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名詞の性について

名詞の性は、英語を除くヨーロッパの言語を学ぶ際に、立ちはだかる壁の一つ。

フランス語で「雄牛 taureau」は男性名詞。「雌牛 vache」は女性名詞。
これは別にかまわない。
動物には(ごく一部の原始的な生物を除いて)オスとメスがあるのだから。
でも、「ワイン」が男性名詞で、「ビール」が女性名詞、と言われると、どうしてなのよ~!!と叫びたくなる。

しかも、これが言語によって変わるのです。

まず、ラテン系の言語とゲルマン系の言語に違いがある。
フランス語で「太陽」は女性だけど、ドイツ語では男性。
ドイツ語には中性名詞まであって、その一例が「本」。これはラテン系のフランス語やイタリア語では男性名詞です。

でも、こういうのはまだ諦められます。系統が違う言語だから。

頭にくるのが、同じラテン系の言語で性が違う単語があること。
「人々」はフランス語では「les gens」で男性複数なのに、イタリア語では「la gente」で女性。(しかも単数!) 
ローマ帝国の歴史を考えれば、起源はイタリア語のはず。
当時「ど田舎」だったフランスに伝わる最中に、誰かさんが取り違えたのでしょう。


「屋根の上のバイリンガル」に名詞の性に関するエッセイがあり、ハイネの詩が紹介されています。
(私は知らなかったのですが)非常に有名な詩で、凍てつく北国の「松」氏が、南国の「椰子」嬢に想いを寄せているというもの。
これが恋愛詩として自然に受け入れられるのは、ドイツ語において、「松」が男性名詞で、「椰子」が女性名詞だからなのだそうな。

一方、フランス語だと、これらの名詞は両方とも男性名詞。
だから、今で言えば、「ブロークバック・マウンテン」の世界になってしまう。

そして、ロシア語だと、これが両方とも女性名詞なのだそうです。
だから、、、えっと、、戦前の女子校の「エス」の世界?!

日本語の名詞には性は無い。
井上正蔵という人の訳が紹介されていたので、引用します。

============
きたぐにの禿山に
ひとり立つ松の木は
むなしくも眠り入る
氷雪におほはれて

夢に見る東方(ひむがし)の
はるかなる椰子の木も
かなしげにひとり立つ
灼熱の絶壁に
============

きれいな訳文ですねえ。
でも、いきなりこれを見せられて、「松=男性」「椰子=女性」と読みとれる人は、そんなにいないのではないでしょうか。

日本語の話者である私たちにとって、名詞に性が無ければならないということ自体、どうも納得できません。「名詞に性のある言語の話者というのは、世界のありとあらゆるものを男女関係でとらえているのだろうか?」という疑問を抱いてしまうのですが、これは結論の出ない妄想です。


「美女と野獣」は、フランスの有名なお話。
原題は「La Belle et la Bete」
ディズニーのアニメでも美女は「ベル」でしたが、あれは「鈴」じゃなくて、フランス語の「美しい」という形容詞の女性形を名詞化したもの。
一方、野獣は「bete」で、「けもの」という名詞。英語のbeastよりもはるかに使用頻度の高い単語でして、そしてこれが女性名詞なのです。

ジャン・コクトーの名画「美女と野獣」で、「野獣」が「elle 彼女」と呼ばれるのを聞いて、ひどく違和感を覚えたものです。
でも、フランス人は別にそれでいいと思っている。
まあそんなものかもしれないけれど。



でもやっぱり変。

by foggykaoru | 2006-03-31 18:54 | バベルの塔

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