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「ルパン」観てから読みました

この映画、世間一般ではそれほど話題になってないんでしょうねえ。
でも、私にはツボでした。
そもそも、ルパン生誕百周年を記念して、フランス人がフランスでフランスの役者を使って撮ったというところで、拍手を贈りたくなります。よかった、フランス人がやる気出してくれて。ルパンが英語喋ったら興醒めですもの。

特にフランス好きでなくても、旅好きなら、フランスの田園風景に感動することでしょう。奇岩城もエトルタにあるホンモノです。オペラ座前の広場も100年前の姿で登場します。このオペラ座、セットではありません。パリでロケしたんです。交通規制して。フランス人というのはそういうことをやっちゃうんです。2年前の8月15日に。8月中旬にパリにいることが珍しくない私、よくもその日にいなかったもんだ、いったいどこにいたんだっけ?と思い返してみたら、その夏はマダガスカルなんぞに行ってたのでした。。。

内容は『カリオストロ伯爵夫人』『「奇岩城』『813』をミックスしたものなのですが、そういう説明よりも、「これは『ルパン・ビギンズ』である」と言ったほうがぴったりきます。あとでパンフを読んだら、監督自らそう言っていました(笑) 

ただし、『バットマン・ビギンズ』があくまでも「ビギン」であるのに対し、『ルパン』は「ビギン」だけで終わらず、延々と「コンティニュー」し、さらには「エンド」してしまうんじゃないか!?と心配してしまうほど引っ張ります。

ルパンの母親役は『コーラス』の男の子の母親役をやっていた人。「フランスのお母さん女優」なのですね。
ルパンの恋人役は『キングダム・オブ・ヘブン』のシビラです。売れてますねえ。
カリオストロ伯爵夫人をやってるのはイギリスの女優ですが、フランス人と結婚して、フランスを本拠地としているようです。この女優がハマり役で、若きルパンを思い切り翻弄してくれます。

この映画の問題点は、前述のとおり、やたら引っ張るところと、そして、主役のルパンなのでしょう。

ルパン役のロマン・デュリスという人は初めて見たのですが、いわゆる美男子ではないし、背も低い。たぶん、日本人10人のうち8人は、彼のルパンに不満を覚えるんじゃないかしら。私は「腐ってもフランス人」だと思うんですけどね。『キングダム・オブ・ヘブン』のオーリーくんはどう見てもフランス男じゃなかった。本質的に女好きで、女に水を向けられたら(正確に言うと、水を向けられなくてでも、ですが)すぐに骨抜きになるフランス男。これはフランスの俳優じゃなくちゃ。

ここまで考えて、原作のルパンがどんななのか、非常に気になりだしました。

子ども時代に「ルパン」を何冊も読んだけれど、その後、アニメの「ルパン三世」(緑のジャケットの初代ルパン)で上書きされてしまった私です。
そしてその後、フランス語の勉強の一環で原書を2、3冊読んだのですが、当時はまだフランス語力が足りなかったせいか、何も覚えていないのです(涙) 
今ならもっときちんと理解できるはず、と今回手に取ったのが、短編集「LES CONFIDENCES D'ARSENE LUPIN(ルパンの告白)」でした。

読んでみて・・・
なんちゅうお喋り男! さすがラテンの男!
もっと黙っていてくれたほうがかっこいいのに・・・と思いながら読んでいて、こういう男は前もどこかで見たことがあるなあと思いました。

それは初期の「ゴルゴ13」。
あの寡黙でニヒルなゴルゴ13は、回を追うごとに、だんだんとできあがっていったのであって、最初の頃のゴルゴ13は妙に口数が多くて軽いんです。原作ルパンはまさにそれ。

しかも、原作ルパンはけっこうヘタレ。すぐ窮地に陥ります。
ただし、宿敵ガニマール警部が出てくる話では、やたらかっこいい。ヘタレやトホホはガニマールが一手に引き受けてくれるので。まるで銭形警部です。

