「宮廷画家ゴヤは見た」観ました。
2008年 10月 13日
でもねえ。もうちょっとなんとかならなかったのかしら。
高校の世界史の授業で、スペインという国は、レコンキスタ、そして大航海時代のいっときスポットが当たり、そのあとは第二次世界大戦中に「スペイン内戦」というものがありました、、、とだけ習っておしまいです。
というわけで、観たあとでにわか勉強しました。以下はそのまとめ。
ゴヤ(1754~1828年)が活躍したのはフランスが革命で大騒ぎしている時代のスペイン。
スペインの悲劇というのはハプスブルク家のカルロス1世(=神聖ローマ皇帝カルロス5世)以来ずっと、スペインにまったく興味のない国王たちに治められたことにある、とどこかで読みました。ゴヤ関係をちょこっと調べてみたところ、実際、内政はまったく顧みられなくて、一般のスペイン国民にとってほんとうに権威があるのはカトリック教会だけだったらしい。
で、スペインの教会は、他の国では中世で終りになった「異端審問」をずーっとやっていたんだそうです。
というわけで、ナタリー・ポートマン(←こないだはアン・ブーリンだった(苦笑))演じる美しい娘がいきなり呼び出されて、生き地獄に送り込まれるのです。
そうこうしているうちにフランスで国王がギロチンにかけられたんですってさ、うわー大変!!と言っていたら、なんとナポレオン軍が攻めてくる。
スペインにおけるナポレオン戦争というのは1808年から1814年まで、6年も続いたんですね。。。知らなかった・・
でもナポレオンの野望はイギリス軍(正確にはポルトガルとの連合軍)によってくじかれる。
王室が復権する。
もともと人気があったわけじゃないのに、フランスが出て行ったということで国民は大喜び。
カトリック教会も復権する。
イギリスのおかげで。
面白いなあ。
レコンキスタ以降、カトリックの一大拠点であったスペインが、カトリックに喧嘩売って出て行ったイギリスに助けてもらうんです。
まあ、当時のヨーロッパでは、ナポレオンは悪魔ですから。
無能な国王だろうが、強権ふりかざす教会だろうが、ナポレオンよりはましってことなのでしょう。
でも、ナポレオンにもチャンスはあったらしい。
彼の失敗は、「スペインなんてフランスの属国みたいなもんだ」と馬鹿にしてかかったことなのだそうです。そのへん、兵士たちに「今、われわれの眼の前には4000(だったかな?)年の歴史がある」と語ったというエジプトとは正反対。もうちょっとうまくやったら、王室に対する失望感を抱いていたスペイン人が少なくなかった---ゴヤもその一人だったらしい---のだから、もうちょっとなんとかなっただろう、と手元の本に書いてありました。
スペインはフランスのことが好きではなくて、むしろイギリスに好意的だということも聞いたことがあります。
確かスペインは、イラクの多国籍軍(実質的には米英連合軍)にも、ヨーロッパの他の国々よりも積極的にかかわっていたんじゃなかったでしょうか。
そのへんの根っこはナポレオンに対する恨みにあるのかも。
そのあたりもエジプトとは正反対。エジプトは今もけっこうフランス好きです。ぶんどられたオベリスクが今もパリのコンコルド広場にあるというのに。(単にイギリスが嫌いだからその敵だったフランスが好き、ということかもしれないけれど。)
日本のWikipediaによると、異端審問がいくらスペインで長く続いたとはいえ、18世紀末にはそれほど行われていなかったらしいです。
でも、まったくなくなっていたわけではない。
ゴヤ自身もちょっと危ないときがあったとか。
でもナタリーみたいなお嬢さんがあんな目に遭うというのは、時代的にはあまり合っていないのかも。
ですが、ついでにスタッフやキャストのことも調べてみたら、監督のミロス・フォアマンと、ナタリー・ポートマンはユダヤ人なのでした。
だからこういう映画を作ったんだ、と決めつけてはいけないかもしれないけれど、そう思いたくなります。
この映画は傑作です。
「ブーリン家の姉妹」よりずっと上質。なにしろあれは「大奥」ですから・・・
でも、日本で受けるのは、断然「ブーリン家」のほうでしょう。
キリスト教国では議論が巻き起こったり、忌避する人が少なくないかも。
そのぐらい、キツイ内容を含んでいます。
この映画の公式サイトはこちら
by foggykaoru | 2008-10-13 19:11 | 西洋史関連 | Trackback | Comments(8)

ゴヤ自身も魔女に関する絵画を描いていますし(黒い絵)…
それと内戦
あのローマ帝国でさえてこずったゲリラ戦発祥の地です
華やかなフランスと違ってスペインには重苦しいイメージがありますね


ナタリー・ポートマンは顔見ているだけでもわりと好きな女優さんですが、監督がミロシュ・フォアマンかぁ・・・なんというか、ねっとりと濃い作品ではありませんでしたか。(この監督でちょっと腰引け気味)・・・いや、これは好みの問題で、この監督の作品は完成度高いはずですよね。

19世紀初頭までスペインで異端審問が行われていた、というのは、今年になってスペイン文学の先生から聞き、おったまげました。何でも、逮捕投獄されたら命は絶対にないのだそうで、異端(=異教徒であること)を認めたら絞首刑のうえで火あぶり、認めなければ生きたまま火あぶりだったとか。(だから認めてしまった方が、いくらか楽みたいです)
この映画の設定ではちょっと違っているようですね。時代によっても審問のシステム(っていうのかなぁ)が違うのかもしれませんが。
「ゲリラ」という単語は、このナポレオン戦争のときに生まれたのだそうです。
スペイン人民がフランス軍をかきまわしたとか。
内戦は、、、何が何だかわからないです。
>華やかなフランスと違ってスペインには重苦しいイメージがありますね
同感!
レコンキスタ以前、スペインにいたイスラム教徒は寛容だったのに。
世界史の本を読んでいると、キリスト教よりもイスラム教のほうがいいのではないかと思ってしまうことがままあります。特にイベリア半島に関しては。
実をいうと私もおっかなびっくり見に行ったんですが、予想していたほどはドロドロねっとりした感じはありませんでした。
そのあたり、やはりアメリカ映画です。この場合はそれが救いになったかも。
こういう題材でスペイン人が映画を作ったら、そのドロドロさ加減はこんなもんじゃないだろうと思います。