名詞の性について
2006年 03月 31日
フランス語で「雄牛 taureau」は男性名詞。「雌牛 vache」は女性名詞。
これは別にかまわない。
動物には(ごく一部の原始的な生物を除いて)オスとメスがあるのだから。
でも、「ワイン」が男性名詞で、「ビール」が女性名詞、と言われると、どうしてなのよ~!!と叫びたくなる。
しかも、これが言語によって変わるのです。
まず、ラテン系の言語とゲルマン系の言語に違いがある。
フランス語で「太陽」は女性だけど、ドイツ語では男性。
ドイツ語には中性名詞まであって、その一例が「本」。これはラテン系のフランス語やイタリア語では男性名詞です。
でも、こういうのはまだ諦められます。系統が違う言語だから。
頭にくるのが、同じラテン系の言語で性が違う単語があること。
「人々」はフランス語では「les gens」で男性複数なのに、イタリア語では「la gente」で女性。(しかも単数!)
ローマ帝国の歴史を考えれば、起源はイタリア語のはず。
当時「ど田舎」だったフランスに伝わる最中に、誰かさんが取り違えたのでしょう。
「屋根の上のバイリンガル」に名詞の性に関するエッセイがあり、ハイネの詩が紹介されています。
(私は知らなかったのですが)非常に有名な詩で、凍てつく北国の「松」氏が、南国の「椰子」嬢に想いを寄せているというもの。
これが恋愛詩として自然に受け入れられるのは、ドイツ語において、「松」が男性名詞で、「椰子」が女性名詞だからなのだそうな。
一方、フランス語だと、これらの名詞は両方とも男性名詞。
だから、今で言えば、「ブロークバック・マウンテン」の世界になってしまう。
そして、ロシア語だと、これが両方とも女性名詞なのだそうです。
だから、、、えっと、、戦前の女子校の「エス」の世界?!
日本語の名詞には性は無い。
井上正蔵という人の訳が紹介されていたので、引用します。
============
きたぐにの禿山に
ひとり立つ松の木は
むなしくも眠り入る
氷雪におほはれて
夢に見る東方(ひむがし)の
はるかなる椰子の木も
かなしげにひとり立つ
灼熱の絶壁に
============
きれいな訳文ですねえ。
でも、いきなりこれを見せられて、「松=男性」「椰子=女性」と読みとれる人は、そんなにいないのではないでしょうか。
日本語の話者である私たちにとって、名詞に性が無ければならないということ自体、どうも納得できません。「名詞に性のある言語の話者というのは、世界のありとあらゆるものを男女関係でとらえているのだろうか?」という疑問を抱いてしまうのですが、これは結論の出ない妄想です。
「美女と野獣」は、フランスの有名なお話。
原題は「La Belle et la Bete」
ディズニーのアニメでも美女は「ベル」でしたが、あれは「鈴」じゃなくて、フランス語の「美しい」という形容詞の女性形を名詞化したもの。
一方、野獣は「bete」で、「けもの」という名詞。英語のbeastよりもはるかに使用頻度の高い単語でして、そしてこれが女性名詞なのです。
ジャン・コクトーの名画「美女と野獣」で、「野獣」が「elle 彼女」と呼ばれるのを聞いて、ひどく違和感を覚えたものです。
でも、フランス人は別にそれでいいと思っている。
まあそんなものかもしれないけれど。
でもやっぱり変。
by foggykaoru | 2006-03-31 18:54 | バベルの塔 | Trackback | Comments(6)

Molto grazie!
ありゃ! これでもイタリア語4年ぐらい勉強したんですよ。うろ覚えで書くものじゃないですね。
こそっと書き直しました。

マダムじゃあ、ゆったりとお走りあそばしても仕方ないかなぁと思ってしまうのです。

スウェーデン語は「共性(冠詞en)」と「中性(冠詞ett)」の2つです。まあだいたい「共性」のほうが多いみたいだし、「中性」≒「抽象」となんとなく憶えていますが、男女とも違って概念がわかりにくい。でもドイツ語ほど複雑ではないみたいです。
フランス語の「美女と野獣」は、変ですね・・・
アイルランドの戯詩(?)で、「なぜ船はsheなのか」というのがありました。いわく、
「優美で丸みがあって美しく、大勢のboysを必要とし(中略)、どこの港でもたちまちbuoysに身を寄せるから」ですって。
有名な詩なんですねえ。でも、小学生には「実はこの松は男性名詞で・・・」なんて説明できませんね。
しかし、「共性」って・・・?!
>船はshe
だから、船に女性が乗るのはまずいんですよね。
でも、フランス語だと男性名詞だわ・・・!