小池滋著「ロンドン---世界の都市の物語」(文春文庫)
2006年 07月 24日
その道の権威が、肩の力を抜いて、素人向きに、自分も楽しみつつ、縦横無尽に語ってくれるという感じの本が好き。
この本は、その好例。
著者は言う。
「普通の旅行は場所中心。それを人物中心にしてみよう」と。
たとえば、ロンドンに観光旅行に行ったら、有名スポットを廻ることになる。ロンドン塔、大英博物館、バッキンガム宮殿、エトセトラ。
それらのスポットができた時代、歴史上注目された時代、それらに関連するエピソードを脈絡無く追うのが「場所中心の旅行」。
それに対して、ある人物中心に、その人が実際に住んだ場所、歩いた場所を追うのが「人物中心の旅」。
なあんだ、それはつまり「ランサム・サガ聖地巡礼」と同じようなことじゃないか。そういう旅が面白いのは言われなくても知っている。
で、最初に登場するのがフォルスタッフ。
あーこの間シェイクスピアの解説本を読んだばかりなんだけど、彼が出てくるお芝居、やっぱり一度は見ておかなくちゃいけませんかねえ。
面白かったのはディケンズ関連の章。
この著者はディケンズの訳書をたくさん手がけているのだそうだが、さすがという感じ。読んでみたくなった。
その次のマルクス関連の章も面白い。
ソーホーのぼろっちくて狭いアパート住まいだった彼の彼の生活を激変させたのはお金持ちの親戚が残してくれた遺産だった。実際には労働なんかしたことがない彼がこねくりまわした思想に、その後の世界が100年近く振り回され続けたんだなあ。
また、著者は鉄道マニアでもあるということで。
ロンドンには(他のヨーロッパの大都市の多くと同様)「中央駅」とか「ロンドン駅」は無いのだが、これは鉄道網が民間によって敷かれたためなのだそうだ。郊外から都心に向かう路線はどれも、中央には達することができなくて、その周辺にターミナルが作られ、後になってできた地下鉄がそれらを結ぶようになった。でも、いまだに地下鉄に接続していないターミナルがあるのだとか。それはフェンチャーチ・ストリート駅。
慌ててロンドンのガイドブックの地図を広げてみた。ロンドン塔の目と鼻の先にそんな駅があるなんて知らなかった!
地図といえば、この本は地図がいまいち、いまに、いまさん。
もうちょっとなんとかならんかね。
この本に関する情報はこちら
by foggykaoru | 2006-07-24 20:50 | 西洋史関連 | Trackback | Comments(0)