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石井美樹子著「中世の食卓から」

「王妃エレアノール」の著者の手になる中世史関連エッセイ集なので、間違いないだろうと思って読んでみました。予想通りでした。

まず、「序にかえて」から「イギリスの料理がまずいのは、フランスと違って、中世以来、料理法に大きな変化がなかったせいだ」なんて、刺激的なことが書いてあります。これはスゴイかも、と思って本文に入ると、やっぱり一番面白かったのは、著者お得意分野のエレアノール関連。

エレアノールの最初の夫、フランス王ルイ7世は次男で、将来は僧侶となるべく育てられていたから、とにかく地味で真面目。それが彼女の気に入らなくて離婚に至るのだが、ルイの兄のフィリップは勇猛果敢な騎士の中の騎士だった。
でも、パリで乗馬しているとき、豚の突進にあって落馬し、早世した。(当時のパリの町中では、普段は清掃車がわりになり、最後には食料になる豚を飼うことが一般的だった。フィリップの死後、さすがに町中で飼うことは禁止されたのだそうだ。)
もしもこのフィリップが長生きして、エレアノールと結婚していたら、性格の不一致で離婚なんてことはなかっただろうし、その後300年続く英仏のごちゃごちゃはなかっただろう、、、とか。(でもごちゃごちゃしたからこそ、歴史が面白くなったんだけど。)
そして、エレアノールの二番目の夫、イギリスのヘンリー2世。勇ましくてかっこいいところがエレアノールの好みに合ったのだけれど、「食」に対してはイギリスでも有数のつましさ、ただ量さえあればOKの人間。彼の食卓は腐りかけた肉の山だった。
南仏の食文化先進地域出身のエレアノールが彼とも破局したのは、案外そのあたりに原因があるかも、、、とか。

「ジョン欠地王がりんご酒の飲み過ぎと桃の食べ過ぎで死んだ」というのも、この本に書いてありました。

残りのエッセイで印象的だったのは・・・

十字軍が見つけてきた砂糖は、当初、薬として用いられ、その後もとにかく贅沢品だったから、王侯貴族しか口にできなかった。よって、虫歯はステイタス・シンボルだった、、、とか、歯や歯茎がぼろぼろになると、自分で噛めないから、他人様の口で噛んでもらうこともあった(おえっ)、、、とか。

昔のイギリスで、好んで飲まれたのは麦芽と水だけで作られるエールで、他の混ぜものを入れるビールは「毒」だとさえ言われていたが、シェークスピアが死ぬ頃から、ビールが主流になった、、、とか。

あと、中世から伝わるイギリスのクリスマス・キャロル。
「マリアが夫ヨセフに『あのさくらんぼの実をとってください』と頼むと、ヨセフは『おまえをはらませた男にとってもらえ』と答えた」という歌詞なのだそうだ。
中世というのは、キリスト教の信仰ががっちりゆるぎない時代で、教会の言うことをみんな信じていたと思っていたけれど、あにはからんや、民衆は「ヨセフはむかついていたはず」と思ってたんですね。


この本に関する情報はこちら

by foggykaoru | 2006-09-02 18:39 | 西洋史関連 | Trackback(2) | Comments(6)

Tracked from じゃんぐる書庫 at 2006-10-09 00:41
タイトル : にしんは魚の王様、されど卵が威張る
中世ヨーロッパの食文化についてのエッセイです。 Foggykaoruさんのところで紹介されています。石井美樹子著「中世の食卓から」こちらもご参考に。私の方は個人的に印象に残った、つまり私的オタクな観点から述べたいと思います。 キリスト教の影響下にある中世ヨーロッパは、食に関してもきっちり決まり事があります。一番はっきりしてるのが四旬節(レント)ではないでしょうか。 謝肉祭(カーニバル)で肉を思いっきり食べて、翌日の灰の水曜日(アッシュウェンズデイ)から40日間は魚貝だけのタンパク質を食べるのです...... more
Tracked from 葦の草原 at 2006-10-30 20:47
タイトル : にしんは魚の王様、されど卵が威張る
石井美樹子著「中世の食卓から」中世ヨーロッパの食文化についてのエッセイです。 Foggykaoruさんのところで紹介されています、石井美樹子著「中世の食卓から」。こちらもご参考に。私の方は個人的に印象に残った、つまり私的オタクな観点から述べたいと思います。 キリスト教の影響下にある中世ヨーロッパは、食に関してもきっちり決まり事があります。一番はっきりしてるのが四旬節(レント)ではないでしょうか。 謝肉祭(カーニバル)で肉を思いっきり食べて、翌日の灰の水曜日(アッシュウェンズデイ)から40日間は魚...... more
Commented by KIKI at 2006-09-04 14:16
砂糖が薬とは・・・一番初めに食べたらなんだこれって思うで
しょうね。十字軍以前では甘みってなかったんでしょうか?
ハチミツは存在したのかなぁ。・・・そう考えると調べるの面白そう♪
食って絶対外せないものですし、面白い観点の本ですね。
他人の口で噛んでもらうは確かにオエエですね(笑
Commented by at 2006-09-04 20:03
無くしてしまって残念だった本と同じ気がします。
養蜂はエジプト、ローマでやっていたはずなので、ハチミツは知っていたと思います。大変な貴重品であり、防腐剤でした。
口噛み酒という古い日本酒は唾液のアミラーゼで糖化して発酵するので、私自身はイヤですけど、効能を受け入れてたのかなあと思いました。
クリスマス・キャロルってそんなにあけすけな歌とは思いませんでした。ラプンツェルとちしゃの話をどこかで読んだ記憶があるのですが、本も話の内容も覚えていないので、のどの小骨です。
食に関する資料は面白いですよ。うちにも「食悦奇譚」だの「やんごとなき姫君たちの食卓」だの、すぐ5~6冊は出てきます。
Commented by foggykaoru at 2006-09-04 21:13
KIKIさん。
蓮さんがおっしゃるように、ハチミツはあったんです。
食に関する本としては
http://foggykaoru.exblog.jp/1316803/
これ↑も面白かったですよ。
Commented by foggykaoru at 2006-09-04 21:17
蓮さん。
アミラーゼねえ。そういう効能があるのか。でも、風邪のウィルスも一緒にうつっちゃいますよねえ。私は自家製のウィルスで手一杯なので、他人からはこれ以上もたいたくありません。
クリスマス・キャロルというのは、クリスマスに歌われる歌を指す普通名詞だから、いろいろあるのだと思います。
あけすけ度が高い歌の中に、こういう歌もあるということで。
Commented by Nelumbo-nucifera at 2006-10-09 00:44
図書館で借りて、久しぶりに読みました。何年ぶりかな?
懐かしかったです。のどの小骨のような引っかかりが解消されてすっきりしました。

遅ればせながら、リンクとTBさせていただきました。今後も引用させていただくかと思いますので、よろしくお願いします。
Commented by foggykaoru at 2006-10-09 21:39
蓮さん。
リンク&トラバありがとうございます♪
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