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アミン・マアルーフ著「アラブが見た十字軍」(ちくま学芸文庫)

今をさかのぼること半年余り前、「なぜ十字軍の映画なんか作るの?」といぶかしく思いつつ、「キングダム・オブ・ヘブン」を観たのでした。
それがきっかけになって、こんな本こんな本を読み、最後まで積ん読状態になっていたこの本に手をつけたのは、正月休みになってから。

読み始めたら、これがなかなかにハードでした。
私がふだん読む歴史本とは違い、かなり専門書に近い感じで、固有名詞のオンパレードに目が廻りそう。人名リストを作りながら読むべきなのでしょうけれど、面倒くさがりの私にはそんなことはできない。
その結果、頭は混沌、イメージは茫漠のまま、読了してしまいました。
先に読んだ2冊を通していくらか基礎知識を得ていたからいいものの、もしもそれがなかったら、混迷はさらに深くなったことでしょう。

そんな読み方でも、得たものはあります。

それは、アラブから見た十字軍というのは、単なる蛮族の侵略に過ぎなかったということ。西洋史の側から見ても、十字軍が「聖なる目的を持った崇高な試み」であったはずがないことは重々承知していました。でも、逆の立場から見たらいかに違うかということが、実感できました。

そしてまた、アラブ側の文献がこれだけ残っているということは、当時のアラブ側の文化が高かったという証拠。これもまた、重々知っているつもりだったのですが、この本を読んで、改めて実感しました。
たとえば近代に行われた、ヨーロッパ人によるアフリカ侵略と分割だって、アフリカ側から見たら、おそらく全く違う様相を呈していたはず。でも、そのことを詳細に記した文献は無い。侵略する側が、される側に比べ、武力その他もろもろの面において圧倒的に優勢だったからで、侵略というのは普通そういうものです。
その点において、十字軍というのは、珍しいタイプの侵略戦争だったのかも。

「キリスト教対イスラム教」という、宗教的側面にスポットが当てられがちですが、そんな単純なものではないということもよくわかります。
一口にキリスト教側と言っても、フランクとビザンツでは立場が全く違う。
アラブはアラブで各国各派ばらばら。

一番たまげたのは、暗殺教団の話です。
暗殺教団はイスラムのシーア派に属していた。が、シーア派のカリフが死んでしまった。すると、暗殺教団、「これからはスンニ派の奴らの世の中になってしまう」と世をはかなんで(?)、キリスト教に改宗したいと言い出した!!! 結局、その話はお流れになってしまったのですが、ほんとうに改宗していたら、どうなっていたんだろう?!

また、血を血で洗う蛮行が当たり前だった時代、サラディンというのは、いかに特異な人だったことか!
そんな人がイスラム側のトップに登り詰め、エルサレムを奪還したということに、神のお導きみたいなものすら感じてしまいました。神ってどの神?と突っ込まれそうですが、キリスト教とイスラム教の神は同じですから(^^;

この本に関する情報はこちら

by foggykaoru | 2006-02-06 20:56 | 西洋以外の歴史 | Trackback | Comments(16)

