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Morse, Morsian, Martian

ラテン語シリーズの最終章です。
「ラテン語のはなし」で見つけたもう1つのツボ。

ラテン語は名詞が語尾変化する。固有名詞さえも。
英語で「ブルータス」と発音される人物の名前も、以下のように格変化する。

ブルータスが Brutus
ブルータスの Bruti
ブルータスに Bruto
ブルータスを Brutum
ブルータスから Bruto
ブルータスよ Brute

だから名詞を覚えるときは、主格だけを覚えても使えない。
たとえば英語だったら、「death, 死」と覚えればいい。
フランス語だったら「mort, 女性、死」と覚える(この名詞は女性名詞なので)のだが、ラテン語の場合は「主格、属格、性、意味」の順番に列挙して覚えなければならない。
だから
「mors, mortis, 女性、死」と覚える。

英国の推理作家コリン・デクスター作のモース警部シリーズ(好きです♪)に、これが使われているのだそうです。
監察医がモースを「モース、モーティス、女性」と呼ぶ場面があるのだそうで。(「女性」がwomanではなく、名詞の性を表すfeminineであるのがミソ)
ところが、翻訳者はこれがラテン語学習の流儀にひっかけた駄洒落であることがわかっていないらしい・・・

翻訳という仕事はたいへんです。ということに加えて、ここで思い出したことが。

英国の児童文学作家アーサー・ランサムの作品「長い冬休み」の中に、これに似た場面があるのです。
見知らぬ子どもたちを火星人に見立て、通信してみたDきょうだいに、火星人からの応答があります。どうやらそれはモールス信号らしい。

ここのディックの台詞は、原文ではこうなっています。
Morse, Morsian, Martian. Naturally we don't know their language.


モース、モーシアン、マーシアン。
モース、モーティス、女性。

なんとなく似ていて面白いわねと、ネタ大明神に話したところ、彼女からさらなる考察が。
「ああいうふうに、音が似た単語を列挙するのは、ラテン語学習で身につけた癖なんじゃない?」

ふーむ。
そうかもしれない。そうでないかもしれない。
ディックがラテン語を勉強しているかどうかということとは関係なく、ランサム自身はラテン語をやっていたのだから、そのせいで、こういう台詞が自然に出てきてしまったということは考えられます。

ちなみに、この「モース、モーシアン、マーシアン」は訳出されていません。
「モールス、モールス人、火星人」と訳すことは可能ですが、日本語では意味をなさない。
悩んだ末、カットする道を選んだのだろうと思います。


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「ラテン語&キリスト教の祈り」に関する記事一覧
「アヴェ・マリア」の歌詞(ラテン語)及び、そのフランス語訳と日本語訳(文語体)
ラテン語の「こんにちは」
「アヴェ・マリア」の日本語訳(口語体)
「主の祈り」英語訳と日本語訳(文語体及び口語体)
「主の祈り」フランス語訳
ラテン語の格変化+ランサマイト向けネタその1
・ラテン語の格変化+ランサマイト向けネタその2(この記事です)

by foggykaoru | 2007-07-08 08:24 | バベルの塔 | Trackback | Comments(21)

Commented by リンゴ畑 at 2007-07-08 14:01
いよいよ最終章ですか!ガチガチに堅いはずのラテン語ネタを、これほど面白く料理されるとは…。毎日楽しかったですよ。明日からは何が始まるのかなあ?
もうすっかり、管理人殿のブログにハマってます。近くに住んでいらた、肩もんだり、お茶入れたりして、「早く続きを!」と騒いでいることでしょう。

でも、>Morse, Morsian, Martian.って字面を読むと、非常にありがた~く思いましたが、管理人殿のなぞ解きを読んだら、「な~んだ、オヤジギャグじゃん!」って感じです。神宮先生が、ランサムのオヤジな部分を無視して訳してくださって、ホントに良かった…。
Commented by ケルン at 2007-07-08 22:41
このディックのせりふ、ネタ大明神さんにいただいた原書の朗読テープを聴いてはじめて知りました。子どものときは訳文をそのまま読んでいましたが、今になってみると、「モールス→火星人」という連想がうっすらと無理やりだなと思っていたかもしれません。
でも、「ラテン語学習のおかげでそういうふうに唱える癖がついてるかも」というのは、鋭いなあ!
Commented by サグレス at 2007-07-09 08:26
ほんと、ラテン語でこんなに盛り上がれるなんて・・・。ランサマイトはやっぱりスゴイ(笑)。
火星人についてそんな言葉遊びをしていたとは、知りませんでした。確かにこれは訳しづらい。モース警部の方は、訳注でも入れてあればいいのに、もったいないですね。こんなのを訳すのはとても難しいことだとは思いますけれど、読者としては、やはり文章がきれいで、なおかつ必要な訳注が付けられるくらい学のある人に訳してほしいと思います。
Commented by AngRophile at 2007-07-09 10:06
morse, morsian, martian は、オヤジギャグでも何でもなく、一音節ずつ元の単語を変えていって、別の単語にするという、言葉遊びだと思います。本来は音ではなく、綴りを一字ずつ変えていくんだったかな。両方の作法があるのかも知れない。ちょっと調べてみようかな。
Commented by サグレス at 2007-07-09 18:31
AngRophileさん、それは「アナグラム」というのでしたっけ? いや、アナグラムはもっと大胆に入れ替えるんだったか・・・。英語はこういう言葉遊びが豊富ですね。アリスやプーさんにはてんこ盛りで出てくるし(訳者泣かせですね)。ミステリにもよく出てくるし。ヨーロッパの他の言語でも、同じような言葉遊びはあるのでしょうか。
Commented by リンゴ畑 at 2007-07-09 19:33
「オヤジギャグでなく、言葉遊び」とのご指摘がありましたが、すみません、オヤジギャグって、言葉遊びの一種だと思っていました。違うんですか…。皆さん、とても真面目な方ばかりだったんですね…。反省してます。ごめんなさい。
Commented by foggykaoru at 2007-07-09 21:20
リンゴ畑さん。
なにしろこのシリーズ。忘れないうちに終わらせなきゃ、ということで、大慌てで連載した次第。
これからはもうちょっとのんびり行きます。
音遊びというのは翻訳しようがないものが多いですからね。神宮先生も諦めちゃったんでしょう。
Commented by foggykaoru at 2007-07-09 21:28
ケルンさん。
私も実は、あの朗読テープを聴いて、初めて気付いたんです。びっくりでしたよ。
「モールス信号は知らない→ぼくたちにとっては火星語」という考え方にはそんなに違和感無かったんですけどね。