そしてルパンの喋り方。
「紳士」のときは、敵のことを「vous(敬語的な二人称)」で呼んでます。
そして、その敵と立ち回りを演じ、ようやく取り押さえて、はあはあ息を切らしながら喋るときは、いきなり「tu(タメ口の二人称」に変わります。
で、しばらくして落ちつくと、また「vous」に戻る。
なにしろ100年前のフランス語ですから、現代のフランス語とは多少違います。たとえば、過去の事柄を述べるとき、単純過去という時制が使われているのですが、これは今のフランス人は絶対に会話に使わない。「○○でござった」みたいに聞こえてしまうから。
そういう口調の中で「vous」から「tu」に変わるというのは、かなり劇的な変化なのではないかと思うのです。たぶん、「tu」で喋っているときは、思い切りガラが悪いんじゃないかな。「んにゃろ~、てめえ!!」みたいに。
日本語訳はチェックしていないけれど、おそらくそれほど下品には訳していないのではないかしら。

あと、ルパンの外見について。
「mince(ほっそりした)」「elegant(エレガントな)」という形容詞が使われているけれど、それ以上の具体的な容姿は書かれていません。いつも変装しているんですから当たり前ですが。
ただ、注目すべきなのは、「joli garcon」という描写。
これは「かわいい少年(青年)」、英語に訳したら「pretty boy」です。
「bel homme(美男子)」じゃないんです。でも女性にはモテる。

ちっこいロマン・デュリスのルパン、案外原作のイメージに近いのかもしれません。

大人になって読み直してみて、子どもの頃よりもハマったのは、ルパンではなくて、ホームズだったのでした。
なぜそうだったのか、今回ルパンを読んでみてわかりました。
ホームズは後のゴルゴ13みたいに寡黙なのです。何を考えているかわからなくて、謎めいています。ボンクラのワトソンの側から描かれているせいもあります。つくづくホームズ&ワトソンは最高のコンビだと思います。私は好きです。敵味方のルパン&ガニマール組よりも。

ルパン@映画生活

by foggykaoru | 2005-10-21 19:44 | 推理小説 | Trackback(1) | Comments(18)

Tracked from 【徒然なるままに・・・】.. at 2006-02-05 00:13
タイトル : 『ルパン』
ルパン生誕150周年を記念して、昨秋ようやっと一年遅れで日本でも公開された『ルパン』。 製作中から期待していたんですが、実際に見た作品は自分には今ひとつでした。 これはシリーズに対する自分の不勉強もあるのだとは思いますが、続編でも出来ればきっと見に行くだろうものの、そんなことでもなければこれっきりだなぁ、なんて考えておりました。 ところが近々発売されるDVDの吹替キャストを見てぶっ飛びました! それは  アルセーヌ・ルパン/ロマン・デュリス:宮本充  カリオストロ伯爵夫人/クリスティン...... more
Commented by at 2005-10-21 21:46
かおる様

「ルパン」はみんながこぞって観にいく映画ではなかったんですか~。
ネットでいわゆる本好き、活字中毒みたいな方々の談話を読むと、みな「小学生時代はポプラ社のルパンシリーズを読み漁った」と書いてるような気がしていたのですが・・・。

かくなる自分もその口で、ポプラ社版、南洋一郎訳のルパンがしみついたあと、いわゆる一般書の文庫(新潮社堀口さん訳ですかね)を読んで、なにやらこそ泥の親分みたいなルパンの口調に愕然としたものです。しかもおしゃべりだし(やはりフランス語版でもそうなんですね)

>ロマン・デュリス
初見で、ルパン三世によく似せたなあ~と思ってしまったのですが。(そんなはずないですよね!)なんかうけ口のところというかあごのあたりが・・。
結構売れっ子のようですね。これから公開の「真夜中のピアニスト」とか「エグザイルス(原題)」(正月公開?)といった映画の主役を務めるようです。

