ・ダ・ガマがインド航路を発見する。
ポルトガルに張り合っていたスペインが、反対側から香料原産地に到達する航路を発見しようとし、結果的にマゼランが世界一周をしてしまう。
あんな小さい帆船で、大海原に出ていったのも、香料のためだったのだ。

ブッシュがイラクに難癖をつけて無理矢理攻撃したのは、石油が欲しかったからだ(と言われている)。

欲しいものを手に入れるためには手段を選ばなかったヨーロッパ人。その子孫であるアメリカ人。
何も変わっていないのだ。

この本に関する情報は
こちら

by foggykaoru | 2005-06-14 20:26 | 西洋史関連

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