赤木かん子著「こちら本の探偵です」
2007年 03月 13日
古本屋で見つけて立ち読みして、それだけで十分かなとも思ったのですが、著者プロフィールの中の「14歳の時にアーサー・ランサムと出会い自分の使命に目覚める」という一文に義理立てして(?)、マイ蔵書にすることにしました。
1983年に児童文学同人誌「別冊・烏賊」を出した赤木さんが、いかにして「本の探偵」として祭り上げられ、今の仕事に就くことになったかといういきさつがわかります。
が、この本の大部分は、赤木さんに送られた手紙の引用です。「子どもの頃に読んだ、こういう内容の本の題名を教えてください」という依頼の手紙。そして、その本探しの結果。
一番驚かされたのは、それらの手紙の熱さです。
インターネットが普及していなかった頃、見知らぬ人に手紙を書いて何かを依頼するというのは、よくよくのことです。よほど何かに突き動かされていなければ、できることではありません。だからこそ、そこに熱さが生まれるのです。
ネットの力は偉大です。ちょっと検索すればたいていのものは見つけられる。趣味を同じくする人たちとも、簡単に交流できる。
でもその反面、失われたものもあると思うのです。
赤木さんが手弁当でやっていた「児童書の題名探し」と同じことは、現在、ネット上で行われています。問い合わせがあれば、そのコミュニティーのメンバーの誰かから、すかさず回答が寄せられるその様子を、「すごいな~」と感嘆し、ただロムしている私なのですが、そんなことができるようになったことそれ自体は、ほんとうに素晴らしいことだと思います。でもそこには、赤木さんと彼女に問い合わせの手紙を送った人たちとの間の、濃密で温かい関係が生まれることはないような気がします。
簡単に手に入れば入るほど、ものの価格は下がります。これ、経済の常識。
心理的な意味において、情報も例外でありません。
簡単に得られた情報は、やっとの思いで手に入れた情報に比べると、簡単に忘れ去られてしまうのかも。その情報を与えてくれた人に対する思いも。
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by foggykaoru | 2007-03-13 20:44 | 児童書関連 | Trackback | Comments(0)