ストーリーというかメインは親子3代の因果なのか?という気もしたのですが、ともあれ「エトルタの西、エイギュイユ・クルーズ」を観られてうれしかったです。


Commented by Titmouse at 2005-10-22 10:42
ルパン、見ようかな~と思ったんだけど、近くのシネコンでは行きにくい時間にしかやってなくて・・・。
でも『奇岩城』『813』は好きだったから、ホンモノの奇岩城は見たい! 記憶に残っていますよ、「エイギュイユ・クルーズ」という言葉。
ルパン3世のイメージに影響はされてないけど、大人になってから読んでないからルパン自身のイメージがぼやけてます。見に行けたらいいなあ。
Commented by すと at 2005-10-22 12:51
ルパン、小学生の時大好きでした。
映画のルパンはあれもこれもごちゃ混ぜにしたようで唐突な展開でしたが、青臭い若いルパンを堪能。あの妙な笑顔と走りっぷりが忘れられない(笑)

シリーズでは『奇岩城』が特に好きで何度も読み返しました(その中のホームズは悪役としか思えなかった)。でも中学校の図書館で借りたらなんだかイメージが違うのです。イジドール少年のイメージが特に。よく覚えているのは小学バージョンだと「父さん」だったのに中学バージョンだと「パパ」だったのです。イジドール君じゃなくなってる。嘘つき!(笑)
今ではパパ、ママと普通に言うでしょうが当時はお父さん、お母さんが当然の時代だったので衝撃的でした。訳者によってこんなにイメージが変わるのだと知ったのはそれが初めてです。

> 子どもの頃よりもハマったのは、ルパンではなくて、ホームズだったのでした。

わたしもです。はまり過ぎたのか3種類くらいの訳者さんバージョン+原書まで集めてしまいました(爆)ルパンはポプラ社シリーズが実家に日焼けしたままおいてあるだけなのに。それもこれも『奇岩城』にホームズが登場してくれたおかげ(爆爆)
Commented by foggykaoru at 2005-10-22 17:57
南さん。
ルパン、私も小学生のときは読んだけれど、その後の読書の下に埋もれてしまってるんです。だから、今回は特にルパンに対するイメージがなくて、却って楽しめたのかもしれません。

堀口大學訳は「tu」になったとたん「あんた」に変わるんだよ、と友達が教えてくれました。それだけじゃなくてこそ泥口調なんですね。でも、もしかしたらそれはとても忠実な訳なのかもしれない。。。(苦笑)

>ルパン三世によく似せたなあ
あはははは・・・・
原作読んだらガニマールは銭形そのものだし、アニメの「ルパン三世」というのはもしかしたら、原作のコンセプトをよく掴んでいるのかもしれません、、、なあんてね(笑)
Commented by foggykaoru at 2005-10-22 18:01
Titmouseさん。
新宿の公開は28日までのようです。うかうかしていると他のところも終わってしまうかもしれないので、観るならお早めに!!
ルパンのイメージがあまり無いなら、そんなに不満なことにはならないと思います。
まあ、私の場合、「純フランス製」というだけでかなり喜んじゃってるので、フツーの人がどう感じるかはちょっと自信が無いんですけどね。。
Commented by foggykaoru at 2005-10-22 18:08
すとさん。
ホームズって「奇岩城」にも出てくるんでしたっけ?
「ルパン対ホームズ」だけかと思ってました。。

ホームズって変人だし、内面設定がオモロイのです。ルパンはかっこいいけど、内面があんまり描かれてないのが、オバサンにはちょいと不満なのです。
Commented by すと at 2005-10-23 20:06
> ホームズって「奇岩城」にも出てくるんでしたっけ?

