続・被疑者を取り調べるときの言葉遣いについて
2007年 04月 17日
多くのヨーロッパの言語には、2人称単数が2種類あります。
フランス語には tu と vous
ドイツ語には du と Sie
イタリア語には tu と Lei (さらに voi というのもあるのですが、普通にイタリア語をかじる程度で習うのは tu と Lei)がある。
で、この使い分けですが、日本人向けにわかりやすく説明しようとすると
「親しい友人や家族に対するときの『あなた』」と「それ以外の人と話すときの『あなた』」
つまり、「タメ口」と「敬語」みたいな感じの説明になってしまいます。
でもそれは正確ではない。
ほんとうの基準は「自分と相手との間に距離を置くか置かないか」なのです。
だから、旧東独のシュタージは Sie を使った。被疑者との間に距離を置くために。
このあたりの感覚、フランス語とドイツ語はかなり共通しているような気がします。
不思議なのはイタリア語。
現代イタリア語では、tu が非常に優勢で、Lei が使われる場面がかなり限られているらしい
というのが、昨日のポストの主旨だったのでした。
で、日本語との比較なのですが、日本語においては言葉を使い分けるときの基本的な基準は「相手と距離を置くか置かないか」ではない。(そういうことを意識する場面も、もちろんありますが。) 基本的な基準は「丁寧か、そうでないか」。
だから「眠るな! 答えろ!」という字幕になった。
ぞんざいな口調だけれど、しょうがない。
ところで、シュタージの台詞「Antworten Sie!」を「答えろ」でなくて、「答えなさい」と訳すのは、まあ容認されるのではないかと思います。「~しなさい」というのは、言い方や言う人によってはけっこう怖い。
でも、「眠るな」は言い換えようがない。
日本語の場合、純粋な否定命令というのは、「丁寧でない文体」にしか存在しないのではないでしょうか。
英語だったら
Sleep! の否定として Don't sleep!
フランス語だったら
Dormez! の否定として Ne dormez pas!
ドイツ語だったら
Schlafen Sie! の否定として Schlafen Sie nicht!
というふうに、肯定命令にきれいに対応した否定命令が存在する。
日本語の場合、
「眠れ」 の否定は 「眠るな」
ですが
「眠りなさい」 の否定は・・・?
「眠らないでください」
とするしかない。
でもこれってほんとうに「眠りなさい」に対応した否定形なのでしょうか?
「~しなさい」は否定形を持たないのでは?
否定形が無いから、苦肉の策として「~しないでください」という表現を使っているということなのではないでしょうか。
以上、私の個人的な感覚に基づいた、裏付けのない話でした。
最後までおつきあいくださった皆様、どうもありがとうございました。
この項の補足はこちら
by foggykaoru | 2007-04-17 20:44 | バベルの塔 | Trackback | Comments(4)
すごいすごい、ウィキペディアの二人称ってすごいでてくる~。
Please do not sleep.
眠らないで下さい。
I sleep
眠る
I do not sleep
眠らない、
Please sleep
眠ってください
Please do not sleep
眠らないでください。
日本語だとアナタとキミ?
文法は難しいです。(よくわかんない~)
そりゃあロシア語も二人称単数は2つくらいあるでしょう。
1つしか無い英語が例外的なんだもん。
>アナタとキミ
いちがいには言えないです。
日本語と1対1の対応をさせようとするのは、近道のように見えて、実はいちばんまずい方法だから。
そういわれてみると、英語って1つしかないね。
Youの前になんか形容詞っていうの?がついたりして差別化を図ってるとか?
たまに英語ってえらく細かいし、例えば「見る」とても細かくないときがある「HOT」。
日本語は二人称だけじゃなくて、一人称も山ほどあるのが特徴なんだもん。
だから、翻訳するときに、どれを選ぶかで、全然印象が違ってきちゃうのよ。
英語の場合は、you一つしかないから、それ以外の微妙な言葉遣いで差を付けてるんでしょうね。