ジョン・ダニング著「謎の特装本」(ハヤカワ文庫)
2005年 01月 05日
特装本という世界があることを初めて知った。天才的な出版社(者)というか編集者(というか、装丁者?)が読みやすい独自のフォントを考案し、紙にも凝り(なんでも「何年も前にどこかの会社が何かの用途で買っておいた紙」などを探しだして使うのだそうだ)、もちろん表紙にも凝り、要するに考えられるものすべてに凝って作り上げ、ごくごく少部数出版される本のことなのだそうだ。
私はHPを作成するようになって以来、フォントや字間・行間が気になるようになってきた。そのお陰で、本来、非常に遠いはずの特装本の世界が、ある意味において、身近なものとして受け止められたという事実が、我ながら興味深かった。できあがった本を丹念にチェックして、「このページのこの単語のこの文字とこの文字はくっつき過ぎではないか」などと意見する、という下りには恐れ入ったけれど、HPをやっていると、そういうことが気になることも、実はままあるのだ。ネットは、一般人が編集者的なものの見方を学ぶ場にもなりうるということだろう。
また、ネットが普及し、電子図書館などというものの誕生も確実視される今、本に未来はあるのかといった議論があるほどであるが、特装本も本の一種、その未来はどうなるのかと、一瞬心配しかけたけれど、むしろ特装本のほうが、普通の本以上にしぶとく生き残るのかもしれない。コアな情報を伝達し、マニア心をくすぐるという点で、従来のメディア以上に多大な力を持つのがネットだからである。ネットによってこういった特殊なグッズの市場は拡大するだろうし、需要が高まることによって、新しい才能が刺激を受け、伸びていくことは十分に考えられる。特装本に限らず、これからはどんどん新しい形態のオタクアイテムが誕生し、発展していくような気がする。
「普通のものとの違いはほんのわずかなのに、普通のものよりもはるかに美しいもの」を作り上げる才能もすごいが、その魅力を見いだす方にも、並々ならぬ才能や感性が要求される。オタクの心はオタクが知る。蛇の道は蛇、などという言葉を思い出してしまうのは、失礼が過ぎようか。
by foggykaoru | 2005-01-05 12:03 | 推理小説 | Trackback