ねっ、ネタ大明神さんって鋭いでしょ。二人で族会員になろうかと思案中。
でも、族名が決まらない・・・。
メーンサ族ってのは、おこがましいし。なにしろこんな団体↓がある。
http://www.mensa.org/nationalinfo.php?country=27
動詞活用表族ってのは座りが悪いし。
ネタ大明神は「海賊」とか口走っていたけれど、それは違うし、別の意味でおこがましいし。
Commented by foggykaoru at 2007-07-09 21:31
サグレスさん。
訳注付けるには、翻訳者が正しく理解してなくちゃならないわけで。
りんご畑さんのレスにも書きましたが、音遊びは翻訳者泣かせでしょうね。
腕のみせどころでもあるわけですが。
Commented by foggykaoru at 2007-07-09 21:32
あんぐろふぁいるさん。
へええ、そういう遊び方、一般的なんですか?!
Commented by foggykaoru at 2007-07-09 21:33
サグレスさん。
アナグラムというのは、音の順序を変えるやつじゃないでしょうか。
Commented by foggykaoru at 2007-07-09 21:35
リンゴ畑さん。
これ、ギャグはギャグですよね。
オヤジというのは、オヤジが口走るギャグ?
サガ書いてるとき、確かにランサムはすでにオヤジでした(爆・爆)
Commented by むっつり at 2007-07-10 07:02
言葉遊びって訳するのは至難の業ですよね
ストーリーに重大な関係が無ければバッサリと切り捨てるの方法ですよね
アガサ・クリスティーですけれどハヤカワミステリーでは、いきなりネタ晴らしの訳を苦し紛れにしていたのを微かに覚えています
Commented by AngRophile at 2007-07-10 11:37
りんご畑さん、

いえいえ、あやまらられることなんかありませんよ。
「オヤジギャグ」というのは、レベルの低いしょーもないものだけを指すと思ってるんですが、世間では違うのかな?

英語は言葉遊びが豊富です。他の外国語は知りません。
パリンドローム(回文)、タントゥイスター(早口言葉)、スクラブルもそうだし(道具がいりますが)、昔、会社にやってきたベルリッツかどこかの講師は次のようなゲームを紹介してくれました。

みんなで輪になって座る。
一人ずつ順にアルファベット一文字を言って、前の人に追加する。
最終的に4文字以上の単語を作ったら終わり。
ただし、終わらせた人が負け。

たとえばこんな感じです。
Aさん「S」
Bさん「SC」
Cさん「SCE」
Dさん「SCEN」
Eさん:Eと言ったら負けなので、うんうん考えるが降参。
Fさん「SCENA」

一同きょとん!
Fさんは SCENARIO と完成させ、確かにそういう単語があることを証明する。
Commented by AngRophile at 2007-07-10 11:39
「あやまらられる」なんて書いちゃいました。

わたしの舌がねじれてしまったのか!
Commented by foggykaoru at 2007-07-10 21:57
むっつりさん。
推理小説の伏線に音遊びが使われていたということなのですね。
翻訳者にとって苦しい選択だったことでしょう。
Commented by foggykaoru at 2007-07-10 21:59
あんぐろふぁいるさん。
フランス語の言葉遊びって何があるんだろう・・・?
スクラブルのフランス語バージョンはあるときいてます。
QやZの得点はひじょーに低いのだそうな。
Commented by ゆきみ at 2007-07-10 23:05
フランス語の言葉遊びって、「シャレード(?)」しか知りません。しかも、例もひとつしか知らないんです。
「私の一番目は、貴金属。(→or 金)
私の二番目は、天国の住人。(→ange 天使)
私の全部は、おいしい果物。(→orange オレンジ)」

ところで、dieuが大文字から始まるのは、「唯一全能の神」を示すときだと思います。
Commented by Titmouse at 2007-07-11 21:29
その言葉遊び、1字ずつ変えるのはダブレットというのじゃないでしょうか。ルイス・キャロルが考えたという・・・。http://www.torito.jp/puzzles/205.shtml
1音節ずつだとちょっと違いそうですが。
前にARC会報でランサム・ダブレットを考えた人がいたのを思い出して見つけました。
Commented by foggykaoru at 2007-07-14 22:05
ゆきみさん。
>dieuが大文字から始まるのは、「唯一全能の神」を示すとき
そうか。じゃ、キリスト教関連のときは大文字にしておけばいいんですね。
Commented by foggykaoru at 2007-07-14 22:06
Titmouseさん。
>ランサム・ダブレット
ランサム百人一首以外にも、いろんなことをやってる人がいるんですねー
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