Commented by at 2006-02-07 21:47
よく読みましたね。冒頭から怨嗟が立ちこめる文だったので、私は読めませんでした。
Commented by crann at 2006-02-08 10:52
学生時代に読んだので、今回はナナメ読み。
今度は文庫で読み直したほうがよさそうです。
旧本から訂正があるそうなので。
Commented by foggykaoru at 2006-02-08 21:11
蓮さん。
えっ、そんなに冒頭の文章すごかったですか?
私はちょっとぐらい読みにくいところがあっても、どんどん斜めに読んでしまうので。
全体としては、むしろ淡々とした筆致だったように思います。
Commented by foggykaoru at 2006-02-08 21:14
crann@leiraniさん。
2度読む元気は無いかも。。。
文庫でも1500円もするんですよね。ちょっと驚いてしまいました。
Commented by at 2006-02-08 22:00
歴史に疎いのでちょっと免疫が無かったかも。ブレイブ・ハートも冒頭シーンでダウンしたので。
あと、持病の悪化を防ぐためにも、読む方が滅入る文章はちょとごめんなさいです。
文庫で1500円ですか。すごく分厚そう。図書館は2週間なのでがんばらねば読めないです。
Commented by foggykaoru at 2006-02-09 21:02
蓮さん。
そこそこ歴史好きな私でも、けっこうひいひい言って読んだので、体調が悪いときにはお薦めしません。
そういうときは児童文学がいちばん。
ローラ・インガルス・ワイルダーとか、リンドグレーンの「やかまし村」でなごんでみては?
Commented by at 2006-02-09 21:56
うっ。止めておきます。。。。。
児童文学を子供の頃読んでなかったのが今悔やまれます。
そういえば、ワイルダーもリンドグレーンも図書館で見る機会が減った気がします。
和み大歓迎ですので、リンドグレーン予約しました。
Commented by foggykaoru at 2006-02-10 21:34
蓮さん。
児童文学は1つのジャンル。
優れた児童文学は大人にとっても面白いんですから、今からでも遅くはないですよー
リンドグレーンは「さすらいの孤児ラスムス」も好きです。
Commented by at 2006-02-19 23:30
やかまし村の子供たち読みました。家のまわりに楽しいことはいっぱい転がってるので、それを見つけ出す目を持っていれば、楽しいことだらけ。
こうして和んでいる後で読んだ本が悪霊列伝、本棚から引っ張りだした本が魔の系譜。グリムの初版訳もある。せっかく和んだのに、あ~あ。
Commented by foggykaoru at 2006-02-20 20:55
蓮さん。
よかったでしょ、やかまし村。
お次はランサムなんぞいかがです?(笑)
Commented by at 2006-02-24 12:34
ランサム好きですよ、私。まだ途中までしか読んでませんが。
Commented by foggykaoru at 2006-02-24 21:41
蓮さん。
だ か ら 続きを読んだら?って勧めてるんです(笑)
Commented by at 2006-03-02 00:55
夜に本棚をいじるという大失敗をやらかしたところです。トールキン関係、グリムの初版の訳、英語の語源、ファンタジーの歴史、ロボットにつけるクスリ、魔の系譜、戦闘妖精雪風etc.etc.あ、悪霊列伝借りたのを読んだところで、次は悪人列伝が読みたいです。
京極夏彦が40cm借りてるし。
狭い部屋で暮らすには文庫がありがたいのですが。ランサム、新書サイズで出したら即買うのだけどなー。ワトソンの遺伝子の分子生物学がA4ででかくて大事だけど邪魔。
ランサム気に入ってるけど、ARCに参加したいと思ったらせめて全巻読まなくてはね。図書館に安定して行けるようになったからまた読みたいな。ランサムの最大の欠点は重いのですよね。
Commented by foggykaoru at 2006-03-02 21:08
蓮さん。
そうなんですよ、重いんですよ。
「ツバメ号とアマゾン号」だけは少年文庫があったのに、今や絶版状態。
「復刊ドットコム」でリクエストして、100件以上になったのに、動きは全くありません(号泣)
Commented by at 2006-03-03 00:42
少女小説とかライトノベルとかで文庫が多いのに。新書なら本棚に何とか入れるのは可能だけど、ハードカバーは。。。。。隙間という隙間に全て本が詰まってるのにランサムみたいなハードカバーは厳しい。生活環境が悪くてもしっかりした図書館があるので、引っ越しは慎重になります。一般書なら大体あるので、最近は本を買わない率が上がったけど、じわじわと生活に使えるスペースが減っています。
ハードカバーは子供には重いだろうに、何であんなに分厚いのでしょうね。切に児童書の文庫化を望みます。
Commented by foggykaoru at 2006-03-04 21:22
蓮さん。
そうですよねえ。「全人類ランサマイト化」の大きな障害は、文庫が無いこと。
そのあたり、岩波にも考えて欲しいわ。。。
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