人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ヨーロッパ物語紀行

「アン・シリーズ」の翻訳も手がける松本侑子氏による文学作品の舞台をめぐる旅。

その内訳は「ロミオとジュリエット(ヴェローナ)」「ローマの休日」「フランダースの犬(アントワープ)」「カルメン(セビーリャ)」「エル・シード(バレンシア)」「みずうみ(フーズム)」「エーミールと探偵たち(ベルリン)」「点子ちゃんとアントン(ベルリン)」「エーミールと三人のふたご(ヴァルネミュンデ)」

ケストナーの3作品が入っているのが、この著者らしいなあと思って読んでみた。

このラインナップを見て、興味を惹かれる人には楽しめるはず。

でも、私個人としては、この手の旅はすでに自分でやっているのだということを再確認しただけのことだった。わざわざ他の人が書いた紀行文を読むまでもなかった・・・

第一、知っていることが多すぎる。
「フランダースの犬」の裏話あたり、初めて読んだら「目からウロコ」なんだろうけれど。
ケストナーの出生の秘密のことも書かれている。知っていたけれど、ここまで明言している文章は初めて読んだ。ドレスデンのケストナー博物館の案内係氏は、このことについて触れなかったが、なぜなのだろう? そこまでケストナーをあがめ奉っているのか? それとも、確証が無い噂にすぎないのだろうか? あのとき、「ケストナーの出生について、こういう話を聞いたことがあるのだけれど」と、案内係氏に訊いてみればよかったと、今にして思ったりする。
(私のケストナー聖地巡礼記はこちら)

というわけで、私にとって一番面白かったのは、筋は知っているけれど、ちゃんと読んだことがない「カルメン」。なんせ、フランス文学はあまり得意でないので。
カルメンがロマ(俗称ジプシー)の女性だということは知っていたが、ドン・ホセがスペイン北部の町ナバーラ出身で、バスク人だということは知らなかった。そして作者はメリメ。これはフランス人。スペインを侵略したナポレオンの国の人間。しかもセビーリャはナポレオン軍の攻勢に対し、一番よく闘った「英雄都市」なのだそうだ。
だから、「カルメン」はロマ、バスク、スペインそれぞれの人々に、複雑な感情を抱かせる作品なのだそうだ。

唐突に「ツボ」だったのは次のくだり。
日本でも日露戦争のころは、「カサビアンカ」が愛唱された。これは、ナポレオン戦争の中、ナイルの海戦で、フランス海軍の軍人カサビアンカと十代の息子が、勇敢にたたかって重傷をおい、燃えさかり沈没する戦艦オリエントとともに壮絶な死をとげる軍国的な詩だ。
この詩は「カルメン」との関連で触れられているにすぎないのだが、松本侑子氏がランサムをよく知っている人だということを思うと、それ以上のことを勘ぐりたくなってしまう。(それにしてもフランス人だなんて信じられない。実に変わった名前だ)

松本氏による「ツバメ号とアマゾン号」のレビューはこのサイトで読めます。

この本に関する情報はこちら

「カサビアンカ」という名前に関する考察はこちら

by foggykaoru | 2007-10-16 21:46 | 児童書関連 | Trackback | Comments(12)

Commented by リンゴ畑 at 2007-10-16 22:05 x
ホセがカルメンシータに惚れるきっかけは、確かロマの彼女がバスク訛りを使ったことじゃなかったかなあ?ロマなら放浪しているので、いろいろな訛りで話せることを、純情なホセは知らなかった、とされていました。
スペインは言葉だけでなく、ケンカのときのナイフの構え方も違うらしく、ホセがカルメンの浮気した相手を「ナバーラ式の構えで刺し殺してやる」とか言ってましたよ。腿にピッタリと当てて構えるのがナバーラ式だとか。
メリメの文章が、ちょっとバスク人を田舎者扱いしていたようなので、気になっていたのですが、かおるさんのブログを読んで納得しました。そうだったんですかあ。
Commented by ケルン at 2007-10-16 22:46 x
「他のものがみな逃げさりし
 燃えさかる甲板に少年は立ちたり」

ああ、よみがえる大おばさんの楽しいお茶会(笑汗)
Commented by サグレス at 2007-10-17 07:30 x
おや!カサビアンカは日本でも愛唱されていたのですか!ちっとも知りませんでした。本当にフランスと思えない名前ですが・・・。スペイン系かと思っていました。

カルメン、原作は読んだことがありませんでした。読んでみよう。オペラの方は、例えばハバネラなんか歌ってみたいなぁと思うのですけれど、私は色っぽいドラマティックな歌が下手くそなので、どうにもなりません(涙)。
Commented by むっつり at 2007-10-17 07:52 x
点子ちゃんとアントン…題名だけは覚えていますが、内容を覚えていません
ロマは大抵の文芸作品ではこそ泥の詐欺師としか描かれていませんね
流浪の民ゆえの扱いですね
Commented by foggykaoru at 2007-10-17 20:21
リンゴ畑さん。
「カルメン」はオペラのほうも、スペインに1回も行ったことがないフランス人ビゼーの作曲なんですよねー
バスクもロマも少数民族だから、長いこと軽んじられてきたんでしょうね。
Commented by foggykaoru at 2007-10-17 20:22
ケルンさん。
その少年の名前はジャンなんでしょうか、それともピエール? アンリ?(爆)
Commented by foggykaoru at 2007-10-17 20:23
サグレスさん。
ほんと、日本でも愛唱されていたなんてびっくりです。
ということは、神宮訳以前に定訳があったということですよね?!

カルメンはアルトだから、サグレスさんの音域にはぴったりじゃないかしら。
Commented by foggykaoru at 2007-10-17 20:25
むっつりさん。
「点子ちゃんとアントン」、私はドレスデンに行って帰ってきてから、「聖地巡礼記」を書くために、大慌てで読んだんです。
ケストナーは「探偵たち」がいちばん好きかなあ。
Commented by 紫光 at 2007-10-17 21:37 x
ケストナーは子供の頃「五月三十五日」が一番好きでした。
あっ、題名合っているかしら?
Commented by サグレス at 2007-10-18 07:24 x
かおるさん、
オペラのカルメンの音域はいいんです。でも私にとって大問題が! 色気です、色気! カルメンにふさわしい色気なんて、逆立ちしたって出ないよう(泣)。
Commented by foggykaoru at 2007-10-18 20:57
紫光さん。
題名合ってますよ。
私は大人になってから読んだのですが、わりと気に入りました。
突き抜けた感じと言いましょうか。
どっちかというと湿っぽいところがあるケストナーの児童書としては、珍しいタイプのような気がしました。
Commented by foggykaoru at 2007-10-18 20:59
サグレスさん。
色気ねえ・・・。そりゃそうだ。普通の人にはできませんて。
あんな魔性の女を演じられるんだったら、とうの昔に女優になってる?(笑)
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

<< 「カサビアンカ」に関する一考察... 天国からのメッセージ >>