木村尚三郎著「パリ---世界の都市の物語」
2007年 04月 24日
アマゾンの書評には「ガイドブックとしては不向き」とありますが、そもそもこれをガイドブックとして読むほうが間違いというもの。パリの歴史を勉強したい人のための本です。
以前読んだ、同じシリーズの「ロンドン」に比べると、こちらのほうがはるかに「歴史から見た都市の全体像」を描いているといえる。あちらは「ロンドンにまつわる文学こぼれ話」だから、それはそれで面白いところもあるんだけど。
あと、「ロンドン」の感想にも書いたのだけれど、このシリーズはまともな地図が無いのが大きな欠点です。私はパリの地理が頭に入ってるから大丈夫だったのだけれど、普通の人は読んでいて「これはどこのこと?」とストレスの塊になる可能性大。
私にとっての発見は以下の点。
(*が付いている箇所は私の無責任なコメントです。)
1)フィリップ二世、通称オーギュストについて。
神聖ローマ皇帝と張り合って「こっちこそ(ローマ皇帝の)アウグストゥス並みなんだぞ」という意味がこめられた名称なので、「尊厳王」というより「皇帝王」と訳すべきなのだそうだ。
そして彼こそが、シテ島を中心に、セーヌ南岸(左岸)を文化の中心、北岸(右岸)を政治の中心というふうに決めたのだそうだ。
*とはいえ、世界史年表によると、彼以前にパリ大学の中心地はすでに左岸にあったようだから、既成の事実を追認したということなのかも。(この点に関する以前のポストはこちら)
2)ジャンヌ・ダルクについて。
百年戦争当時、パリを始めとする北フランスは、イギリスと同盟関係にあったのだそうだ。
*ああ、やっぱり!
映画「ロック・ユー」を観たとき、百年戦争やってる真っ最中に馬上槍試合のパリ大会やらロンドン大会が開催されているのが不思議で、もしかしたらパリはイギリス側だったのではないかと想像したのだけれど、大当たりだったわけです。(これに関するポストはこちら)
だから「イギリスに占領されているパリを解放しに来た」ジャンヌはパリにとっては敵だったそうで、パリは終始、彼女を嫌悪した。パリ大学神学部も彼女を魔女にするために一生懸命頑張った。
長いこと忘れ去られていた彼女を、歴史の表舞台に引っ張り出したのはナポレオン。彼は自らが皇帝の座につくとき、ジャンヌを探しだし、もてはやし、ナショナリズムを鼓舞するのに利用した。
パリが頭を南に置いていただけでなく、そもそもフランスという国の頭は南、つまり地中海を向いていた。北部のロレーヌ出身のジャンヌは、その意味からも魅力に欠ける。その点、ナポレオンは地中海世界のコルシカ出身だからOKだったのだそうだ。
*そうなのよねえ。
ヨーロッパの先進地域は地中海。
地中海に接している国々や地域は、常にそちらに目を向けてきた。
はっきり言って、英仏海峡以北なんて問題にならなかったのです。
イギリスが日の沈まぬ帝国になったのは、百年戦争でフランスに負けて、地中海に進出する足がかりを失ってしまったお陰。
ジャンヌといえば、百年戦争のヒロインだった彼女が、なにゆえに聖女なのか? 異教徒と戦ったというのなら、まあわかる。でも、百年戦争当時のイギリスは、まだカトリックだった。
という長年の疑問はいまだ解けず。
by foggykaoru | 2007-04-24 20:09 | 西洋史関連 | Trackback | Comments(2)

イギリスが小池滋さんで、フランスが木村尚三郎さんだと、切り口は自然と Foggy さんが書かれているようになるでしょう。わたしは専攻のレポートでディケンズについて書いたので、「イギリス」読んでみようかな。
このシリーズ、2冊読んだ限りでは5段階で4くらいかな。5までは行かないです。
>イギリスが小池滋さんで、フランスが木村尚三郎さんだと、切り口は自然と Foggy さんが書かれているようになるでしょう。
ねえ、そう思うでしょ?
どっちにしても「ガイドブック」ではないです。
著者名を見て判断しろよ!とアマゾンのコメンテーターに言いたくなります。