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池内紀著「ゲーテさん こんばんは」

「その道のプロが書いた専門書」は門外漢には難しすぎる。
素人が楽しくお勉強するには、専門家が肩の力を抜いて書いた本を選んで読まなくちゃ。
と思っている私にぴったりの本でした。

高校レベルの世界史は、年代ごとに「いちばんのイベント」をやっていたところの歴史だけをピンポイントで扱うので、その裏で他の国や地域がどうなっていたのかが、さっぱりわかりません。また、文化史と政治史が結びつきにくい。
この本を読んだ収穫は、文学者ゲーテの生きた時代というのが、18世紀後半から19世紀前半、つまりフランス革命前夜からナポレオン帝政が終わるあたりであることが、しっかり頭に入ったこと。そして、その当時のドイツがどんなだったのかについて、ある程度のイメージがつかめたこと。

ゲーテは裕福な家庭に生まれ、教育パパの後押しで、当時の最高水準の学識を得た。
18世紀は啓蒙主義の時代であり、つまり「子どもの教育」に熱心な親が初めて出現した時代なのだそうです。
なるほど。レオポルト・モーツアルトも、その時代を体現した人だったのね。

ただ、レオポルトの息子ヴォルフガングは、金遣いが荒くて、マトモな生活能力に欠けていたふしがあるけれど、ゲーテは違う。彼はワイマール公国の高級官僚として、きちっと勤め上げた。小国ワイマールのために、ずいぶん尽くしたらしい。

この違いはどこからくるのかな。モーツアルトの場合、音楽教育だけは最高のものをしこまれたけど、他の面はおろそかにされたのかも。また、なんといっても、当時の音楽家は「河原乞食」と大差なかったということもあるかも。

本題のゲーテに戻ると、この人、ただ筆が立っただけではなかったのです。
なにしろ、あらゆるものに興味を持つ。旅をすれば、道端の石ころを拾いまくる。雲を観察する。骨も。人間には無いと思われていたナントカという骨を発見したのは、彼なのだそうで。なんと博物学者だったんですね。「万能の天才」という言葉を思い出します。
ただし、彼の研究は、妙に文学的アプローチだったので、後世の科学に影響を与えているようなものはない。業績呼べるものは、ナントカという骨を発見したことだけで。
彼がもっとも力を入れたのは色彩学。これまた、誰にも相手にされなかったし、今も相手にされてない。彼の色彩学の内容がちらっと書かれているけれど、私のような素人でも「大きな勘違い」に立脚したものだということがわかります。

ゲーテが養生のために通った温泉マリーエンバート(現チェコのマリーアンスケーラーズニエ)。
そこで「マリーエンバート哀歌」という詩が書かれたのだそうな。
マリーエンバートは「マリアの湯」
池内氏曰く「観音湯みたいなもの」と。
「哀歌」は「エレジー」
だから、「マリーエンバート哀歌」というのは、「湯の町エレジー」なんだと。

日本でゲーテというと、いかにも格調高そうだけど、実はその程度なんですよ~ もっと気楽に楽しみましょうよ~ ということ。
なるほどなあ、そうなんだろうなあと思います。
こういうことが言えるのは、ドイツ語の大家だからこそ。

けっこう楽しかったのですが、ときどきだれて、読み終わるのに何日もかかってしまいました。たったの267ページの文庫なのに。
これはたぶん、私自身の問題。もともとドイツに対する関心は(イギリスやフランスに比べると)高くないから。
ドイツ好きの人に特にお薦め。一気に読めると思います。

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by foggykaoru | 2007-02-03 11:57 | 伝記・評伝

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