でてきますよん。鳴り物入りで謎解きにくるかと思いきや簡単に誘拐されちゃうし、乳母を人質にとるし、ルパンの大切な人をうっかり殺しちゃうし。。。いいとこ無し。名探偵とは知ってましたが本家ドイルのホームズ未読な時でしたのでいやなヤツとしか思いませんでした(笑)。
ホームズを知ってからはあの奇人変人さ加減に惚れました(爆)
Commented by mog at 2005-10-23 23:25
☆『ルパン』の写真見て“ルパンⅢの映画化?”と最初思いましたけれど1世のお話なんですよね、私は最初っからシャーロキアン、でしたからポプラ社のルパンシリーズにはまっていた妹にホームズがでていると聞き、読んで怒髪天を突いた口であります。まーたっくフランス人が書きそうなこったわい、と以来ルパンⅢまでルブランとルパンの名前は嫌悪の情顕わな態度をとっておりました。今じゃカリオスとロの城なぞすべての科白が言えちゃうくらいですけどね(とーぜん、テレビ放送も第1回から見てます)。その時つくづく思った事は“私、フランスは駄目だわ”。ベル薔薇にもはまらなかったイオレスです。
Commented by Titmouse at 2005-10-24 07:25
>うかうかしていると他のところも終わってしまうかもしれないので、観るならお早めに!!

そうなんですよ。近くのシネコンは先週で終わってしまい、少し離れたところで今週まで。公開すぐならもっと都合のいい時間/場所でやってたのだろうか。レンタル待ちかなあ。
Commented by foggykaoru at 2005-10-24 20:04
すとさん。
そうだったんだー 
でも、もしもルパンの出版のほうが早かったとしたら、きっとコナン・ドイルのほうが「ホームズ対ルパン」を書いて、ルパンをけちょんけちょんに描いたことでしょうね!
Commented by foggykaoru at 2005-10-24 20:08
mogさん。
ふふ。まあそれは「後に書いたもん勝ち」だから。
>私、フランスは駄目だわ
そうなのかー ちょっと残念。
「ベルばら」は刊行後10年ぐらいたってから読んだけど、面白かったなあ。最後は泣きました。

ふと思ったのですが、mogさんの熱いところ、なんとなくフランス人に似ているかもよん(^^;
Commented by foggykaoru at 2005-10-24 20:11
Titmouseさん。
間に合いそうもないんですか?残念!
今日(10/24)の記事に本家サイトのリンクを貼っておいたので、せめて雰囲気だけでも味わってみてください。
リンク貼りながら予告編やメイキング観たら、また観たくなっちゃいました。今週中にもう1度観られたらいいなあ。。。
魔太郎が出る「新・シティー」は2度観なくてもいいけど(爆)
Commented by Titmouse at 2005-10-25 14:54
今日がんばれば、明日行けるかも?
それがだめでも、11月にもうちょっと近くでやるみたい。ラッキー♪
そのためには、仕事仕事っと。
Commented by foggykaoru at 2005-10-25 21:01
Titmouseさん。
ご近所で再映されるんですか!? それはすごい。
Titmouseさんみたいにイギリス一筋の人がフランスをどう感じるのか、ちょっと興味があったりします。
Commented by fendi_jp at 2005-10-26 01:51
今晩は。アニメのルパン三世しか見た事ないので、かおるさんの記事と皆さんのコメントがとても興味深いです。
ルパンは「可愛い男」のイメージなんですねー。へー。へー。へー。
Commented by foggykaoru at 2005-10-26 20:31
フェンディさん。
>ルパンは「可愛い男」のイメージなんですねー。
「joli garcon ジョリ・ギャルソン」というのは「大人のいい男」というより、「かわいい坊や」なんですよ。
しかも、これを言ってるのがルパン本人ときてる!
妙にモテちゃった後で、「ジョリ・ギャルソンだというのは、こういうことなのさ!」って言いやがるんざんす。
ったくー、このーー!!
Commented by Titmouse at 2005-10-26 23:57
見てきましたよ~。面白かった! 魅せる映像がいっぱい(前寄りの席だったのでカメラワークが目にちょっときつかった)。奇岩城を大画面で見られて満足。帰ってきたら次の仕事が来てたので、きわどかった~(で、今やってるところ)。
イギリス一筋っていうか、他を知らない、無知なだけです・・・。
Commented by foggykaoru at 2005-10-27 19:41
Titmouseさん。
ノルマンディー、美しかったでしょう?
あれ見れば、「キングダム・オブ・ヘブン」のフランスの風景が「えせフランス」だったことがよくわかるはず。
宝石類もすごい!と思ったら、あれは某超有名ブランド提供のホンモノでした。。。
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