堀口大學訳「続813」(新潮文庫)
2005年 11月 08日
というわけで、続きを読みました。
当ブログでは、ルパン関連の記事のカテゴリーを、便宜的に「推理小説」としてあるのですが、そもそもルパン・シリーズというのは、犯罪がからんだ冒険小説であって、推理ものではない。
そのことを再確認したという感じです。
犯人当てを楽しみたい人には向かないかも。
ルパンがよく喋るということは、以前述べたとおりですが、それに加えて、地の文において、彼の心の動きが手に取るように描写されています。読者にとって、とてもわかりやすい男。
そして、身体を張って、頑張る頑張る! 「そんなことばかりしてると、そのうちに命を落とすよ!」って、ルパンのばあやみたいな気分にすらなってきます(爆)
さらには、女好き、、というか、女にほれっぽい。
とにかく、生身の人間という感じがするのです。
それに対して、ホームズはあまり喋らないし、地の文で彼の心中が説明されることがない。
ホームズも肉体的なバトルが得意らしい(「バリツ」とかいう日本の武道をマスターしたのだそうだ)。けれど、バトルシーンがあっても、延々と続くことはないから、どちらかというと、書斎でじーーーっと推理しているイメージが強い。
どちらが好きかは人それぞれでしょう。
私はやっぱりホームズ派みたい。
なぜなのか、分析してみました。
登場人物の心理を細々と描写する作風が嫌いなわけではない。
そういう描写を読むと、その人が身近に感じられ、時としては、「これは私だ!」と思ったりするわけで。
「ツバメ号とアマゾン号」のティティなどがまさにその一例。
「指輪物語」のゴクリとサムに感動したのも、この作品の中で、この2人の内面的な描写がひときわ細かいせい。
でも、ルパンはヒーローです。
ヒーローとわかりやすい男は両立しにくい。
なぜかというと、かっこいい男性はあがめたてまつっておきたいから。
内面はあんまり覗きこみたくないのです。
で、この本を読むきっかけになった、映画「ルパン」に戻ります。
あの映画が「ルパン・ビギンズ」、つまり「ルパンはなぜルパンになったか?」であることはすでにこちらで書いたとおり。若きルパンの心の成長が描かれているのですが、それは原作の精神と通じ合うものだったのです。
この作品が書かれた時代も感じました。
「ルパンの時代」、それは紛れもなく、「世界=ヨーロッパ」だった時代。
考えてみたら、映画のエンディングも、そういうことを感じさせるものでした。
堀口大學の訳は、最初の頃こそ「あんた口調」のところの違和感が大きいけれど、慣れてくると、そのうまさに舌を巻くところが数々あります。特に、身分が高い人との会話の格調の高さは、今の若い翻訳家には真似できないものだと思います。
今日の結論: 堀口大學版を出し続ける新潮社は偉い!
この本に関する情報はこちら
by foggykaoru | 2005-11-08 20:20 | 推理小説 | Trackback | Comments(4)
「星の王子さま」も版権が切れて新訳がたくさん出ましたね。いろんな訳を読み比べてみると面白いでしょうね。
チョコレート工場も新しい訳なのでしょうか。単に映画のヒットのおかげで、新しい表紙で刊行されたのではなくて?

「女(いろ)に紙屑(金)をやる」とか「こんな紙屑(辞表)ひっこめておけ」などなど省かれてしまった大人な事情もそこはかとなく漂うおフランス情緒もふっふっふ、これかい(!?)と楽しんでおります(笑)
さて、disk1=「813」が終わったのでこれからdisk2=「続813」のはじまりです。なにが追加されてるか楽しみ~!(←ただしくは追加じゃないけど/爆)
ふふ。おフランスな大人な世界を満喫していらっしゃるのですね。よかった。
「続813」最後まで読んだとき、ルパンをどうお思いになるのか、楽しみにしています。ああいう男に惚れる女性も、絶対にいると思うんですよ。