ヒルダ・ルイス著「とぶ船」
2007年 02月 14日
子どもの頃からタイトルだけは知っていて、気になりつつも、読みそびれた本。
今年めでたく100歳を迎えられた石井桃子さんの訳。
「きみは、おとなだしするから、だいじょうぶ」
なんて台詞が出てきます。
この「~だしするから」は、子どもの頃読んだ本でときどき目にして、子供心に「へえ、こういう言い方もあるんだ」と思ったものです。
きっと船に乗って飛んでいって、いろいろ不思議な国に行く話なのだろうと思っていたら、予想を裏切られました。行き先が、思い切りまっとうな場所と時代なのです。
なにしろ、アースガルドなんです。
オーディンが、そして、ロキが出てきます。
ロキはちゃんとよけいな口をきいて、もめごとを起こします。
さらに、ウィリアム征服王時代のイギリスにも行きます。
あのマチルダじゃないけれど、マチルダという少女が出てきます。
バイユー(石井さんは「ベイユー」と書いてますが)のタピスリーに関する言及もある!!
(「バイユーのタピスリー」の複製刺繍はこちら)
著者ヒルダ・ルイスはもともと歴史小説を書いていた人だそうで、この作品は自分の得意分野をを生かして書いたのでしょう。なんというか、「教育図書」の趣があります。下手をすると教科書臭がしてくる、ぎりぎりのところでとどまって、楽しいファンタジー作品に仕上がっているというところでしょうか。
また、この作品では、かなり早い時点から「子どもはいずれおとなになり、魔法を忘れてしまう」ということが明言されていて、終わり方が予想できてしまい、実際、そのとおりになります。でも、読後感はけっこうほっこりしたものです。似たタイプの児童書として、「ピーター・パン」がありますが、あれの結末よりも、この作品のほうがずっといい。
また、同じルイスでも、C.S.ルイスはきついなあとつくづく感じます。なにしろ、「ナルニアを忘れたスーザン」は見捨てられてしまうんですから。
もっとも、C.S.ルイスにとって、「ナルニアを忘れること」イコール「信仰を捨てること」だから、許せないのかも。たかが魔法を忘れることと比べること自体、けしからんと怒られちゃうかも。
この作品は1939年に発表されたのだそうです。
ランサムと同時代。そういう感じはあります。
また、20世紀初頭のヨーロッパでは、エジプトがブームだったのだと再確認しました。
脇明子さんのあとがきは、子どもの頃にこの本を愛読した人ならではの、愛情溢れる文章で、これのおかげで、読後感がさらに良くなったような気さえします。
蛇足ですが・・・
エジプトのバザールで言葉が通じなくて困った子どもたちが「ノー・サヴィー(わからんよ)」と言ってみたりします。(「サヴィー」に関する中途半端な考察はこちら)
また、「フランス語がわりとよく通じる」という話を思い出して、「パルドン」と言ってみたりもします。
以前、「フランス語が話される国」に色が付いている地図(もちろんフランス製)を見たとき、エジプトに色がついていて、これはいかがなものかと思ったのですが、あながち間違いだったということではなかったのですね。でも、エジプトは英国の植民地だったのに、どうしてそういうことになるのでしょう?
by foggykaoru | 2007-02-14 21:16 | 児童書関連 | Trackback | Comments(6)

「考古学者になろう!」と思ったの! まぁあっさりと挫折してしまいましたが(笑)
丁度読む本が切れたので、明日からこの本を読み直そうと思います。
じゃあね

教科書臭とか、教育臭という感じは確かにしますが、何か作者のやさしい気持ちが伝わってくる話だと再認識しました。
この作品、教育臭はあっても、それが主眼ではなくて、あくまでも魔法を信じる心を大切にしている話だというところがいいですよね。
